第二章 時を越えた邂逅と別離 1-13
「なあに、お前にそう長いこと待たせはせん。幸いにもシュタイナーさまはノインシュタインのご領主の上に義理の弟、ダリウスは武門貴族の頂点であるマクシミリオン家の次期頭領。そうしてサイレンで大公家に次ぐ権力を持つネルバ家はガリフォンが嗣ぐことは決定的だ。経済の要でありサイレン第二の都市・商都シャザーンの領主ポルピュリオウス家の息子は、あの生意気なブラーディンだ。兄上が病弱なために、あいつが嗣子となっている。サイレン五名家の中の三家の次期当主がわれらの仲間で占められることになる。残る湖水地方の雄バロウズ家は、亡き先代エドガー殿の頃からブルガさまとは深い縁がある、敢えて敵に回ることはあるまい。そうなればブルガさまの大公としての地位も盤石、なにも恐れるものなどない」
揚々たる将来の姿を思い浮かべながら、コルデスの頬が紅潮している。
「武の面でも近衛騎士団は大公直属の兵で、それ以外の命には従わぬ。聖龍騎士団と正規国軍は、ダリウスと俺が纏める。殉国騎士団はシュタイナーさまが指揮され、バロウズ騎士団は先代からのブルガさま贔屓だ。星光宮も四大騎士団もすべて大公に忠誠を誓い、ともに手を携え善き政を進める。そうなれば異を唱えるものなど現れず、ブルガさまが自由にその能力をご発揮なされる環境が整うのだ。お前のことをとやかく言う連中にも、指一本触れさせたりはしない。これまでも、これからもお前は俺たちの変わらぬ仲間だ。お前が表面上おとなしく振る舞うからと言って、この関係が急になくなるわけではない。はじめてサリサリ市場で出逢ったときから、すでに俺たちは真の友なのだから」
いつもはどこか冷めた立ち位置のコルデスが、力強くそう宣言した。
「早くそんな日を見てみたいものだな、俺たちがサイレンという国を善き方向に導く日を」
感激屋のダリウスが泣き笑いになりながら、ふたりの掌を合わせて強く握りしめる。
コルデスが描いている来たるべき大公ブルガと星光宮、そして自分たちの姿は一点の翳りもなく光り輝いていた。
サイレンの未来は、どこまでも明るく真っ直ぐに伸びている。
それを微塵も疑わない若い三人は、固く手を取り合い互いの友情と来たるべき将来とを確認し合った。
この時の言葉通り、今後状況がどんなに変化してゆこうと、三人の信頼関係だけは一切揺らぐことはなかった。
しかし彼らはまだ分かっていなかったのだ、本当の世間の恐ろしさを。
それから三年後に自分たちを襲う、とてつもなく大きい嵐が吹き荒れることを。
若者たちの夢見る理想の前に現実という巨大な壁がそびえ立ち、そんな目算など粉々に吹き飛ばされてしまうことを。
運命の神がもたらすのは〝希望〟だけではない。
時代や歴史を動かそうとする者の前には、それを元の姿に修正させようとする揺れ戻しが必ず起きる。
あまりにも早すぎる時代の流れは、大きな力によって堰き止められてしまう。
時にそれは、残酷なまでに《《非常》》な形で。
世の中にはどうにも為す術のない〝絶望〟という名の運命があることを、この時の彼らは予想すら出来ないでいた、
彼らの鼻先を開け放たれた間口から吹き込んだ、いつもと変わらぬトールンの微風が〝さっ〟とひと撫でしていった。
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