第二章 時を越えた邂逅と別離 1-11
「よいかペラン、大公であるブルガさまでさえ宮廷で安穏と暮らすのは、そう容易いことではないのだ。ましてやご自分の思う政を進めるには、幾多の障害が立ち塞がっている。その最大の相手がネルバ方爵家を筆頭とするサイレン五名家と、代々宮廷で権力の座を独占している世襲の大貴族たちだ。ましてやお前などは注意に注意を重ね、自らの力だけで身を護らねばならんのだぞ。政争とは命さえ削らねば勝ち残れぬ、剣や槍を使わぬ真剣勝負だ」
「まさか、ブルがさまはサイレンの大公なのだぞ。どのようなことでも出来るのではないのか? なのに好きに政さえ出来ぬと言うのか」
「君主ただひとりで国を動かすことなど出来ぬ。家臣の心を掴みその忠誠を勝ち取らねば、自分の思う国造りも出来ぬのだ。それはブルガさまとて同じ、だから無理をしてでも義弟であるシュタイナーさまがトールンに留まっておられるのだ。ブルガさまの防波堤となるためにな」
コルデスが諭すように言う。
「そのシュタイナーさまもあと一年すれば、領地であるノインシュタインにお戻りにならねばならん。フェリキアとの停戦期限が終了となるからな」
ダリウスが吐き捨てるように言う。
「その後はわれらが、ブルガさまをお支えしてゆかねばならん。家督を継ぐのはまだ先になろうが、宮廷内で正式な官職に就き地位を築かねば。無役の部屋住みでは、なんのお役にもたてんからな」
「俺もそのお役の端にでも加わりたい。ブルガさまを少しでもお扶けしたい」
勢い込んでペランが身を乗り出す。
そんなことくらい分かっていると言いたげに、コルデスが先を続けた。
「そんなお前の気持ちがわかっているから、こうして聞かせたくもないことを言っておるのだ。今のままでは、確実にお前は星光宮から排除されてしまう。お前がブルガ様の身の回りの世話をするだけの、単なる下男程度であれば誰も気にはせんだろうがな」
〝下男〟そう言われペランはブルガから乞われ、星光宮への宮務めを決めた時のことを思い出していた。
考えてみれば自分自身、近頃初心を忘れていたことを考えさせられる。
〝そうさ、俺は家来なのだ。ブルガさまの身の回りの世話をする下働きとして、汚れ事や力仕事をするために出仕するのだと思っていた。直臣に取り立てられたなど、微塵も思ってはいなかった。いまさらそこに戻ったところで、一向になんの不都合があるだろう。あのお方のお側に仕え、役に立てればそれでいいではないか〟
心の中で、そう言う思いが浮かんでくる。
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