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第二章 時を越えた邂逅と別離 1-12



「しかしこの頃、お前はそれ以上の存在になってしまっている。いまでは大公直属の、数少ない側近の一人だとさえ思われ始めているんだ。ブルガさまのご気性からしてやがてお前に、はなんらかの理由をつけて爵位が下賜され、貴族の末席に列されることになろう。ブルガ様の大切な子飼いの家臣として、宮廷内でも居場所を与えられることになる」

 このコルデスの見立てに、まずは間違いはあるまい。


「成り上がり者が譜代のサイレン家臣よりも引き立てられ、そこにブルガさまの過度な寵愛を受け官職を昇ってゆけば、警戒の標的にされてしまうのは当然のことだ。やつらにとっては名もなき庶民上がりの小僧が、自分たち以上に星光宮で出世をするのが我慢できないだろうからな」


 ペランは下男という立場に戻る事を納得した一方で、偏狭な考えで勝手に自分を排除しようとするものたちに対する憤りが、ふつふつと腹の底から湧いてくる。


「俺はただブルガさまのため、サイレンという国のためになりたいだけなのに。俺がいつ彼らになにをしたというのだ、彼らの生き方のどういう邪魔をしたというのだ。そもそも俺は貴族になんかなりたいわけじゃない、出世をしたいわけでもない。神にかけてただの一度として、そんなことを望んだことはない。ただブルガさまの側にお仕えし、お役に立ちたいだけだ」

 悔しげにペランが唇を噛む。


「そんなお前の素直な心情など、奴らが理解するはずはない。このままではお前は遠からず妬み嫉みの対象となり、身に災難が降り掛かるだろう。それをブルガさまのひと声で抑えることは出来ようが、奴らの恨みは目に見えぬ形で何倍にも膨らみ、いつかは理不尽な罪状を着せられ潰されてしまう。最悪の場合その矛先が、お前を寵愛するブルガ様に対する叛心へと繋がらんとも限らぬのだ」


 自分への妬みが、やがてブルガさまへの不満となって行く。

 そう言われ、ペランは〝はっ〟となった。


「あの者たちは普段、互いに蛇蝎のごとく相手を憎み啀み合っていようと、共通の敵である異物を見つければ、瞬く間に手を組みその排除に当たる。争いに敗れて星光宮から追われてしまうくらいならまだ良いが、下手をすれば命さえ狙われかねん。だから目立ちすぎる行いは慎まねばならんと言うのだ。いまはまだ単なる陰口程度だが、その内にさらに酷いこととなるだろう」

 自分の命が狙われる、ペランはいままでそんなことは露にも思ったことがなかった。


〝宮廷とは、そこまで醜い場所だったのか。多少の学問を修め人の世を知ったつもりになっていたが、人間の持つ汚さ、愚かさを俺は学んでいなかった〟


 ここまでのことを聞かされ、ペランは改めて自分の世間に対する認識の甘さを痛感した。


「だから俺はいまこの時点で忠告する、才を必要以上に表に出すな。目立たぬよう細心の注意を払え、いまはやがて来る日のために地道に自らを磨くのだ。目先の貢献などしなくとも、それが回り回ってブルガ様をお扶けすることに繋がる」

 コルデスは伝えるべき事を伝えきると、一気に杯の中のラジャ酒を飲み干した。


「わかった、これからは自重しよう。なるべく目立つ言動も控え、ブルガさまの下男という姿を貫く。なにせ初めっからそのつもりでお側に上がったのだ、特に気にすることはない」

 数瞬の沈黙の後、ペランがわざと明るくそう言って笑った。


〝初心に戻る〟

 ペランにとってはそれだけの事だ。


 そのなにかを決意をしたかのような顔を見て、コルデスとダリウスもほっとしたように笑顔になる。


「よく言ってくれた。やがてお前が世に出る日が来る、それは俺たちがよく分かっている。その時こそ思いっきり、世間やお前を邪魔にした連中に力を見せつけてやれば良い」

 ダリウスがペランの胸を拳で叩く。


「わかってくれたかペラン、いつの日かブルガさまのお側でともに働こう」

 相変わらず飄々としているコルデスの瞳に、珍しく微かに光るものがあった。


 晴れやかな面持ちで、ペランはふたりに対して頭を下げる。


「俺のためにそうまで言ってくれて、本当に感謝している。この忠告は俺の一生の宝だ、けして疎かにはしない。持つべきは友だな、ありがとうコルデス、ダリウス」

 ペランの目にも、うっすらと涙が浮かんでいた。



読んで下さった方皆様に感謝致します。

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