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序章 13



「父さまと母さまはどうしているの。どこに行っちゃったの」

 少年はいままで忘れていた、両親のことを不意に思い出したのだろう、ダリウスの顔を不安げに見上げた。


「心配ござりませぬ若さま。殿も奥方さまもご無事でござります。ここを抜け出せばすぐにお会いできますぞ」

 ダリウスはなにかに耐えるように唇を噛みしめ、少年の目を見ずにそうこたえた。


 ほかの兵達も皆下を向いてしまう。

 すでに少年の両親はこの世に生きてはおるまい、まだ生きているとしてもその運命はもはや決まっているといえた。

 皆そう思っている。


 少年の父でありサイレン公国の領主である、大公フリッツ・フォン=サイレンⅢ世が、楼桑国の重騎士の剣で、脇腹を刺し貫かれるのをダリウスはその目で見ている。


 フリッツはダリウスに息子の命を託して、自ら剣を取って時間を稼いだのである。


 敵兵の一番の目的は、王である自分の命であることはわかりきっていた。

 自分が逃げれば、敵は血眼になって追って来るだろう。

 そうなれば、どの道逃げ切れるものではない。

 ライディンが仕掛けた今宵の侵攻に、そんな手抜かりがあろうはずがない。


〝大公フリッツの首は、必ず討つように〟

〝この一時が此度の肝です、逃げられてはなんの意味もない〟

〝この命を遂行できねば、例えサイレンが陥落したとても、指揮官殿には命に替えて責任を取ってもらいますぞ〟


〝《《出来得れば》》宰相ガリフォンは、生きたまま捕らえてくだされ〟

〝戦後のサイレン統治に、あの者の存在は役に立ちます〟


 これがライディンからの厳命であった。


 シルバラード(ヴァビロンの帝都)を出立する間際、ライディンからそう耳打ちされたシュザイロン伯爵は、心の底からぞっとした。

 帝国でも一、二を争う豪胆で知られる将軍の心底を、こうまで寒からしめるライディンとはどこまでの人物なのだろう。


〝お任せください枢機卿猊下、必ずやフリッツとか申す小童の首は、わが手中に・・・〟

〝お頼みいたしたぞ〟

 緊張気味にこたえるシュザイロンへ、ライディンはそう短く発して微笑(わら)った。


 サイレンへの侵攻はライディンが二年の歳月を費やし立案した、完璧な作戦であった。


〝必要とあらば兵はいくらでも出すが、その命は費やさぬ。そこしかないという絶妙な時期に、これしかないという効果的な手を打ち、目の醒めるような最も効率のよい行動を取る。そうして最小限の犠牲で事を完遂する〟


〝命を懸けて戦をするのは他国の兵、わが帝国の将兵は数の力で闘わずして勝つ。それが最上の勝利なり〟


 これが常日頃からの、彼の口癖だった。

 その通り、今宵の戦闘に於いても犠牲が出ているのは楼桑兵であった。


 そんな水も漏らさぬ計画であっても、現実は小さな齟齬が生じるものだ。


〝ルーク〟という彼の眼中にもなかった小さな命がこの世に残ったことが、ライディンの晩年に大きな変化をもたらすことになるとは皮肉なものである。

 それどころか大陸の歴史そのものにまで、決定的な影響を及ぼすこととなってゆくのであった。


読んで下さった方皆様に感謝致します。

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