第二章 時を越えた邂逅と別離 1-7
「いいか、気を悪くしないでくれ。これから俺が話すことは、お前にとって人生を左右させかねない重要な事だ。聞きたくない内容もあるだろうが、我慢して聞いてくれ。俺たちは真の仲間なのだから」
コルデスは気を昂ぶらせるでもなく、いつもと変わらぬ口調で喋り続けた。
「才は隠しておくものだ、いざというときにほんの少し垣間見せれば良い。できればそれを人の手柄にしてやれればさらにいい。どれほどブルガさまから認められようと、お前は貴族出身ではない。言っている俺も悲しくなるが、所詮この宮廷と言う場所は出自がすべてを決める。目立ちすぎると足元をすくわれるぞ」
〝ならばなぜ俺を宮廷に上げたのだ。俺が望んだことじゃない、是非にもと頼まれてこうなったんじゃないか〟
庶民出身という身分がいけないと言われてしまえば、もうなにも言えなくなってしまうではないか、そう思いペランは心の中で憤った。
「言っておくがこの世界は出世や栄達などになんの興味もない俺や、単純で侠気の塊のようなお人好しのダリウスのような人間ばかりではない。いかに嫉妬されずに巧く躱しながら地位を高めて行けるか、それこそが肝要なのだ。世の中では女の妬みや僻み、嫉妬ばかりがその専売特許のように大袈裟に取り沙汰されているが、その実男の嫉妬以上に恐ろしく醜い感情は、世の中には存在せんのだ。それが権力を持っている貴族相手ならば、さらに細心の注意を払わねばならん」
事実宮廷や貴族社会というものは、庶民からは想像も出来なきほどに妬みや嫉みが渦巻いている場所であった。
彼の言うとおりに、男が放つ昏い嫉妬心こそがなによりも恐ろしい感情なのも間違いはない。
「力を力で圧倒できるほどの家門の後ろ盾がある場合以外は、敵を作らぬように慎重に立ち回らねばならん。それこそが魑魅魍魎が跋扈する、伏魔殿の如き宮廷で生き抜く処世術だ。貴族などと言う者たちの大半は、民の幸福せなどに興味はない。良き政をしようなどという愁傷な心は、爪の先ほども持ち合わせていない。奴らにあるのは自分の保身と、他人を蹴落とし今よりも贅沢な暮らしをすることのみだ。だからと言って彼らを家柄だけの愚者だと甘く見ると、大変なことになるぞ。人を陥れたり、奸計に嵌めることに関しては図抜けた知恵を絞り出す。自分よりも下賤な生まれの人間が、高い地位を持つことが我慢ならんのだ。讒訴により罪なき罪を着せられ、失脚していった者のどれだけ多いことか。奴らはそれだけの力を持っている、門閥貴族に生まれた俺が言うのだから間違いはない」
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