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第二章 時を越えた邂逅と別離 3-7



「ほらほら、泣いてないで顔をちゃんと見せておくれ」

 いつまでも胸から離れようとしないキャリーヌの肩に手を添え、デミトリアが自分の方を向かせる。


「うふふ、やっぱりキャリはいつまでたってもキャリだね、あの頃とちっとも変わっちゃないよ。うーん? でも少しふっくらしたかね、このへんが」

 そう言って、涙で濡れている頬を両手で包む。


「太ってなんかないよ、お母ちゃんの意地悪」

 口を尖らせてデミトリアの胸を叩く。


 まるで少女のような仕草と表情のキャリーヌを見て、一番驚いているのは傍らの少年だった。

 いままで彼女のそんな姿を、一度も見たことがなかったのである。



「キャリーヌちゃん。わたしよ、ジョディよ。なん年ぶりかしら、ずっと会いたかった。いつも心配してたのよ、元気そうでほんとによかった」

 ジョディも昔に戻ったように、華やいだ声をあげる。


「あれまぁ、ジョディちゃんったら相変わらず綺麗だね。さすがはトールン一の美妓って評判になっただけはあるよ、歳取っても(あで)やかだ事」

「またそうやって苛めるんだから、こんなおばさん相手にやめてよ」

 照れたように俯く姿も、当時のままである。


「でも元気そうで安心した。あんな事があったから、あたしの方こそ随分心配してたんだよ。でもまたこうして会えてよかった」

 十八年の時の流れを一気に取り戻したかのように、暖かな雰囲気が辺りに広がる。



「ところでキャリ、あんたら一緒に居るって事は――。まさか嘘だろ? ほんとかい? あんたら夫婦になっちまったのかい」

 デミトリアがしげしげと、ペランとキャリーヌを交互に見回す。


「へへ、お恥ずかしながら、あたいは念願通りペランの女房になりました。いまじゃ子どもも居るんだ、名前はケルンっていうの。さあ、ちゃんとご挨拶しな、お母ちゃんのお母ちゃんだよ」

 母親から後頭部を押さえつけられ、少年がぎこちなく挨拶をする。


「ケルンです、――よろしく」

「よろしくじゃないだろ、よろしくお願いしますだろ。なんど教えりゃわかんだよ、まったく誰に似たのやら」

 そんな遣り取りをペランは髭を触りながら、優しげに眺めている。


 ぶつぶついうキャリーヌに対して、デミトリアが笑いながら言い返す。

「あんたの初めての時より、なん倍もましじゃないか。自分がわたしらにどんな態度を取ったのか、忘れちまったのかい。覚えてないんだったら、言って聞かせようか」


「お、お母ちゃん、倅の前でそれは勘弁してよ。明日っから、偉そうな説教できなくなっちまうじゃない」

 キャリーヌが慌てながら、大仰に手を振ってみせる。


 ペランに連れられ、彼女が初めてシャンブルの家へ来たとき、挨拶をするどころか親方夫婦に対して、爺い、婆あ呼ばわりをして悪態を吐いたのである。



読んで下さった方皆様に感謝致します。

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