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第二章 時を越えた邂逅と別離 2-1

 



 夜風に身体を預け揺れる火影の中で、ふたりは尽きぬ昔話しに花を咲かせた。

 隔たれていた時間を取り戻すように、話題は尽きない。


「ペランよ、お前が姿を消した気持ちを儂はよく分かっておる、逝っちまったコルデスも同じだ。今日のガリフォンの言葉は許してやってくれ、ブルガさまが亡くなられ一番苦労をしたのはあやつだからな」

 夜の静寂(しじま)も時を重ね、そろそろこの語らいも終わりにせねばならぬ頃になり、ダリウスが意を決したようにその話題を口にした。


「そのようなことは、言われずとも分かっているさ」

 ペランはなんだそんなことかといった風に、さらりと言ってのける。


「――やつはあの一件の後、しばらくの間家を出ておった。父御は一時期本気でガリフォンの廃嫡も考えたらしい。しかし四人もいる息子の中で、結局あやつ以上の男はいなかったのだ。なん年かはぎくしゃくとしたが、最後には元の鞘に納まった。すべてはブルガさまが現れる以前のサイレンに戻ったのだ、儂らも含めなにもかもがな」

 寂しそうにダリウスが天を仰いだ。


「あまりにもあのお方は大きすぎた、余人が真似の出来るような人間ではなかった。お前が朝議の場で言ったように、ブルガさまをなくしてしまったわれらに選ぶ道はなかった。お前がブルガさまとの約束を違え、姿を消さねばこの国はどうなっていたか分からん。ただ言えることは、けっして良いものにはならかったであろうな。お前にだけすべてを背負わせてしまったこと、どう謝っても謝りきれるものではない。すまなかった、ペランよ」

 しみじみとダリウスが、ペランの顔を見詰める。


「なにを謝るんだダリウス。お前もコルデスも、あのガリフォンも最後まで俺を見捨てなかった。その事は誰よりもこの俺が知っている、おとなしいユーディも人の下につくのを嫌うブラーディンまでが、親に逆らい俺を護ってくれようとした。こちらこそ感謝しているんだ、われらの友情は本物だったとな」


「そう言われると言葉もない、あの時のお前の心がどれほど辛かったか。ブルガさまと生死の境で交わした約束を、反故(ほご)にすることがどれほど苦しかったか。死んでいったお前の妻と義弟(おとうと)であるシャーゼンウッド家の姉弟にも、顔向けが出来ん」

 腹の底から絞り出すような震える声で、ダリウスが呟く。


「フローリアとマルコのことは口にしてくれるな、この俺の忘れられぬ後悔だ」

 ペランの髭に埋もれた顔が、痛々しく顰められる。


「それにガリフォンだとて分かっているのだ、あの時どうすることも出来なかったことは。だが素直にそれを認めるのが嫌なのだろう、あやつは誰よりも気高い人間だからな。分かっていながら、俺に突っ掛かっているんだ。ブルガさまとの約束を反故にして、逃げてしまったことを。逆の立場であったら、俺もああ言ったかもしれん」

「すまぬな、ペラン」

 ダリウスが、今宵なん度目かの謝罪の言葉を繰り返す。


〝わかっているよ、そうなん度も謝ってくれるな〟

 言葉に出さず、ペランがダリウスの肩にそっと右手を置いた。


「しかしガリフォンはよくやった、このサイレンをしっかりといままで護り抜いた。あやつだから出来たのだ、ほかの誰にも、この俺にだってこうは巧く国を動かすことは出来なかっただろう。それにな、――それにブルガさまも」

 一瞬ペランが口籠もる。


「ブルガさまも知っておいでだったのだ、自分が死んでしまえばすべてが潰えることを。分かっていながら、最後まで夢を見られた。その夢の欠片(かけら)が『遺訓・大公威命宣下の証』だったのだろう。死なねばならなかったあのお方こそが、最も悔しかったはずだ」

 訥々とそう言うペランを、ダリウスは黙って見ている。



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