図書館2
室内に泣き声が木霊する。
なに、なに、なに……恐いんだけど…幽霊とか今まで遭遇した事無いのにぃ…また、来る予定あるのになんで?……右側視界隅に、ぼんやりと揺らいだものを捉えた。
ヒッ!……………………なんかいる!?
意を決して振り向くと、鏡に映る幼女の姿があった。
子供のお化け……………………って私か?
淡い黄色の髪に緑の瞳。鏡に映った自分の姿を初めて見た。ルイ兄が思い描いた姿で見てはいたが、改めて自分で見ても実感が無い。
「ルイ兄、シア義兄とは似ても似つかないよ」
左手の腕輪を見る。常時発動型って構築が繊細で創るの面倒くさいんだよね。
魔道具は作成にも使用にも魔力が必要不可欠で、常時発動型は少量の魔力で持続出来るように出来ている。
但し、例外的に魔力も無く発動する物も存在する。精霊の加護を宿した物、エルフが授ける輝石具。私の指に嵌めた言語通訳……精霊と精通しているエルフだけが作れる魔具だ。
啜り泣きは泣き止む事も無く続いている。意を決して泣き声のする方へ脚を進めた。
窓も無い広い図書室。反響して場所が定まらない。本棚を背に気をつけながら進むと、膝を抱え頭を膝につけて泣いている子供が縮こまって座っていた。
指先で腕を突っついてみたら、ビクッっと身体が反応した。良かった!生きている人だ。
びっくりしてか?泣き声は止まっていた。子供は怯えながら此方に顔を向けてきた。赤みかかった茶色の髪、潤んだ深い青色の瞳が私を見つめてきた。
「どうしたの?」
隠者の育成に必要な本を求めて来た場所に、なんでこんなに小さい子供が居るんだろう?
「だ……ひっく…だあれ?」
それはこちらのセリフです。男の子だよね?随分可愛いい顔してる。
「アイだよ。君は?」
「リ…ひっく……ズミ…エル」
「……………………エルね」
「ひっく…………リ…」
「ねぇエル、どうして泣いてるの?どこか痛い?」
しゃがんで同じ目線で、ゆっくり話しかけてみた。エルは首を左右に振った…これ否定だよね?
「ぼく、剣の…ひっく…職業もら……えな…かった」
職業授与って10才からって言ってよね?エルって少なくとも10才以上か。
「剣術好きなの?」
「…………………………」
長い沈黙の後、首を左右に降って否定した。
「剣じゃ…ひっく…なきゃ、お兄様の役に立て…ない」
「お兄さんの役に立ちたくて剣の職業が欲しかったの?」
「…………………………うん」
「何を授かったの?」
「重力師」
また珍しいものを……よっぽど相性が良かったんだね。
「良い職業だと思うよ?絶対、お兄さんの役に立つようになるよ!」
「物を重くするだけ…役立たず」
「そう、重くする。つまり対象は自分自身も含まれるんだよ!」
「……?」
エルの右手に触って重力魔法を発動した。
「!!?」
エルが右手を床につけて倒れてしまった。レベル1だから、たいした重さになって無いはずだけど、子供には重かったか。
「自分に負荷をかける事で、効率的に身体を鍛える事が出来るんだよ?」
このままでは可哀想なので、重力魔法を解除した。
「もちろん、剣とかにも負荷かけて振る事で素早く振る事が出来るようになる。レベルが上がれば重さは増してくし、自分自身を瞬時に重くして重い剣を振る事も出来る」
「……………………」
唖然として私の言葉を聞いていた。
「エルの努力しだいで強くなれるよ。絶対!だから頑張れ!」
「役に……たつ?」
「うん!」
よっぽど、お兄さんの事が好きなんだ。可愛いいなぁ♪けど私、重力師になった時、こんな所来なかったけど?ここって一体何処なんだろう??
