第二章 時を越えた邂逅と別離 2-4
昨日の朝のことである、星光宮の正門の脇でひとりの男が、なにをするでもなく佇んでいた。
男がここに現れてから、すでに一刻(約一時間)近く経とうとしている。
初めのうちは地方からトールン見物にやって来た田舎者だろうと、気にもしていなかった門番も、さすがに胡散臭さを感じ始めた。
「おい、あの髭面の野郎いつまでああしているんだろうな。なんだか怪しくはないか」
いつものように手持ち無沙汰な表情の門番が、もうひとりの同僚に話しかける。
「ううむ、確かにもう一刻はあそこに立っているな。声を掛けて追っ払うか、厄介事でも起こされたら俺たちが叱られる」
そう言った方の門番が、男に近づいて行く。
「おいお前、こんな所に突っ立ってなにをしている。どうせ無関係な庶民は中には入れないんだ、さっさとどこかへ行け。トールン見物なら、いくらでも見る場所はあるだろう。大聖堂や学問院なら中に入れてもらえる、そっちへ行けば良い」
そう声を掛ける門番に対し、男はただにこやかな顔を向けるだけでなにも応えない。
「なに笑ってるんだ、お前少し足りないのか?」
呆れた門番は男の側頭部に指を当て、トントンと小突く。
「どうしたユゲル、なにか問題か――」
そこへ低く落ち着いた声が掛けられた。
「ん?」
門番が振り返ると、そこには彼らの上司であるグルカ・エンドリーが立っていた。
「あ、これはエンドリー閣下。いいえ、なんでもありません。一刻以上も門の前に立っている不審者がおりましたので、追い払おうとしていただけでございます」
グルカ・エンドリー、トールン行政府・統括警護総監の地位にある上級役人である。
トールン警護隊と公宮警護隊の両方を統括する重要な任務で、その上にはトールン行政長官しかないと言う要職であった。
庶民出身でありながらいまの地位にまで昇った、数少ない貴族や郷士以外の高級官僚のひとりだ。
若い頃は、いまの彼らと同じ公宮の門番をしていたという。
その飾らない気性はみなから好かれ、人気のある人物であった。
朝、昼、夕刻と一日三度は必ず各城門の視察を欠かさず、名指しで門番にまで心安く声を掛けてくれる。
「ならばよいが、手荒なことは致すなよ」
そう言い残し、その場を立ち去ろうとした。
「はて?」
グルカの表情が微かに変わった。
彼は行きかけた足を止め、門番が声を掛けていた男の顔を見返した。
「!」
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