第一章 楼桑からの使者 2-⑫
「やめよ二人とも!」
際限もなく罵り合っている二人に、たまりかねてフリッツが声を荒げた。
「一体ガンツ殿の前でなにをしておるのだ二人とも。余は恥ずかしゅうて穴があったら入りたい所じゃ。サイレンは年若い主君を甘く見て、他国の使者の前で重臣たちが、声を張り上げ暴言を吐き合うような愚かな国よ、それを許しておるような飾り物の領主が治める、不甲斐なき国よと侮られようぞ。しかし余に対する態度だけであれば、己の未熟さ故のこととまだ許しもしよう。されど楼桑国の国王の使いでやって来られたガンツ殿の面前での失態、サイレンを治める身として、この非礼を許すことが出来ようか。申すことがあれば言うてみよ、さあ言うてみよ」
いつもは大人しい主君の激しい剣幕に、二人は首を垂れたままその場に直立した。
「なんたる恥知らずどもよ、すぐにこの場を去るがよい。顔も見とうない、早う退がれ」
フリッツは椅子から立ち上がって、大きな身振りで扉を指差した。
「殿、お怒りはごもっともなれど、ここはこのガリフォンに免じて、なにとぞ二人の思慮なき口論ご容赦くださりませ。さあ二人とも早う殿に謝るのだ」
ガリフォンは主君の前に進み出て、片膝をついて深々と頭を下げる。
それにならいダリウスとブラーディンも並んで跪付き、深々とうな垂れた。
「申し訳ございませぬ、ガンツ殿の前でこのような失態をしでかしまして、言い訳する言葉もございませぬ。すべてはこの短慮なるダリウスの責任でござりまする」
「殿、ガンツ殿、このようなお見苦しい様をお見せいたし面目次第もございません。されど決して殿を軽んじての事ではございませぬ、なにとぞ御勘気をお解き下さいませ。賓客の前での無分別な振る舞い、このブラーディン恥じ入るばかりでござる。ガンツ殿もどうかご容赦くださいませ」
それぞれ悄然とした声で、詫びの言葉を口にする。
「殿、二人ともこのように己が非を悔いておりますれば、どうかお許し頂けませぬか」
傍らからユーディも助け船を出す。
「いや、此度は許せぬ。余はこの場から出て行けと言ったはずだ。早う出てゆかぬか。それとも若年の主君の命など聞けぬと申すか」
いつもとは違い、フリッツも一歩も引かぬようすである。
大公位を継いで以来ことある毎に小言を言われ、なに一つ気ままにならぬ状況がここにきて一気に、氾濫した洪水のように気を昂らせているのだ。
又、他国の使者の前での出来事であることで、主君として引くに引けない状況に己を追い込んでしまっているのであろう。
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