第二章 時を越えた邂逅と別離 2-8
しかし彼と彼を取り巻く周囲が、不穏な雰囲気に包まれ出した。
ペランとネルバ家の嫡男ガリフォンを中心とした集団と、宮廷を牛耳る重臣たちとの間に顕著な対立が見え始めたのである。
旧態依然とした政を嫌う大公は、次々と斬新な政策を発布してゆく。
そのほとんどに若い家臣団たちの関与が取り沙汰され、政務を預かる大人たちから不満が囁かれ出したのであった。
その中心的存在がペランだとされ、彼は保守派家臣たちの恨みを一身に受けることとなってしまった。
それ以外の仲間とされる者たちはみな自分の息子や親族であり、あからさまな攻撃の対象とする訳にはいかなったという事情もある。
ペランと親しい関係にあるグルカも、近衛騎士団の中での立場を失って行く。
そんな対立が決定的となったのが、ブルガによる周辺国を巻き込んだ『大領主聯合(グレート・ロード・マールヂュ)』宣言であった。
いままで大国の動向に怯えていた小国どうしが連合を組み、まずは軍事同盟を結ぶ。
どこか一国が攻撃を受ければ、同盟しているすべての国が自動的に相手国に宣戦を布告するという、過激な着想の同盟である。
やがてそれを発展させ、通貨や経済さえも統一させてしまおうという、奇抜で大胆な発想であった。
しかし各国の主権はいままで通りにその国にあり、合議により政策を決めて行く。
それを纏める役を担うのは投票や多数決ではなく、平等な持ち回りとする。
その運営体制は一件緩やかではあるが、軍事や経済で緊密に繋がるために決して弱いものではない。
どこか一国でも綻びがでれば、それは他の国にも即時に影響が出るため、のらりくらりとした日和見は許されないのだ。
そんな途方もない大事を考案したのが、どうやら側近中の側近となっているペランであるらしいと喧伝された。
如何にもそれは、間違ってはいない話しだった。
ペランの小さな発想がブルガの大志を刺激し、ここまで壮大な大陸の勢力図さえ変えてしまうほどの大構想となったのだった。
ブルガは積極的に各国の王たちに働きかけ、当初は鼻にも懸けられなかった話しが、やがて一国、二国と賛同する国が出始めてきた。
一国の君主が自ら他国へと赴き、直接その国の王と交渉するなど古今の歴史において例のないことだった。
親書や使者であれば、それなりの対応でごまかすことが出来る。
だがサイレンの大公本人が現れるとなると、そうはいかない。
それに実際に逢ってみると、ブルガという人物に魅せられついつい会話も熱くなってしまうのだ。
しかもその話はサイレンだけが特別に得をする要素はなく、彼が小国が大国から受ける脅威をどうにかしたいといった、純粋な気持ちから来る情熱が感じられるものだったのである。
むろん大国による妨害工作は凄まじく、サイレンは多大なる経済的かつ安全保障的な苦難に立たされて行く。
それは他国からだけではなくサイレン国内、すなわち星光宮内からも激しく展開された。
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