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第二章 時を越えた邂逅と別離 1-8



 ペランはブルガに仕えると決めた日に、シャンブルの女房デミトリアが言っていた言葉を思い出した。


〝知り合いのおっ母さんってえのが、若い頃にお城務めしたことがあったらしい。ほんの僅かな間だったらしいけど、そりゃあ嫌な目に合ったって言ってたよ。宮廷などという所ほど醜い場所はない、家柄をひけらかし弱い者いじめばかりする。そのくせ自分よりも高い場所に座っている人間には卑屈になり、ペコペコと頭を下げることをなんら恥ずかしいとも思わない屑の集まりさね。いくらあんたが勧めようがそんな胸糞悪い所に、息子同然に可愛いペランを行かせるわけにはいかないよ〟


 そう言って、俺の宮廷務めを後押しする亭主シャンブルに向かって食ってかかった。


〝女将さんの言うことは、間違ってはいなかった〟


 いまさらながらペランは、しみじみとその折りのデミトリアの言葉を噛みしめていた。



「不本意かもしれんが自重するのだ、時間を掛け自分の立ち位置を少しずつ周囲に認めさせてゆけ。急いではいかん、いまにきっとお前が世に出る機会がやってくる。俺やダリウスがそうであるように、誰もが素直にお前を歓迎してくれる時が必ず来る。自分が望まれるようになるまで、地道に力を溜めじっと待つのだ。周囲にどうしてもと乞われた時に初めて立てば良い、残念だが、それはいまではない」


 飄々とした顔で特に気負った素振りも見せずに、彼は耳に痛いことをさらりと言った。



「――俺はそんなに嫌われているのか」


 あまりの衝撃にペランはうつろな表情でそうきいた。


「嫌われていると言うよりも、妬まれているのだ。いいかこのサイレンで最もブルガ様に信頼されているのは義弟であり宮廷内での右腕でもあるシュタイナーさまと、お前なのだぞペラン。それをもっと認識せねばならん。シュタイナーさまは悪魔の如き『殉国騎士団』を擁するノインシュタインの大領主で、大公の義理の弟という確固たる地位と実力がある。しかしなんの後ろ盾もないお前に取って、これは命にも関わる恐ろしい状況なのだ」


「恐ろしい状況? 命に関わる? いったいなんのことだ、なにを言われているのかさっぱりわからん」


「だからお前は貴族社会を知らぬと言うのだ。なぜあのノインシュタイン候シュタイナーが異例とも言える領地を分割してまで、ザンガー朝フェリキアと和議を結んだと思っている」

 いつもはどこかすっとぼけたような顔のコルデスの目が、いまはやけにギラギラと輝いている。

 それだけ真剣な話しをしていると言うことだろう。


「――すべてはトールンに上洛し、ブルガさまをお護りするためだ。大公とはいえ殿にはトールンにも星光宮にも、子飼いの家臣という者はひとりもおられぬ。そんな状況を危ぶまれたシュタイナーさまが、右腕として側に控えるために為された、一世一代の離れ業だったのだ。さもなくば領地の割譲など、いくら主が画策したところで、家臣一同了承するはずがない。ほんの寸土であろうが、彼らにとっては土地を手放すと言うことはしてはなら最大の禁忌だからな。父祖伝来営々と異教徒と戦をしている『殉国騎士団』と家老ラインハートが、そんな真似を許すわけがない。下手をすれば裏切り者として、斬られてしまい兼ねん」


「あ、主を家臣が殺してしまうと言うのか――」

 いくらなんでもそのようなことは信じられん、と言った面持ちでペランが呟く。


「それがあり得るんだよ、ノインシュタインに限ってはな」

 ダリウスが話しに加わる。



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