第二章 時を越えた邂逅と別離 2-5
「ペランさん! あなたはペランさんじゃありませんか、その髭は間違いなくペランさんだ。お忘れですかわたしですよ、グルカです。早朝の左宮門詰所であなたに蜜入りの香草茶をご馳走した、門番のグルカです」
統括警護総監グルカ・エンドリーは大きく目を瞠り、髭の男にそう問いかけた。
「グルカ?―― おお、あのグルカか、すっかり立派になって見違えたよ」
相手の素性に気付いた髭面の男ペランが、大仰に驚いた顔になる。
「いままでどうなさっていたのです――。いや、そんな話しはここではなんです、どうか中にお入りください。わたしの部屋でお話し致しましょう」
グルカはペランを下にも置かぬほどの丁寧さで、公宮内へ招き入れた。
そんなグルカの態度を見て、門番たちは唖然となっている。
「入っていいのか・・・」
躊躇いがちにペランが尋ねる。
「なにを言っているんです。あなたは正式なサイレンの貴族で、リム大公家の家臣ではありませんか。名門シャーゼンウッド家唯一の後継者であり、いまでも大丞相への就任と公爵位の下賜を請求できるお立場なのです。いいえ黙りませんよ、みなが忘れていようとこのグルカは覚えています。ブルガさまがあなたにお与えになった権利を、わたしもあの哀しい場に居たのですから。あなたこそがサイレン宮廷と星光宮の、中心にいるべきお方ではありませんか」
グルカは世間に憚られるようなことを、恐れ気もなく口にした。
「そのようなことを衆人の前で――」
人目を気にしたペランが窘める。
「いいえ、あなた以外にすべてを知るわたしです。だれに遠慮などいりましょうか、嘘偽りなど申してはいないのですから」
きっとした目でグルカが言い放った。
ペランはグルカに促され、星光宮の敷地内へと足を踏み入れた。
十八年前に出奔して以来、二度と来ることはないと思われていた公宮へ彼は再び入ったのである。
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