第一章 楼桑からの使者 3-17
「わたしの名を持ち出すなダリウス。わたしはむやみに人に憎まれ口など言ったりはせん。お前と一緒にされては叶わぬわ、いい加減にしておけよこの阿呆めが」
本気なのかこの場を和ます冗談なのか判断に苦しむが、ブラーディンのこの言葉が一層みなの笑いを誘う結果となった。
一見粗野で無秩序、単純明快で猪突猛進。
童の如きものの言い方をする感情の塊のようなこの老武人こそが、善きにつけ悪しきにつけ、このサイレンを象徴する人物だとガリフォンは思った。
彼のなにげない言動が、国を明るい方向に導いてくれているのではないか、そう思えてならなかった。
本来であればここにもう一枚、コルデス・ヴァン=デュマと言うなにものにも代えがたい魅力的な人物がいたはずであった。
武人でありながら、宰相である自分に気兼ねなく政治的な意見を具申する、文武に長けた天才肌の希有な男。
ハンサムで気障で洒落た言葉をまるでなんの嫌味もなく紡ぎ出し、誰の心にも空気のように滑り込みあっという間に自分の虜にしてしまう。
それでいて戦場に出れば、誰よりも勇敢な戦士である頼りになる男。
ブルースとボルスの父親である。
〝コルデス、困難なことが起こる度にしみじみ思う。お前がいてくれたらなんと言うだろうかと。きっと笑いながら、いつの間にか解決策をさらりと言ってのけるだろうとな〟
いまは亡き竹馬の友の顔を思い浮かべながら、ガリフォンは無骨一筋のダリウスを見詰めた。
〝しかしまだ俺にはお前がいてくれる、飾ることも誰に遠慮することもなく信じた道を突き進む男の中の男、ダリウスがいてくれる〟
ガリフォンの顔も自然と和らいでゆく。
〝ダリウスよ、お前は自分の信じたとおりに歩くがいい。儂が後ろでどのようにでも手を貸してやる、お前こそがサイレンの宝じゃ〟
ガリフォンはいま、目の前で豪快に笑い声をあげている、幼馴染みを感慨深げに眺めていた。
そしてなによりもこの場のすべての人が、笑顔に包まれてゆくのがたまらなくうれしかった。
〝儂には到底できん真似をこ奴はいともた易くなしてしまう。しかも本人はそのことに気付いてさえおらぬとは、なんとも不思議な男じゃよ、わが友ダリウスと言う奴は〟
そんなことを考えている彼の顔にも、知らずと笑みが浮かんでいた。
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