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美少女JKが俺に恋を教えたいらしい  作者: Taike
第三章「勘答し、完答す」
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かみそうこう

 木陰で軽く休憩を取った後、俺は神楽坂に連れられて学祭の出店ゾーンに移動することに。 


「焼きそばいかかがっすかー!!」

「チーズケーキ、いかがですかー?」 

「今ならカキ氷、安いよー!!」


 セミの合唱に人々の喧騒が加わり、出店ゾーンは想像以上に不協和音だった。元来、俺は耳が良すぎるので人込みは苦手なのである。つーか、普通にむさくるしい。


「わー! すごーい! 本当のお祭りみたいにお店がいっぱい! ねぇ、センセ! どこいく? どこいく?」


 だが、しかし。勝利の女神から見捨てられた俺に、この場から退散するという選択肢は無い。今できることといえば、それは無邪気にはしゃいでいる隣の勝者に従うことだけである。


「しかしまた、随分と楽しそうだな」

「ふっふっふ。恋愛教師として女心を教えてあげるなんて言ったものの、今まではセンセーが勉強教えるターンばっかりだったからね。やっとアタシの番が回ってきたんだもん。そりゃあ楽しみだよ」


 どうやらこちらの想像以上に恋愛教師様は気合が入っているらしい。瞳に炎を宿らせ、拳を握って「フンス!」と意気込んでいる。


「と、いうわけで! 今日センセーにはアタシと一緒にデート練習をしてもらいます。舞台はお祭り。設定は無難に初デートということで。準備はおーけい?」

「ああ、OKだ」


 無論、本音を言えばOKなわけがない。いきなりガチのデート練習と言われて「はいそうですか」と受け入れられる無抵抗ボーイが居るなら、今すぐここに連れてきてほしい。報酬としてJKとのお祭りデートをプレゼントしてやろう。

 本音はOKではない。だが、ここではOKと答えるしかないのだ。ノットOKと答えようものなら、また神楽坂がダダっ子イヤイヤモードに突入するのは目に見えている。


「はい、センセーのそういうところがダメー!」

「何事!?」 


 デート練習スタート直後。一分と経たぬうちに、ダメ出しを喰らった。


「お、おい。俺、今何か悪いことしたか……?」

「いーや、何もしてないよ?」

「ならなぜにダメ出しを?」

「ん? 何もしてないからダメなんだよ?」

「……俺にも分かるように説明してほしかです」


 教えられる側に立って、改めて気づいた。的を射ない説明ほど不可解なものは無い。


「はぁ、やれやれ仕方がないなぁ。センセーのために先生が解説してあげるね?」

「その一人称やめろ。ややこしいことこの上ない」


 と、些細な反論をしてみたものの。全く気に留める様子の無い神楽坂は「コホン」と咳払いをすると、


「女の子がいつもと違う格好をしてるのに何も褒めない。テンションを合わせる素振りも見せない。このままだと、センセーが本気で誰かを好きになった時に後悔するかもよ?」


 陽気な表情が一変。珍しく、俺を優しく案じるような表情を浮かべていた。


「え、なに? なんで俺心配されてんの?」

「よし、センセー。まずは女の子を褒めるところから始めてみよ?」

「おい、待て。なんかすっげぇ失礼な哀れみを向けられている気がするんだが?」


 目が「あ、この人ホントにデートしたことないんだな」と言っている。事実なだけに余計に拍車をかけて腹が立った。


「恋も受験と同じで実践演習が大事なんだよ。というわけで、第一問。アタシの今日の服装をイイ感じで褒めてみてください」

「服装、ねぇ……」


 言われた通り、頭から足先まで神楽坂を一瞥してみる。


 身に纏っているのは柄も無くシンプルな白のワンピース。だが、少女らしい清楚感が出ていて個人的に嫌いじゃない。少しかかとの高い靴を履いているせいか、目線は普段より近く感じるな。今日はやたらと髪から反射光が出ているように感じていたが、なるほど。正体は、この小さいアクセサリーだったのか。細部まで気を遣っているのは、神楽坂らしい繊細さを感じる。加えて今日はいつもより唇にツヤがあるように感じていたが、リップを塗っているのだろうか。それだけでこうも印象が変わるものなんだな。素直に感心だ。

 あとは、そうだな。さっきから神楽坂の顔が妙に赤くなっているような──


「あ、え、えと、その、センセー、で、出てる……」

「ん? 何が?」


 もしやと思い、社会の窓を確認してみる。しかし俺のジュニアは、しっかりとチャックでプロテクトされていた。はて、ナニが出ていないなら一体何が出ているというのだろうか。


「だ、だからぁ……! さっきから思ってることが全部口に出てるの……! 目線が近いとか、繊細さを感じるとか、印象が変わるとか……!」

「ん? ああ……マジか」


 いかん。俺としたことが、先ほどの神楽坂への評価が漏れ出ていたようだ。チャックできてないのは口の方だったか。


「でもお前、褒められたかったんだろ? だったら丁度良かったんじゃないか? お前の見た目が良いのは客観的事実だから、さっきのは俺からの素直な評価だぞ。うむ、今日の服は非常に似合っている」

「っ! あ、当たり前でしょ!? だってアタシ、かわいいんだもん!!」

「その勢いの割には、顔真っ赤だけどな。お前、自分で恋愛教師とか言ってるけど、実は結構ウブで照れ屋なんじゃないか?」

「は、はぁ!? そんなことないし! アタシは百戦錬磨のアダルティな大人だしぃ!!」

「頭痛が痛い、みたいになってんぞ」

「う、うるさい! うるさい……うぅ……」


 力なくそう呟くと、神楽坂は赤に染まり切った頬を両手で抑え、「もうセンセー嫌いぃ……」と言い残して、地べたにしゃがみこんでしまった。


「……お前、やっぱ面倒な性格してるな」

「うるさい! この世にめんどくさくない女の子なんていないんだからねっ!!」 


 褒めろと言うくせに、いざ褒めたら照れて耳まで真っ赤にする。苗字に『神』なんて仰々しい文字が入っているものの、彼女の防御力は存外、『紙』装甲だったらしい。   


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