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第三話 人斬り鉄仮面

 通称『鉄仮面』は、土佐勤王党の名もなき人斬りである。岡田以蔵、田中半兵衛らと共に、数々の天誅を実行してきた鉄仮面だが、土佐勤王党が壊滅した今、鉄仮面は一人京都に残って、強盗で日銭を稼ぎ、その日暮らしをしているらしい。


 その鉄仮面が、新選組の沖田総司を狙っているとの噂があった。


 沖田は『新選組最強』と謳われている。鉄仮面は、その沖田を殺し、名を挙げて、長州の維新志士の仲間に加わろうとしているのだ。


「だから、その鉄仮面という奴の事を探ってほしいのだが」


 と、土方歳三が『女性忍者くのいち』の私に命じる。


 私は、直ぐに京都の町を走り回り、鉄仮面についての情報を収集した。



 そして調査を進めていくと、驚く事に、鉄仮面は女性であるという、有力な情報を掴む。


「嫌だなあ、女性から命を狙われるのは、土方さんでしょう」


 屯所で沖田は、明るく笑いながら、そんな事を言っているが、局長の近藤勇は心配顔で、


「総司よ、色仕掛には、警戒しろよ」

「はいはい。僕も分かっていますよ」


「いや、お前は剣は強いが、女性に関しては、まるで子供だ」


「近藤先生は、確かに結婚しているかもしれませんが、そんなに僕を子供扱いしないで下さい」


 無邪気な表情で沖田は、そう言う。



 だが、その翌日の昼過ぎの事だ。土方が血相を変えて、私の部屋に飛び込んで来た。


「おい、京都の良い医者は、知らないか?」


 話を聞くと、沖田が喀血したらしい。


「俺たちは、京都には疎いんだんよ」

「それなら、私に、任せてください」


 これでも、私は応仁の乱の頃から京都にいる呪われた『永遠の十七歳』だ。京都のことなら、何でも知っている。


 私は、沖田を連れて、京都で一番の名医の診療所へ向かった。


 

 そして診察の結果、沖田は、


「労咳か。人を殺め過ぎて、天罰でも当たったのかな」


「そんなこと、ありませんよ。沖田さんの剣は、お役目のための剣ですから」


「役目とか、そんな事は関係がない気がするけど」


 夕暮れ時。診療所からの帰り道に、私は沖田に、


「大丈夫ですよ。沖田さんは丈夫な人ですから、直ぐに良くなりますよ」


 と、言ったのだが、沖田は少し元気のない顔で、


「僕には分かっている。きっと、この病は、神様の兵隊が僕を殺そうとしているんだ」


 そう言った時、


 前方から不審な人物が近づいてくる。それは綺羅びやかな、赤い着物を着た女性だが、長大な剣を携え、頭部には黒い鉄仮面を被っていた。


「な、なんだ。あいつは?」


 沖田も、その異様な姿に目を丸くする。


「おそらく、沖田さんを狙う鉄仮面でしょう」


 私は、そう言いながら、帯に隠した短剣を抜いたが、


「この刺客の狙いは、僕だよ」


 そう言って、前へ出る、沖田。


「でも、そのお身体では」

「僕は、丈夫なんだろう」


 沖田は、もう一歩前進して、静かに剣を抜いた。


 鉄仮面も、無言のまま長剣を抜く。


 西の地平に、太陽が沈もうとしている。夕焼けの空には、三羽のカラスが、鳴きながら飛んでいた。


 ザッと、風が吹いた瞬間。沖田が動き、鉄仮面も反応して、長剣を構えたが、


 パキーンッ!


 沖田の刀が、上段から鉄の仮面を叩き割る。


 パカンと、鉄仮面が左右に割れ、美しい女性の顔が現れた。しかし、


 ドシャリ。


 と、鉄仮面は呆気なく、その場に倒れた。言葉を発する間もない。


 頭部を割られ、おそらく絶命している鉄仮面。その美しい顔が、真っ赤な血に染まる。


「こんな綺麗な人なら、僕は殺されても良かったのにな」


 そう言った沖田の目は、酷く冷たく、鉄仮面の遺体から目を逸らすと、足早に、その場から立ち去った。


 夕暮れの京都の町には、不穏な血の匂いだけが、漂っている。

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