表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/133

第二章 時を越えた邂逅と別離 4-5

第一巻「運命の婚礼」前篇はこの回で終了です。

近々后篇をUP予定ですので、よろしかったら引き続き読んでいただけたら幸いです。

本篇の代わりに、后篇開始まで「外伝」をUP致します。

「昔語り 眞説・トールン大乱」です。

サイレンにて過去に起きた〝トールン大乱〟を題材としています。

本篇とは時代も登場する人物も違いますので、気軽にご覧下さい。

しばらくは内乱のクライマックスである、騎士団どうしの戦いがメインとなります。

本篇とは違った雰囲気をお楽しみ下さい。



「ペラン、お前はシルバラード公爵家と関係があるのか。いったいいままでなにをしていたんだ」

 ガリフォンは訊かずにはいられなかった。


 シルバラード公爵家は、現在の皇帝ゼウシウスのガリューゼル公家に匹敵する名門なのである。


「トールンを離れてからも、俺とカダ先生の付き合いは途切れなかった。あの酔っ払いのスケベ爺いは、なぜか俺のことが気に入っているらしく、行く先々へ連いてきやがる。ひょんなことでヴァビロンへ立ち寄った際に、シルベティオン家の騎士長と知り合った。その時公爵さまのご子息が長患いをしていて、仕方なくカダ先生がそれを治してやったのが縁だ。あそこには美しい女官が山ほどいて、スケベ爺いは大喜びだったがな」

 みなの脳裏に、小柄な老医師の姿が思い出された。


 そのむかし『大陸四大名医』のひとりに数えられ『放浪の医聖』と呼ばれた、偉大な医者である。

 厳格な性格で医の道を極め、人々を救うことだけに生涯を送ってきたことでも知られる高潔な人物であった。


 しかしある出来事が切っ掛けで隠遁生活をするようになり、ペランが出逢ったときは酒に溺れた、ただの女好きな老人であった。


 常に酔っており診察に来た人間への対応もいい加減で、自ら薬を出すこともせずに処方箋を渡し後は患者任せというていたらくだった。

 診察料も取ったり取らなかったり、酒や食べ物を金の代わりにせびったりして生きていた。


 しかしその処方箋が適格で、ほとんどの患者が指示された薬を飲むと、瞬く間に本復するようになるという不思議な老人だった。

 いつしかむかしは名だたる名医であったという噂が囁かれ、商売は結構繁盛していた。


 そのカダがペランにせがまれ星光宮へ上がり、大公夫妻が大切にしている少女の脈を取ったのが切っ掛けで、正式に素性が判明したのである。

 サイレン公家の御典医が、若き頃にカダの弟子であったのだ。


 そしてその娘こそ、後にペランと結婚する運命にあるフローリアだった。

(詳細は外伝「昔語り・武勇公ブルガ傳」による)


 その医者としての腕は噂通りであったが、人となりはまったくの別人となっていた。

 酒を浴びるように呑み、若い女にちょっかいを出すのが好きな低俗な老人そのものだったのだ。



 なんにせよそんな名医が認めた医者の診察であれば、まず間違いはあるまいと思われた。


「もうどうにもならんのだな?」

 ガリフォンが目を伏せながら訊く。


「ああ、残念ながらな。ここに来る以前の二年間はシルベティオン家の食客をしていた、しかし余命を知り無性にトールンが恋しくなり来てしまった。未練だな――」

 ペランが自嘲気味に笑う。


「なにが未練なものか、お前の故郷はトールンだ。儂たちが若き日に必死で生きた、トールンにこそわれらのすべてがある。あのブルガさまもここに瞑っておられる」

 ダリウスが力強く言った。


「ご妻子はその事を・・・」

「いや、あいつらにはまだ話してない。だからここで聞かせたくなかったのだ」

 ユーディの問いに、ペランは小さく応える。


「しかしいつまでも黙っているわけにもゆくまい――」

「ああ、ファーナルの森に落ち着いたら、打ち明けるつもりだ。いまから気が重いよ」

 ペランの心情は、その沈鬱な表情を見れば誰にでも分かる。


「ファーナルと言えば、ジャンドールさまの?」

 ユーディがなにかを思い出すように言った。


「ああ、ジャンドールさまが爵位を得る前に、郷士として代々治められていた山深い土地だ。一度だけブルガさまに従ってお前と共に行ったことがあったな」


 ブルガが健在な頃、お忍びで生まれ育ったファーナルの森を訪ねたことがあった。

 ブルガにとっても、そこは真の意味で故郷なのである。


 正式な行幸となれば大袈裟になるために、最小限の人数での訪問だった。

 その時に随行したのがジャンドールとペラン、ユーディの三人だったのだ。


「いまでもあの森は、ジャンドールさまの縁戚のものが番をしている。クラックスという名で、細々とだが書簡の遣り取りは続けていたのだ。勝手な話しだが、親子三人の身の落ち着け所として受け入れて貰えないかと手紙を出してみた。そうしたらすぐに返事があり、いつでも来られるのをお待ちしていますと書かれていた。わたしたちのために、小さいが新しい家も建ててくれるという。その言葉に甘え、ファーナルへ行くことを決めた。森やそこに棲む獣を相手に、最期を迎えるつもりだ」


 ここまでの詳しい事情を聞かされ、誰もがペランの決定を納得せざるを得なかった。

 唯ひとり、ガリフォンを除いて。


「そういう事であれば引き留めることも出来ぬな、これが最期の分かれとなるのだな」

 ユーディの気の良さそうな瞳に、うっすらと涙が滲んでいる。


「なにか必要なものがあれば早馬を飛ばせ、すぐに届けてやる。遠慮はするなよ、俺たちの仲だろ」

 昔のように、ダリウスがペランの背中を叩く。


「薬が必要なときにはすぐに知らせろ、どんなことをしても手に入れてやる。フローリアの命を一度は救ってくれた恩人だ、わたしは受けた恩は生涯忘れはせんぞ」

 奇妙なことに息をするように皮肉を言うブラーディンが、昨日からまるで別人のように善人となっている。


「みなの好意はありがたく頂くよ、本当にありがとう。しかし死んで行く身に、なにも必要なものなどありはしない。この病には効く薬はない、最期は痛みを緩めるための劇薬を呑むだけなのだ。その薬なら余るほどフェミューから貰ってきた」

 にこやかに笑みを浮かべながら、ペランは一行を見回して行く。


 視線がガリフォンに止まったとき、ペランはその瞳にほかの三人とは違った光を見て取った。


「なにか異存があるのか、ガリフォン。もうじき死ぬ俺にはなにも出来ん、それが分からぬお主ではなかろう」

 なにかを感じ取ったペランの表情に、微かな緊張が走る。


「死す運命(さだ)めのお前には酷なことを言うが、サイレンを思う心がいまも残っているのならば、最期に儂の頼みを聞いてはくれんか。お前にしか頼めぬ事だ、是が非にも聞いて欲しい」

 その真剣な眼差しを、不思議そうな顔で受け止めたペランが訊いた。


「この俺に頼みだと」

 傍らに佇む三人も、何ごとかと怪訝な顔をガリフォンに向けた。



アンドローム ストーリーズ(聖大陸興亡志)

第一巻「運命の婚礼」前篇

終わり



読んで下さった方皆様に感謝致します。

ありがとうございます。

近々続編もUP致しますので、しばらくお待ち下さい。

再開まで、外伝を読んで頂ければ嬉しいです。

連続してUP予定です。

(シリーズにしますので、よろしくお願いします)

応援、ブックマークよろしくお願いします。

ご意見・ご感想・批判お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