第一章 楼桑からの使者 1-⑬
フリッツも宮廷会議の場で、重臣達一同から寄って集って諫言され続け、今後はラフレシアの元へ入り浸ったりはせぬと約束させられたばかりであった。
サイレン公国の特徴の一つとして、家臣は主君に対して諫言ある際は、遠慮なしにどのようなことでも直言する気風にある。
時には主君と家臣の間で、怒鳴り合いとなる場合さえある程であった。
過去には興奮した主従が、派手に取っ組み合いを始めたことさえあったと言う。
サイレン公国は、中央集権的な絶対君主の国ではない。
いうなれば各小さな地方領主の、集合体とでも説明すれば分かり易いだろう。
そんな中でもバロウズ家が治める湖水地方〝グリッチェランド〟は、この世に彩蓮大公国の欠片さえも存在しない頃から代々同家が統治していた土地であった。
多かれ少なかれサイレンという国は、そんな小領主たちがひしめき合っていた一帯であったのである。
その頂点に立って、国をまとめているのが最大の力を持ち、各領主から信頼されていたサイレン家であった。
このような国の成り立ちも相まって、主君と臣下の垣根があまり高くない。
言うことも遠慮なくいうが、一度変事があれば臣下一同結束して、サイレン家と国のために命を懸けて戦う。
その一途さも、サイレン家臣団の特徴である。
そういった口うるさい家臣団と、太后宮への立ち入りは控えると約束したのが一昨日。
その約束をした舌の根も乾かぬ内に、この有り様である。
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