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序章 9



〝次期国王はシリウス殿下〟

 というのが宮廷内だけではなく国民の一致した了解事項であったため、ことさら立太子の儀を急いでいなかったのだ。


 壮年にさしかかったロルカⅡ世にも健康上の不安は一切なく、十一歳で即位して以来その身体の丈夫さと安定した治世《《だけが》》取り得の、凡庸ではあるが誠実で慈悲深い、国民に人気のある君主として内外に通っていた。


 しかしさすがに近頃では即位四十年目の吉日にあわせ、シリウスの立太子のお披露目を開催する案が現実味を帯びてきていた。

 そんなとき思いも掛けず王が倒れ、意識不明の重篤状態に陥ってしまったのであった。


 そんな状態が一旬(一旬=十四日間)以上も続き、まったく回復の兆しさえ見えなかった。


 ここで長子であるヴォーレンを担ぎ出そうとする者たちが、人目を憚ることもなく裏だけではなく表だった所でも暗躍を始めたのである。

 あからさまな叛逆とも取られかねないこの行動は、楼桑宮廷を一時的大混乱に《《陥れかけた》》。


 しかし、奇跡的に意識を取り戻したロルカ王が、シリウスを次期国王の後継として正式に指名すると、元々自分の出世欲や不平不満のために集まった烏合の衆だっただけに、関わっていた者たちは自分は無関係だとばかりに掌返しをして、まるで潮が引くように雨散霧消してしまった。


 勝手に担ぎ上げられ急にはしごを外された形になったヴォーレンは、なす術もなく母方の実家であるダーカイル地方へと、身を隠すように去っていった。

 事実上の王族としての失脚である。


 この時に徹底的にヴォーレンに、追い打ちを掛けておくべきだった。

 ほかの庶子同様に王族の身分を捨てさせ、臣籍に移しておけばよかったのだ。

 しかしまだ若く心根の優しいシリウスは、そこまでの仕打ちは考えなかった。

 そうしておけば、後々の災いの種のひとつを摘んでおくことができたはずである。


 なにはともあれこれで楼桑国のお家騒動にも決着がつき、無事に嫡子であるシリウスが次期国王の座を確実とした。



 もちろんサイレン公国も日に陰に、シリウスの国王即位のために外交的尽力をしたのは当然である。


 それは一歩間違えば、内政干渉だと批難される可能性もあった。

 しかし現国王政権の中心的立場の者たちが、ほとんどシリウス支持派であったために逆にサイレンの働きかけは歓迎された。


 その働きかけの最大の華は、輿入れ以来ロザリー姫が父親の見舞いを兼ねて、初めて楼桑へ里帰りしたことであった。


 すっかりと大人の女性へと成長した姿を見て、楼桑の民は大層喜んだ。

 王の病中ということもあり、あまり騒ぎ立てることは出来なかったが、それでもロザリーの帰郷は大歓迎された。


 兄であるシリウスと共に王宮広場に出ての、父王の快復を祈ろうとの呼びかけは多くの領民の心を打った。

 それが功を奏したわけではないだろうが、ロルカ王が意識を取り戻したのである。

 当然民はこの父思いの兄妹を、熱烈に支持した。

 

 ロルカ王はそれを見届け安心したのか、十日後に眠るように息を引き取った。



 その程度の多少の揉めごとはあったものの、順当に正嫡たるシリウスが王位を引き継ぎ、楼桑国との関係も盤石と思われた矢先の今夜の変事であった。


読んで下さった方皆様に感謝致します。

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