ハンカチを小さな水球で濡らし、エルの目頭にあてながら回復魔法をかけた。
「少し冷やしといた方がいいね。落ち着いたら帰るといいよ」
転送魔法は、距離によって時間が伴う。義父様に昼までって言われてるし早く帰ろう。
「じゃあね」
「え?」
カードを手に急いで来た道に戻った。
「待って」
後ろになんか言ってるけど、それどころじゃない!
光りが導くまま行くと、景色が変わり元の図書館へ帰って来た。
「今、何時だろう?」
時間が気になりながら、数人と擦れ違い受付へ向かう。うっ、5階は遠いよぉー、1階まで降りると義父様が検索機の前で待っていた。
「お義父様」
「アイシェルもういいのかい?」
「はい、文字も読めないし、量が多すぎて図解で分かりやすそうな本も探せませんでした」
「……そうか」
義父様は目線を合わせるようにしゃがんで、手を握ってゆっくり話し出した。
「今日は、シア達も居るし、時間も無くてすまないね。また、少しでも文字が読めるようになったらゆっくり来よう」
全然悪くないのに……小さな子供に言い聞かせるように話すね
……………って、私小さな子供だった。
「今日は絵本でも見ていこうか?読んであげよう」
「うん!」
図書館では、本の貸し出しはしていない。ゆっくり読めるようにと閲覧室とカフェテリアが1階に設置されている。
本には時間停止の処置が施されている。本単体で施されているのではなく、館内全体で発動するようになっている。
「何か飲むかい?」
「ん…………と、ミルクティ」
飲み物を飲みながら本を読めるなら、そんなに離れた場所じゃ無かったんだ。良かった。
片手で飲み物を置いたトレイを持ち、私と手を繋ぎながら閲覧室に向かう。
「本を持ってくるから少し待ってなさい」
事前に検索していたのだろう、義父様はカードを見ながら本を取りに行った。
丸い机に円筒状の椅子。図書館は、全て丸い形状になっている。なんでも全体的に魔法をかかりやすくする為に、そうゆう造りになっているそうだ。
義父様が持って来た本は、文字が少ないスタートブックのような幼児用の本と、エルルの……精霊女王の物語だった。マジか、エルル神聖化してるじゃないか……………なまじ昔の姿を知ってるせいで、下手にエルルの事を言えなくなった。
昼近くになって、シア義兄達が帰って来た。
「みんな戻って来たから、本返してくるよ」
「待って!お義父様」
「?」
「受付に渡せば返してくれるよ……多分、変わってなければ」
「!!」
制度が同じなら返却も司書の仕事だ。閲覧室が1階しか無いので、頼めば返却してくれる………とは言っても実際そうか分からない。
「私が行って来るよ」
まあ、子供なら間違っても諭されるかもしれないが、怒られることは無い。
「お姉さん、ご本…お願いします」
義父様に何か言われる前に本を持って受付の机の上に置いた。
「返却ですね?お預かり致します」
「ありがとうございます」
受付嬢に御礼を言い、にっこり笑って義父様達の所に戻った。
「………返却してくれるのか」
ああ、これも知らないんですね。道理で閲覧室が空いていると思ったよ。もしかして、その場で読んでいたの?利用者少ないわけだな嘆かわしい。
「本を読めるって凄い事なのに勿体無いね」
「そうだな」
馬車は門を通り反対側の西門の方へと走らせた。西門の近くに木材で造られた校舎が見えてきた。
「じゃあね、アイ」
「またな」
シア義兄は別れを惜しむかのように、ぎゅっと抱きしめてから義父様の隣の席に座らせてくれた。窓の外を見るとルイ兄達が手を握っていた。
「お腹空いたか?屋敷に準備してある。もう少し我慢してくれ」
「大丈夫、義父様これ」
前は、身分証明にもなったギルドカードを手渡した。
「本たくさんあったし、読めるようになったら行く事にする」
「そうか」
字が読めれば量があろうと、速読の技能でなんとかなる…と思うし、レベル上げは暫くお休みしよう。
「なら、預かる」
色々と痛感した、お出かけだった。




