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第二章 時を越えた邂逅と別離 4-3



「お前は再び、儂の前から逃げるのか――」

 別の男が真っ先に声を放った。


「ガリフォン――」

 ペランの顔が苦しげに歪む。


「なぜお前は、儂がいて欲しいときにいつも居てくれんのだ」

 その表情には微かな怒気と、悲哀が入り交じっているように見えた。

 ペランは妻子の方を振り向いた。


「キャリーヌ、お前はケルンを連れて橋の向こう側で待っていろ。この方々は俺の昔の同僚たちだ、しばし話しがあるから先に行っておれ」

「ペラン・・・」

 不服そうな妻へ、夫は再度強い口調で言う。


「いいから言うことを聞け、たまには素直に従うのだ。これは男同士の話しだ、お前に聞かせられるものではない。さっさと行くんだ」

 有無をも言わせぬ剣幕に、キャリーヌはなにかを察したようだ。


「ケルン、先に橋を渡ろう。父さんもじきに追っかけてくるからさ、おじちゃんたちにさよならをお言い」

「さよなら、知らないおじさん。あっちで待ってるから、早く父さんを返してね」

 緊張気味にそう言って手を振る子どもに、一番柔和そうな顔の紳士が笑いかける。


「さよなら、お父さんはすぐにお返しするからね。旅は大変だから気をつけて行くんだよ」

「平気さ、ぼくたち慣れてるから。さよならおじさん」

 その優しげな口調に安心したのか、ケルンは無邪気に応えて母に寄り添う。


 四人の中ではひとりだけ毛色が違って見える、厳つい顔の男がケルンの左目下の疵痕を太い親指の腹でそっと撫でる。


「あまり両親に心配を掛けるな、悪戯もほどほどにな」

 ぶっきらぼうにそう言った。

 ダリウスである。


「わかってるよ、じゃあね」

 面倒臭そうに応えると、ケルンは母と一緒に橋を渡っていった。



「家族を行かせたということは、どうあってもトールンに留まる気はないということだな」

「察しの通りだよ、ガリフォン」


 二人の視線はわずかな瞬きも許さずに、互いを見据えている。

 五人の初老の男達は、不自然なほどに黙ったまましばしそこに佇んでいた。


「昨日は驚いたぞ、まさかもう一度お前に会うなど思うてもおらなんだ。しかもそのむさ苦しい髭面になどな」

 皮肉たっぷりの口調で、ブラーディンが嗤う。


「見違えたぞブラーディン、あの頃の面影がまったくない。どこから見ても立派なご領主さまだ、背も随分と伸びたな」

 そう言って頭を触ろうとするペランの手を邪険に振り払い、冷徹なまでの視線を向ける。


「わたしの頭に触るなど、気でも違ったのか。もう子どもではないぞ、今度やったら鞭を五十回くれてやる」

 当時一番の年下で背も低かった彼を、コルデス、ダリウス、ペランの三人は頭を撫でてからかっていたのだ。

 その行為を、気位の高い彼は一番嫌がっていた。


「トールンにシュタイナーさまが居なくてよかった。いらっしゃればあの日のように剃ってしまわれたところですよ」

 大公宮の厩で始めて出逢った時を思い出し、ユーディが右手を差し出した。


「久しいな、ユーディ。あなたはいまもこの三人の世話を焼きながら、苦労をしているのだろう。いつも人一倍気が利いていたからな。コルデスがいないとなれば、尚更お守りが大変そうだ」

 ペランがその手を握り、しっかりと力を込める。


「キミがいない分助かっているよ。一番の問題児はペラン、キミだっただろ」

 若き日となんら変わらぬ柔和な顔で、ペランに微笑みかける。


「おお、シュタイナーさまはどうなさっている。お達者なのであろうな」

「うむ、漏れ聞こえてくる話では、いまも戦場に立ち異教徒どもと最前線にて剣を交えておられると聞く」

 ユーディが応える。


「われらより年上なのだぞ、なのにいまでも最前線とは――」

 ペランの顔が呆気にとられている。


「ブルガさまのご葬儀にさえ、ご列席されなかった。異教徒が大公死去の報を聞き、攻勢を掛けてきたからな。その後は、一度たりともトールンに上洛されることはなかったよ。メラニスさまも、ひと月後には〝リ・サイレン〟にお移りになられ、完全にブルガさまの名残は星光宮から消えてしまった」



読んで下さった方皆様に感謝致します。

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