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第一章 楼桑からの使者 4-8



「フリッツさま、少し落ち着かれてはどうですか。朝からなん度同じ言葉を繰り返しているか分かっているのですか。いい加減になさいませ」

 ブルースが立ち上がって、フリッツをたしなめる。


「ブルースよ、おかしいではないか、なぜあの恐ろしいナニィージャが居るのだ。いままで一度たりともあの者が、義姉上の部屋にいることなどなかったのに。どう考えてもおかしいではないか、そうは思わぬか。あのように大昔から生きておる者から見れば、余など只の子どもにしか見えぬようじゃ。まるで赤子に接するようにものを言ってくる、どうにかならんのかあの女官長は」

 彼はその女官長のことを、心底怖れているようである。


「それ程の年寄りの癖に、あの見た目はどういうことだ、美しい三十路を過ぎたほどの年増にしか見えぬ。余の子どもの頃からなに一つ年を取っているように見えぬ、それどころか若返って見えるほどじゃ。まるで化け物ではないか」


「いくらなんでも化け物とは言い過ぎでは。女官長さまは若年の頃からメラニス太公太后さまのお側近くに侍られ、一度もご結婚なさっておいでではありません。それどころか殿方を近づけたことさえないと伺っております。したがって子を産んでもおられぬお身体、しかも常に若い女官たちと接しておられるゆえに、自然と身も心もお若さを保っておられるのでしょう」

 同じ女としてなのか、フリッツの言葉に対してエメラルダが抗弁した。


 しかしフリッツは、エメラルダの言葉に耳を貸そうともしない。


「ブルース、お前はどうだ。おかしいとは思わぬか、きっと物の怪にでも取り憑かれておるのだ。余は恐ろしくてならん」

「わたしには女のことは判りませぬ。しかしナニィージャさまのお若さはちと異常かと。他のものがそのように申しているのを聞いたことがございます・・・」

 余計なことを言うなとばかりに、エメラルダはブルースにキッと鋭い視線を送った。


「そうであろう、やはりあの者はなにかに取り憑かれておるに違いない。そうと分かれば一時として、義姉上の側に置いておくことはできぬな・・・」

 フリッツは一人納得したようすで、なにやら考え始めた。


「なにを思案なされておるのですか、よからぬことをお考えになるのはお止めください。一緒にいるわたしたちが迷惑を致します」

 その顔にただならぬ気配を感じたエメラルダが、強い口調で若い大公を窘める。


「よからぬこととは無礼な、余は義姉上のお身を心配しておるだけじゃ」

 フリッツは真っ赤な顔で、エメラルダを睨めつけた。



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