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僕と少女のちっぽけな冒険  作者: れおすぎ
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3

 ついにバレた。そう観念した僕だったが、店員は「今すぐ着られるようでしたら、タグを外させてもらいますが……」と、申し訳なさそうに切り出した。

「あ、じゃ、じゃあお願いします」

 僕は困惑気味に返す。まさか、そんなこと言われるとは思ってもみなかったから、なんだか拍子抜け。

 試着室から出てきたノルちゃんは「にぃに! どう!? 可愛い!?」と、はしゃいだ。僕は温かい気持ちで満たされた。

 その後、ショッピングモールで諸々の装備を整えた僕らは、張り切って仙台駅を目指したのだが、なんと数駅手前で終電を逃してしまった。

 マップのアプリによると、ここから仙台駅まで徒歩で四時間かかるらしい。

 僕だけならまだしも、ノルちゃんを連れて四時間徒歩は無謀も無謀。

 夜も更けてきて、二人とも体力の限界だった。――仕方ない。今日のところはここで夜をやり過ごそう。

 頭を切り替え、駅近で安いビジネスホテルでも探そうと思ったのだが――驚くことに何もなかった。

 何もなかったというと語弊がある。改札を出てすぐにセブンイレブンはあった。

 けど、それだけ。

 あとは古めの住宅街が広がっていて、なんだかオバケが出そうなくらい不気味で閑散としていた。

 ただ調べてみると、一時間ほど歩いたところに古民家を改造した宿があるとのこと。

 サイトの番号に電話をしてみると留守電だった。

 とりあえず僕らは古民家宿を目指した。

 部屋が空いているか分からないし、そもそも営業しているのかも定かじゃないが、そこしか縋れる場所がなかった。

 三十分ほど歩いた。

 スマホの充電が切れた。

 ノルちゃんの充電も切れた。フラフラとしてから座り込むと、コクリコクリと船を漕ぎ始める。

 活動限界だった。

 残り半分の道のりを、ノルちゃんを背負って行くしかない。――と、覚悟を決めた時だった。

 目の前に車が止まった。ダイハツの白のタント。運転席の窓が開き、「何やってるの? 君たち?」と、三十過ぎの眼鏡の女性が顔を出した。

 穏やかな顔立ちの彼女は三枝恵と名乗った。やけに心配してくれて、僕らを車に乗せてくれた。

 後部座席に座った僕ら。ノルちゃんは秒で爆睡だった。

 恵さんは僕らを古民家宿まで送ってくれると言った。

「なんでそこまでしてくれるんですか?」

 僕がそう問うと。

「だってお客さんだもの」

 と、恵さんはイタズラな笑みで返した。

 どうやら彼女が、古民家宿のオーナーらしい。奇遇だった。

 古民家宿は木造の二階建てだった。かなりの築年数と予測できるが、改装はしてあるようで小洒落た感じだった。

 僕らは二階の一番奥の部屋に通され、荷物を置いてから共用のシャワールームに案内された。

「他のお客さんはもう寝ちゃってるから、自由に使ってね。一応表の札、使用中にしておくから、終わったら元に戻しておいてね。――私はリビングにいるから何か困ったら呼んでね」

 恵さんみたいなお母さんが欲しかった。

 彼女は優しさに溢れている。

 こんな時間にふらふら歩いていた僕らを、理由も訊かずに招いてくれた。普通なら事情くらい訊きそうなものだけど、彼女はしなかった。それも、おそらくあえて。

 彼女のような心遣いというか、配慮というか、他人の気持ちを汲めるような人がお母さんだったらと、つい、思ってしまう。

 ないものねだりだ。

 無意味だし、虚しいだけ。

 でも、当たり前のように浮かんでしまう。まるで僕の思考がそうプログラムされているかのように。

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