始めての家族の食卓
「お米があるの?」
縄を作った時に、見た目から麦では無いと思ってはいたが、目覚めてから、フランスパンっぽいの以外食べた事無かったからお米は作らなくなったと思っていた。
「私の実家がある領地で作っているのよ」
「バーレントは水源地だからな」
「でも、米粉は、ここではあまり使わないのよ」
夕食は、いつもより少し遅めではあったが、4人と人数も多く賑やかな食卓となっていた。
「炊かないの?」
「「炊く?」」
前は、普通に定食屋とか牛丼屋とかあったけど、お米を炊かないのなら今は無いのか………………なんてもったいない!
「粉しか無いの?粒のままのお米は?」
「粒は、領地に行けばあると思うけど」
こんな事なら米とか調味料とかストックしとくんだった。今までは、食にこだわりが無かったから何も言わなかったけど、ご飯と醤油味が食べたくなってきた。
「アイは料理にも詳しいのか?」
「さしすせそ…くらい?」
「さしすせそ?」
「さが、砂糖。しが、塩。すは、酢。せが、正油。そは、味噌の順番に調味料を入れるって教わりました」
「酢?正油?味噌??」
え?まさか、和食必須の調味料を知ら無いの?
「料理出来る?」
「シア兄、料理というか…ご飯におつけ、お新香と煮付か煮物ぐらいなら用意した事あるってだけだよ」
「まぁ、お香って食べれたの?」
「!!違っ、香では無く、漬物です」
「??名前が代わるの?」
ありゃ?………フレンチに漬た物ってなかったっけ?
「えっと、おつけは、味噌と言う味のスープで、塩気が強いです。お新香は、野菜を塩等で漬けて発酵させた品で、煮付けと煮物は、醤油で野菜や魚等を煮た品…醤油も塩気が強い調味料です」
「想像がつきにくいな」
そりゃね、食卓に並ぶのは西洋料理…フレンチっぽい感じだもの。はぁ、イタリアンなら米も食べるのに。
「米粉は食して無かったのかしら?」
「いえ…………………おやつでなら食べてました」
「まぁ!お菓子ね!?是非お茶会で出したいわ」
「お茶会!?」
「どんなお菓子になるのかしら?楽しみね」
え?お茶会って………パーティみたいな感じでいいんだよね?
「無理!無理です!!」
「あら、どうして?作り方分からない?レピシがあれば我が家の調理人が作ってくれるわ」
「素朴すぎてパーティにはあいません」
「あら、案外新鮮かも知れないわ」
マジかぁ?
「小麦で作れる物なら作れるから、別に私が知ってるのを作らなくても」
「その言い方、米粉独自のお菓子って事でしょう?流通高の可能性があるなら知りたいわ」
可能性ねぇ………下を向き悩んでいる私の頭を優しく撫でてくる暖かい手に顔をあげた。
「シア義兄…様?」
「……ん」
シア義兄は、言葉は少ないけど、人の感情に敏感だ。私が困ってるの気がついてくれた。
「購買率が上がると思えないけど、作り方曖昧なので、試作してみて大丈夫だったらでもいい?」
「ええ、十分よ。料理人には言っておくわね。試作段階から指示はお願いしても良いかしら?材料で必要な物は…タリス」
壁際に立っていた1人の女性がこちらに歩いてきた。赤みかかった茶色い長い髪をポニーテールでまとめたシア兄より少し歳上ぽい女性。切れ長な目のせいか制服のせいなのか、男性ぽく見える。
「今日からアイシェルの護衛として傍にいるから、彼女か部屋付きのメイドに言ってね」
「護衛!?」
「一人になっては駄目よ?何処か行く時はタリスと一緒に出かけてね?」
「そんな仰々しい」
「懸念回避」
シア義兄まで………私そんなに危なかっしい?
「領地の大工に連絡を取った。着き次第、こちらも任せていいか?思ったまま、失敗も気にせず好きなようにしてくれてかまわない」
「あ……………はい」
ついでに、記憶が曖昧だけど、気になる物も作って貰えると嬉しいかも。
「そう、そう明日は、前祭で聖女が来るのよ」
「へぇ凄いですね」
話題を変えようとしてなのか?おしゃべりが好きなのか?義母様が話し始めた。
「ええ、聖女は特別な称号で殆ど居ないから」
ん゛ん?称号??
「前回は、確か………50年前だったかしら?」
「ちょっと待って!神聖者は、特殊だけど職業ですよ?」
「神聖者!?いや、聖女は職業なのか?」
「はい、薬師、僧侶、治癒師、盾師の2、4、8、16、32、64、のレベルの人が複合で成れる特殊職です」
「まさか、ア…………………………………………」
「2職の特技を同時にレベル上げするのが面倒くさくて、やる人少ないから、女性を聖女、男性を聖人と呼ぶだけで称号では無いです」
私だって突撃討伐隊が居なければ、こんな面倒な職業、絶対やんなかったよ。って義父様なんか言いかけてた?
