第二章 時を越えた邂逅と別離 2-7
結局のところペランの願いは聞き入れられ、グルカは近衛騎士団への入隊が許された。
単なる一門番から、サイレンで最も華やかな近衛騎士団への登用などは、異例中の異例のことである。
騎士に叙せられれば、すでに身分は庶民ではない。
『騎士』は位外爵位と呼ばれ正式な意味での爵位でこそないが、それに準じる身分とされている。
国からそれなりの給金と官舎があてがわれ、最下位の者であってさえ従者を二名持つことが義務づけられる。
トールン防衛を主目的としてはいるが、対外の戦に出ることもある『聖龍騎士団』と違い、大公と星光宮とを守護するのが役目の近衛騎士団は、基本トールン域外への遠征はない。
例外はただひとつ、大公が星光宮以外の場所に行幸する際の随伴のみである。
ひときわ雅な出で立ちの近衛の騎士が、くつわ持ちと槍持ちを従え騎馬で街を闊歩する姿は、若きトールン女たちの羨望の的でもある。
グルカは一夜にして、そんな身分を手に入れたのだった。
しかも彼は異例な騎士団入隊だけではなく、『大公宮附連絡所』という特別な部署へ配属されたのだ。
むろんただそんな引き立てだけで、彼がその役に就いたわけではない。
普段自慢しているとおり、グルカの剣の実力は相当なものだった。
ペランやシュタイナーの腕前とは比較する術とてないが、町道場辺りにはすでに彼の敵はいなかった。
それに子どもの頃から私学の学問所に通い塾頭にまでなっており、勉学の方もそこいらの貴族の子弟以上に出来た。
そして生来の愛想の良さとこれでもかと言わんばかりの腰の低さも手伝い、周りのやっかみもそうまで酷いものにはならなかった。
グルカは夢にまで見た近衛騎士団への入隊に、身を震わせ歓喜の声を挙げた。
「ありがとうペランさん、なにもかもあなたのお陰だ。おいらこれから先、あんたに足を向けて寝られやしないよ」
彼はペランを見る度に、満面の笑みを浮かべ礼を述べた。
しかしたったひとり、彼の大出世に心を痛めている人間がいた。
〝倅が騎士さまだなんて、なんて大それた事になっちまったんだか。できれば一生を門番で過ごしてくれりゃ、それ以上の望みはわたしにゃなかったのに。なにか悪いことが起きなきゃいいが〟
グルカの年老いた母親だけは、息子の異例の出世を喜んではいなかった。
母親はことある毎に、息子に元の門番に戻ってくれるように懇願した。
「まったくおっ母さんと来た日にゃ、心配ばかりして煩いんだよ」
グルカからしょっちゅうその事を聞かされるペランは、自分が余計なことをしたのではないかと思うことがある。
しかしグルカはそつなく仕事をこなし、毎日がとても楽しそうであった。
〝俺の思い過ごしか〟
そんな彼の姿を目にすると、ペランも自分の考えが杞憂のように思われた。
そんなこんなでふたりは、ますます親密な関係となってゆく。
互いに大公宮に詰め、毎日顔を合わせるのだから当然の成り行きだろう。
必然的にブルガの覚えも目出度く、彼の騎士団務めはすこぶる順調なものであった。
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