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「冒険に出よっか」
僕がそう言うと、ノルちゃんは小一らしい無邪気な笑顔を咲かせた。元気よく飛び跳ねる姿は、見ていて僕の心をポカポカと優しい気持ちにさせる。
「おうちの外、出れるの⁉ にぃにと二人で出れるの⁉」
「うん、出れるよ。好きなところに、ノルちゃんの行きたいとこまで行こうか」
「やった〜!! ――あ、でも……」
「ん?」
「にぃに、ダイガクのジュケンがあるって……。勉強しないとママに怒られるって……」
いっぱいの涙を双眸に浮かべ、うるうると覗き込んでくるノルちゃん。
今日は十二月十三日。足切りである共通テストまでちょうど一ヶ月だ。彼女の言う通り出掛けている暇などない。一分一秒たりとも無駄にはできなし、母さんに大目玉を食らってしまう。
学校をサボり、あまつさえ受験勉強を放棄することは、僕の人生に多大なマイナスになるのかもしれない。少なくとも、母さんはそう言うだろう。でも――。
「いいんだ」
勉強より、大学受験より、僕は今、ノルちゃんを連れ出したい。
学校に行けず、鳥籠に囚われたように過ごしている彼女を、外の世界へ連れ出したい。――そして、彼女が楽しんでくれたら、幸せだと少しでも感じてくれたら、これ以上のことはないだろう。
「僕はノルちゃんと冒険に出たい」
言うと、彼女の不安げな表情はどこかへ消えて、少し恥ずかしそうに笑った。
「どこ、行こうか」
「ディズニーランド!!」
即答だった。行き先が決まった。
宮城から東京、千葉へ。
ロクに遠出もしたことがない僕たちにとって、果てしもない、それこそ冒険になるだろう。
初めてだらけだし、何が待ち受けているか想像もつかない。――とりあえず仙台駅まで出て、そこから新幹線で東京目指すことにしよう。
この冒険の結末は分かりきっている。
これから僕がすることはノー勉で大学受験に挑むも同然。バッドエンドに他ならない。
でも、そんなことは重々承知している。
たとえ冒険の行く末が変え難い現実だとしても、僕は踏み出さなければならないし、踏み出したいと、ノルちゃんと繋いだ反対の手を握りしめる。
無謀だ。愚かだ。そう揶揄されても、僕はノルちゃんを冒険に連れ出す。それが僕にできる、最大の愛情表現だから。
「いこっか」
「うん!!」
宮城の辺境から、アパートを飛び出してディズニーランドまで。――これが、僕ら二人の冒険だ。