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第二章 時を越えた邂逅と別離 3-8



「初めっからあんたは、ペランの女房になるって言ってたものね。あの頃はまったく相手にもしてもらえてなかったけどさ。そこへ恋敵としてジョディっていうとびっきりの美女が現れて、傍目から見てたって勝負になんかならないって、亭主と一緒に随分可哀想に思ってたよ。そこに来て、ペランときたらふたりを振ってお城の奥にいらっしゃる、お体の弱い貴族のお姫さまの婿になっちまった。学のある言い方をすりゃ青天の霹靂ってんだろ、とにかくおったまげたもんさ」


 長年腹に溜まっていた鬱憤をいっぺんに吐き出すように、デミトリアの喋りが止まらない。


「ペランのすることだったら、どんなことでも応援してた亭主のシャンブルも、この件にだけは腹を立ててたよ、俺たちに筋を通してないってね。キャリとジョディの気持ちを知っていながらって、随分怒ってた。ふたりが可愛かったんだろうね」


「いやあ、それには深い訳があって――」

「そりゃ訳の二つや三つあって当たり前だろうさ、貴族様の婿になっちまうくらいなんだから」

 言い訳をしようとするペランに、デミトリアが二の句を継がせない。


「お母ちゃん、その事はもう言わないであげて。このひとも相当に心が傷ついてるんだ、フローリアさんだって可哀想なお方なんだよ。あの時はああするよりなかったんだ」

 しおらしい顔で、キャリーヌが夫を庇う。


「どうしたんだいキャリ、あんただってあの時は怒るどころじゃなかっただろ。家は出て行くは、変な連中と付き合い始め、挙げ句は武装窃盗団の親玉にまでなっちまった。ジョディは死のうとするし、あんたは悪党に成り果てるし、あたしたちゃあどれほど心配したか知れやしなかったよ。あの暗黒街で名を知られ、トールンの大親分にまで成ったことのあるあのひとが、それこそおんな子どもみたいにオロオロしてさ。みっともなくって見ちゃいられなかった、赫龍ともあろう漢がだよ。あんたらを実の娘だと思ってたんだ、愛してたからなんだよ」


「ごめんお母ちゃん、あたいはまだ若かったんだ。馬鹿な事したって思ってる、本当にごめんなさい」

 感情にまかせシャンブル夫婦の家を飛び出して以来、このキャリーヌもふたりの前から姿を消したままだったのである。


「――そういやお父ちゃんの顔が見えないけど、お父ちゃんはここに来てないの?」

 キャリーヌはシャンブルの姿を探し、辺りをキョロキョロと見回す。


「あのひとはいないよ、死んじまったんだ。もう八年になる――」

 当初キャリーヌは、デミトリアの発した言葉の意味が解らないでいた。

 一瞬後シャンブルがこの世にいない事を理解すると、先ほどにも増し大きな瞳から涙を流して目の前のデミトリアに抱きつく。


「ごめんなさい、ごめんなさい。お父ちゃん、お母ちゃんごめんなさい。ふたりに心配ばかり掛けて、キャリは悪い子でした。あんなに優しくしてもらったのに、はじめて家族の温かさをもらったのに。なんにも恩返しが出来なかった、あの大きな樹のようなお父ちゃんが死んじゃったなんて。ごめんなさい、ごめ・・・」

 後は声にならなかった。


「最期まであんたとペランのことを心配してた。どうしてるんだろうな、元気に暮らしてりゃいいがってね。でもこうやってふたりは夫婦になって、いまここに居る。おまけに子どもまで一緒なんだ、きっと天の上から見て安心してるよ。幸せそうだなって、笑いながらね」

 デミトリアは自分の胸で泣いている娘の背中を、ポンポンと優しく叩く。


「お父ちゃん、許してくれるかな」

 甘えるようにキャリーヌが、デミトリアの顔を見上げる。


「当たり前さ、あのひとは端っからあんたにゃ大甘だったじゃないか。どんなに悪たれを言おうが、どんな突拍子もない事をしでかそうが、いつも嬉しそうに笑ってた。きっと可愛くて堪んなかったのさ、娘が出来てお父ちゃんって呼ばれて。凄惨な人生を歩いてきた自分に、人並みの家族が出来たのが嬉しかったのさ。このあたしだってそうだよ、娘になってくれてありがとう」

 こちらも泣き笑いである。



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