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第一章 楼桑からの使者 3-13



「しかしのう、公太后さまともあろうお方がいきなり伯爵夫人ではいかがなものであろうか。バロウズ家はサイレン国内では爵位を越えた名門として認じられてはいるが、他国からしてみれば所詮は伯爵家だ。そういった人の目も考えなくてはならぬのでは。いっそのこと、どこぞの国の王家に連なる御仁をお探しすると言う手もありますぞ。公太后さまはかつて『傾国の美女』とまで呼ばれたお方だ。あの類まれな美しさからすれば、どうとでも相手は見つかりましょう」

 そう提案したのは、ネールの隣に座っていたトリキュスであった。


「伯爵家では身分が釣り合わぬと言うのであれば、侯爵の爵位を与えればよいのでは。それとも当代限りとして、異例の公爵位の下賜でも構わぬではありませんか。いままでに前例のない話しではなかろう。ラフレシアさまとて公爵夫人とあれば不足は申されますまい」

「なにも公爵などと、そこまでする必要はなかろうよネール」

 やんわりとした口調で、トリキュスがネールの意見を否定した。


 サイレン公国には、そもそも公爵位は存在しないことになっている。

 しかし一代限りという特例で、公爵位を授けられたという記録が、過去の公国の歴史の中に幾度もあったことは確かである。


 この二人の会話を聞いていたダリウスの眉間に、深いしわが表れた。

 ブラーディン卿は、口元を嘲るように歪ませている。


「しかしバロウズ湖水公とはなんとも雅な響きではございますな。さすればフィリップ殿は、主君に背いてまで悲哀の美姫を守った殉愛の美剣士、かの有名な伝説の英雄『湖の騎士』とでも呼ばれるのでしょうかな」

 トリキュスが、まるで下世話なうわさ話しを語る庶民のような言葉を口にした。


 その時、いままで弱々しくうな垂れていたユーディ伯爵が、鬼気迫る形相ですっくと立ちあがった。


「し、しまった! この馬鹿者どもが・・・」


 ガリフォンは世間話しでもするかのようなようすの、ネールとトリキュスを睨んで小さく舌打ちしたが、時はすでに遅かった。



読んで下さった方皆様に感謝致します。

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