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第一章 楼桑からの使者 2-⑨

 


 そこにはもう一人、遅れて公宮へ入ったブラーディン侯爵が加わっていた。


 サイレンの五名家の一つ〝ポルピュリオウス侯爵家〟の当主であり、国の財務卿を務めている。

 長身痩躯、銀色の髪に神経質そうな表情を浮かべた灰色の瞳、その細面な顔はいかにも切れ者の官僚といった雰囲気を見る者に与える


 これでサイレンの五名家中、公都トールンに詰めている三家の当主が顔を揃えたこととなる。



 ネルバ方爵一族の当主・文官貴族の惣領である宰相のガリフォン侯爵。


 マクシミリオン家当主・サイレン軍総帥であり武門貴族の象徴たるダリウス侯爵。


 ポルピュリオウス家当主・公国経済の要たる商業都市シャザーンの領主である、財務卿のブラーディン侯爵の三名である。


 他の二家は、公国東の守りを担うノインシュタイン辺境候と、南の守護バロウズ湖水伯であるが、彼らは現在無役の為に、それぞれの領地に在住しており、公都トールンにはいない。

(特にノインシュタイン候は、東方の異教徒との戦が頻発するために、重職に就いたとしてもトールンに常駐することはまず無い。代わりに嫡男かそれに匹敵する者が代理として、公都に詰める習わしとなっていた)


 そして美々しい軍装に身を包んだ、サイレンの蒼き雷神ブルースと黄金の雌龍エメラルダは、まるで将棋盤(ボロッカボード)上の、飛車(フライングナイト)(ドラグンスレイヤー)のようにフリッツの左右に立ったまま控えている。


「して、どのようなご用件なのですか。遠慮なく申して下さい」


「お言葉に甘えまして、早速此度の私めの使者としての本題をお話しさせて頂きます前に、お断りしておかねばならぬことがございます。このガンツ、主人ロルカ王の私的な使いとしてここに来させて頂いております。国としての使者ではございませぬ。まずはそのことをご了承しておいて頂きとうございます」



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