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第一章 楼桑からの使者 4-23



「いま思えばペランの人並み優れた才気と異例ともいえる出世がすべての不幸の始まりであった。門閥貴族からも、改革派の下級貴族連中からも、同じ仲間であるわれわれの中からでさえ、彼を妬むものが現れてきていた。ブルガさまの彼に対するあまりにも厚い寵愛と、ふいに訪れた思いがけないほどのあっけない死、それが彼とわれらの運命の分岐となった。二度とは戻ってこない、まるで祭りのような日々は、神輿であるブルガさまを喪った瞬間に終わってしまったのじゃ。われらの青春という時代も、ブルガ様との別れと共に終焉を告げた。どんなに焦がれても時は戻らない、もう熱い日々は返ってきてくれぬ。ただあの頃と同じようにわれらの上を、変わることなくトールンの風だけが吹き過ぎるだけじゃ」


 昔を語る老人特有の、どこか愉しそうでそれでいて哀しみを湛えた瞳に遠い時代の光景がありありと浮かんでいた。



「始まりは街の市場での出来事であった。ほんの些細ないざこざが切っ掛けで、棲む世界が違う出会うはずのない人間同士が、そこで交わってしまったのだ。一陣の風のようにわれらの前に不意に現れた男、ペラン。運命というものは、いつも唐突に人の人生を揺さぶり思いも掛けぬ方向へと幾本もの道を指し示す。どの道をゆくのかは自らが決めるもの、あの日がわれらにとっての運命の分水嶺であったのだ」

 ダリウスは、大公ブルガと若き家臣団が過ごした日々を、懐かしむかのごとく三人に語って聞かせる。




 古の賢者は言う


〝神はすべてを与えたもう、そしてすべてを奪いたもう〟と。


 ブルガと若者たちが過ごした奇跡のような時間は、まさにその言葉の通りであった。




 しかしそれはいま語られるべき物語ではない。

〝昔語り〟として、別の機会に綴られるものである。



 かつて『武勇公』と呼ばれた、偉大な領主がいたことを。


 その領主とともに理想の世を夢見た、若き家臣団たちとの日々。


 溢れんばかりの才ゆえに風のように時代を駆け登り、その才ゆえに舞台から消えてゆかねばならなかった若者。


 そうして彼の陰でひっそりと死んでいった、儚げで透明な美しい少女と弟である純粋で可憐な少年の悲劇。


 そんな彼らの熱く眩しい、祭りの如き日々。

 いつかどこかで語られるであろう、運命に翻弄された若者たちの激しくも哀しい物語。



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