「聖女は精霊の代弁者と言われいるのだが」
「代弁でなく、精霊に意志を伝えられるだけです。エルフの意思疎通と違い一方通行なんで、相性が良い精霊が近くに居ないと聞いてもくれません」
気付けば、食事はみんな食べ終わっていた。早い!やっぱり箸作った方がいいかも、どうもナイフとフォークは使いにくい。
「まぁ、凄く詳しいのね。アイシェルは、他の職業もやってたと聞いたわ。だからなのかしら?でも、そんなに早く上げられる物なのレベルって?」
「シリィそれはだな………」
「ああ゛ーそれは、回復薬の過剰摂取で、モンスターハウス攻略しまくって転職繰り返してたんです」
「「!!???」」
あ゛、また義父様とかぶっちゃった。何言おうとしてたんだろう?
「モンスターハウス?」
「はい、えっと、ダンジョンで際限なく魔物が襲ってくる隠し部屋です」
「そんな危ない事していたの!?」
したくてしてたんじゃなくて、強制連行されていたんです。
「直ぐ出れるのよね?」
「いえ、入ったら全滅か全討伐以外出られません。そのダンジョンに出る全モンスターが、種族別に…弱いと大量に、ボスクラスは部屋に入った人数分出てきます」
「危険過ぎる」
「そうなの、シア義兄!四方から攻撃されて、上級回復薬が数分でいくつも無くなる地獄なんだよ!」
普通、迷宮は攻略を目的に入る物であって、レベル上げ目的で行く場所では無い。
「難しい」
その通り、買えば結構なお値段になる上級薬を湯水のように使う人は居ないのだから………ふぅ、お腹いっぱい♪ムースが美味しかったです。ごちそうさまでした。
「!?」
えぇー義母様なんで泣いてるの?っと、シア義兄も抱きしめながら、なんで頭撫でているの??
「あ゛ぁ、社交期間中じゃなければ、いっぱいお出かけ出来るのに………………終わったら領地で静養しましょうね」
「夏休み帰る。一緒に居よう」
なんだか分からないけど、労られてる?確かに大変だったけど、遊んでただけですよ。
「さて、お前達分かっていると思うが、ここで聞いた事は他言無用だ」
義父の言葉に、壁伝いに並んで立っていた使用人が、一斉にお辞儀をした。
「さてアイ、私は文字など常識的な事を学ぶように言った。実際、君は良くやっている。そして今のように、我々が知らない事を教えてくれる」
あの、義父様?顔が怖いです。気付けば、シア義兄が手を握って目線を合わせてきていた。
「素直でとても良い事なのだが、今は、保守的な者が多くてな、特に教戒は魔闇障以降その傾向が強く出ている」
「聖女は教戒のシンボル的な存在なのよ」
教戒ねぇ………読んで字の如く、教えを戒める、諭す、警戒、管理、監視。ある意味、警察みたいな役割をもってた規律団体だ。
一応、保険はかけといた方が良いかも?そう思い、空間収納から小さなボタンを取り出し、ぎゅっと握りしめた。
「教戒で聖女認定受けると所属になりますからね。万能薬なんてえげつないほど高く捌くんですよ?回復は通常の3倍の値段………なのに、ノルマは多いいと聞いて、馬鹿らしくて所属絶対無理だと思いました」
「万能薬!?そんな物があるのか!!」
「教戒が独占管理監視してました。自身が使うのは大丈夫なんですが、流通や譲渡などは処罰対象って事でした」
気を付けろ、信徒が潜む、この時も。そんなスローガンがあるくらい信徒は何処にもいると言われていた。
「今は術法薬全てが教戒販売対処だが、譲渡は含まれていないな」
「な!?薬局ないの?」
「処方薬なら売っている」
通常、手に入らない万能薬。病気は、対処療法で処方薬を用いて治療するのが一般的だ。
「アイ、その………教戒は今もこの事を知っていると思うか?神聖者の事も?」
「結界は神聖者の技能ですからね。聖堂を………魔なんとか?からも護られたと思いますもん」
義父様と義母様が、蒼白な顔で凝視してきた。正確には、シア義兄を不安そうに見つめていた。
「あ゛あ……多分、平気…大丈夫です!治癒は女性なら巫女として、教戒の看板娘的な存在でしたけど、男性は僧侶がその立場で………イメージを崩す事はしないはずです…多分」
立場のある人物とは事を荒立てたく無いと思うし、下手な事はしないはずだ。私の場合、見た目が虐めてるように見られてて引き下がってたな。あれは見てて愉快だった。
「例え、聖人になっても気づかれなきゃいいんです」
「職業認定は教戒が一手に引き受けている。他で認定式は無い」
え?マジで?なるほど、多分、知る人々が減ってった事で、都合のいいように変えていったんだ。好き勝手し過ぎでしょう。
「今後は人前で空間収納は使うな。必要な物は、収納鞄に入れて持ち歩く、もしくは侍女に預けるように」
「お願いねアイシェル。貴方の身を守るためでもあるのよ」
まあ、それだけ教戒の力が強ければ、警戒するのも当然かもね。
「わかりました」
「それと、隠者は戦闘系なのか?」
謎すぎる隠し職、隠者。
「さぁ?でも複合職ではあるはずなので、討伐はしてみたいです。分からないなりに試したくって」
「………………そうか」
「討伐は、登録ないと難しいですか?」
「もう少し………カードの方も、もう少しだけ待ってくれ」
「いえ、無理を言ってる事は分かってますので」
握っていたボタンを再度握りしめ、少し冷めてしまった食後のお茶をゆっくり飲んだ。




