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第二章 時を越えた邂逅と別離 4-1



 大陸中の主要な街道は〝黒き斑路〟と呼ばれる道で結ばれている。

 その路幅や材質は統一規格で定められ、最低でも幅四ガイル半以上(馬車がすれ違える程度)で石の種類は御影石や安山岩、玄武岩等の花崗岩とされる。

(註・一ガイル=約一メートル)


 石の組み合わせにより斑ではあるが、主に黒っぽく見えることからその名がつけられたという。

 国家間を結ぶ主要街道はすべてこの規格の道であり、各々街道名がつけられるのが一般的であった。


 四ガイル半というのはあくまで最低の基準であり、一般的に主要都市間の道は六ガイル以上はある。

 この黒き斑路こそが文明国の証だと見なされるようになると、各国は競って立派な街道を整備するようになった。


 だがその建設には、当然のことながら多大な費用が伴う。

 しかしどの国も自らを近隣諸国より文明的だと主張したいがために、国勢にそぐわぬモノを造る場合もあった。


 そんな国同士の競い合いのお陰で、大陸中に石畳の路が張り巡らされ、それまで水路による荷物の輸送が主流であったが、いまでは陸での移動・運搬が随分と楽になった。


その結果旅人の行き来や小商人(こあきんど)の商路、はたまた大商隊による物資運搬などに大いに貢献することとなった。

 なによりも戦の形が変わった。


 騎馬兵の通行や攻城のための大規模な兵器の輸送、兵站物資の大量運搬が可能となり、戦の規模が大きくなったのである。

 世の中の生活に有意義な発明は、同じく軍事的にも有用なものであるのは、いつの時代でも同じだった。


 それまで大きな河川周辺にしか、大都市は生まれないと言うのが常識だった。

 川がなければ運河を通すしかなく、その公費は気の遠くなるほどの金と年月と人材が必要である。


 しかし街道が整備されると、河川から遠く離れた地方や山間部にまで、物資を大量かつ安全に届けることができるようになった。

 そんな町と町との間には宿や食べ物を提供する施設が必要となり、そこにまた新たな集落が形成されてゆく。


 街道を根城にする盗賊の類いを取り締まるための〝警護番所〟も集落毎に設置され、治安の向上も図られた。

 黒き斑路の拡張と共に、大陸もまた発展していったのである。



 現在の大陸で一番大きな路はどこかと問われれば、片田舎の自由開拓民の子どもでさえこう答える。


〝シルバラード大通り〟だと。


 ヴァビロン帝国の檜通り〝シルバラード大通り〟は全幅が三十ガイルもあり、ここは国の特別な催事の際には通り全体が煌びやかに飾り立てられ、目も眩むような皇帝一族とそれに従う文武百官(実際には五百名以上)の行列や、美々しい帝国軍の馬揃えの様が帝都民衆を愉しませる。


 しかしなんといっても人々を最高に湧かせるのは、三年に一度披露される、帝都の主・シルバラード公爵率いる〝神聖シルベティオン騎士団〟(別名「帝都の守護者、聖・紅檄騎士団シルベティオン・ルージュナイツ聖・紅檄騎士団」)の『神奉閲兵式』である。

(この閲兵式はアギレリオス聖教の神儀のひとつ〝プレトリウス大神祭〟の中の一環として開催される。シルバラード公爵のためではなく、ましてや皇帝に見分してもらうためのものなどでもない。神に奉るための神事である)


 皇帝の出御と帝国正規軍総出の馬揃えよりも、シルバラード市民はこの〝神奉閲兵式〟に熱狂する。


 ヴァビロンの民全般、特に帝都の市民にあっては、皇帝よりも〝神聖シルベティオン公爵家〟の方が人気がある。

 しかも帝都シルバラードは、皇帝が鎮座する〝皇宮〟があるのは当然ながら、もうひとつの顔を持っている。


 シルバラードという都市を領有しているのは、シルベティオン公爵家なのである。

 ゆえに市民は、シルバラード公爵の民という意識が強い。


 国の支配者は皇帝だが、シルバラードの主はシルベティオン公爵家といった、歪んだ二重構造が同居する不思議な街であった。


 その事に起因する政局絡みの騒動が、過去に幾度も発生している。

(シルベティオン公家から、皇帝が出ている場合はこの限りではない。なんの齟齬もなく、政は安定し平穏な治世となる)



 これは余談であったが、とにかく街道の整備がもたらした恩恵はいまや大陸の隅々にまで波及し、この規格を発案し推進させた〝アリュキド国の哲人王、ソ・レンダール〟の名は、永遠に大陸史に刻み込まれた。



 ならば、過去を含めこの世で最も壮大なる道はどこであったかと言われれば、これまた答えはひとつしかない。


〝ヴァルハラの神の路〟である。


伝説ではあるが〝アトナハイム神煌帝国〟の〝煌都・ヴァルハラ〟の『神の路』は、想像の域を超えた真の意味で奇跡のようなものであったという。


その幅員は百ガイルで、その全長は二ガロス(一ガロス=約一粁(キロメートル))もあったとされる。

 神の路は煌宮と、アギレリオス天空寺院とを結ぶ参道として建造された。


 二ガロスの道の両側には、様々な神々の彫像が途切れることなく飾られていたらしい。

 日頃人々の通行が許されているのは、路の両端部分(それでも十ガロスの幅があった)のみで、中央部分は『アトナハイム煌帝』が参拝のために天空寺院を訪れる場合以外、立ち入りは許されなかった。

(唯一、毎日の清掃のために使役される、百人を超える労働清掃員は別である)


 よってこの二ガロスの間は、路の左右の横断は基本的にできない。

 それでは便宜上の問題があるため、五百ガイル毎に横断するための地下道が造られていたという。


 神話の中のお伽噺だと笑うものもいるが、その真偽はいまもって不明だ。



読んで下さった方皆様に感謝致します。

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