第二章 時を越えた邂逅と別離 3-4
「ペランさま、お久しぶりでございます。またこうしてお逢いできて、嬉しゅうございます」
グルカの後ろに立っていた女性が、そう控えめに微笑みかけた。
「あ、貴女は――。ジョディ、ジョディさんなのですか? おお、間違いないジョディさんだ」
それなりに歳は重ねているものの、誰もが目を向けずにはおられぬほどの美貌は未だに健在だった。
「なぜ貴女が・・・」
唖然とするペランに、頬を微かに染めてジョディが小さく答える。
「わたくし、このグルカさまの家内でございます」
「家内? えっ、てことはグルカと結婚――」
目を白黒させているペランに、グルカが説明する。
「そうなんです。ジョディはわたしの妻です、家には子どもが三人もおります。なにもかもペランさんがいてくれたお陰です、いまのわたしの人生はすべてペランさんのお陰なのです」
グルカの言葉に熱がこもる。
「おいおい、嘘だろ。なんでグルカとジョディさんが――」
状況が把握できず、ペランは半信半疑のままふたりへ視線を向ける。
「まったくペラン、あんたって男は女にモテてしょうがなかったからね。このジョディだってあんたに惚れ切っちまって、一時期大変だったんだからさ」
「おかあさん、その話しは・・・」
慌ててジョディが、デミトリアの言葉を遮ろうとする。
「なあに構うもんかい、こいつには言ってやらなきゃ分かんないんだ。いいかいあんときゃ黙ってたけど、あんたが急にフローリアとか言う貴族のお姫さまの婿になっちまったとき、この娘は自ら命を絶とうとまでしたんだよ」
「えっ、まさかそんなことが――」
初めて聞く出来事に、ペランは呆然となる。
「嘘なもんかい。大事にならなかったからいいようなもんの、一時は大騒ぎだったんだからね。そりゃあ勝手に惚れちまったって言われりゃそれまでだけど、まったくあんたも罪な男さね。そうこうしてるうちに大公さまはお亡くなりになるは、あんたはふいに姿をくらましちまってそれきりだし。いったいどうなってんだよ」
デミトリアは本気で怒っているらしい。
そんな騒動があってから、ジョディは正式にシャンブル夫婦の養女となったという。
「でもね、こんなにお優しい旦那さまと可愛い子どもたちに囲まれ、いまじゃ毎日幸せに暮らしてるよ。クイーン・ビーのふたつ名で知られたこのデミトリア姐さんも、とうとう三人の孫のいるお婆ちゃんさ。捨てる神あれば拾う神あり、昔の人は良い事言ったもんだね」
(むろん捨てる神はペランで、拾う神の方がグルカである)
「いやあ、そう言われると面目ねえ」
ペランが苦笑いしながら、髭をもさもさと撫で回した。
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