第二章 時を越えた邂逅と別離 3-3
いまの彼の穏やかな生活と地位があるのも、すべてペランが指し示してくれた道があったからだった。
グルカは星光宮内の自分の執務室でペランと僅かな会話を交わした後、これから御前会議が開催される事を教える。
ペランは御前会議という懐かしい言葉を聞き、感慨深げに昔を思い出していた。
「むかしはなんとも思ってなかったが、いまこうしてその言葉を聞くと、自分が宮廷での会議に出ていたのがまるで夢のようだ。ダリウスやコルデスも息災にしておるだろうな、勿論取り仕切っているのはガリフォンだろ」
「そうか、まだ知らなかったんですね。コルデスさまはお亡くなりになられました、いまではご長男が跡を継いでおられる。三男のブルースさまも近衛の騎士となって、大公殿下のお側に仕えていなさる」
「――――」
ペランが黙り込む。
「あのコルデスが死んだ・・・。気障で洒落者で、誰よりも要領のよかったコルデスが。信じられん」
「急な病でお倒れになり、そのまま息を引き取られた。これは下世話な噂話だが、毒殺されたという声も囁かれておりました。あのお方は文武双方に通じて、大きな発言力を持っておいでだったからな。敵が多かったのです」
「毒殺? 相も変わらず公宮というのは、下劣で陰湿な輩の伏魔殿なのだな。自らの国の柱とも頼りになる男を、そのような目に――」
「あくまで噂です、なにひとつ証拠はありません」
しばしの間、ふたりの間に沈黙が流れた。
そうしてグルカがなにかを思いついたかのように、顔をパッと煌めかせる。
「どうです、議場にそっと入ってみませんか。わたしになら、なんとか出来るかも知れません。出席者は三、四十人に上るはずです、末席に紛れ込めば分かりはしませんよ」
「ま、まさかそんなことが・・・」
ペランの顔が驚きの表情を見せる。
「まあお任せください、やるだけやってみます」
その顔には、どこか悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。
グルカはまさかそんな些細な自分の思いつきが、大公列席の御前会議という場で大騒動を起こすなどとは思いもよらなかった。
現在のトールン行政長官ヒースは、元は彼の部下である。
先の長官の引退により、年下のヒースが長官に就任した。
経験、能力、人望のどれを取っても、グルカの方が数段上なのは周知の事実だった。
それでも政治の場での人事というのは、家格と身分がものを言う世界なのである。
家柄の関係により長官となれぬグルカであったが、彼はそんな不遇に文句のひとつも言わず、元の部下に誠実に仕えていた。
実際彼には、人が考えるほどの不満などはなかったのだ。
いまの地位に就けただけで十分に満ち足りており、不満など持ちようもなかった。
母が望み、恩人であるペランが拓いてくれた役人という居場所で、地道に一生を終える。
それだけで彼は幸せだった。
長官もそんなグルカの人柄に惹かれ、敬意を持って彼に接している。
その行政長官に、本日の御前会議の末席に自分も列座したい旨を伝えた。
いままで彼がそんな政治向きな事に興味を持たなかったこともあり、ヒースは驚きながらもそれを許可した。
役職柄、グルカには参加するだけの職務的地位があったのだ。
ペランは彼の手引きで政務殿の朝議の間(『玄武の間』)に紛れ込み、グルカと共にひっそりとその最末席に座ったのであった。
これが昨日の御前会議に、ペランの姿があった顛末である。
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