7話
時間は少々巻き戻る。
交渉が終わった後、ライアンの身柄はアランへと引き渡された。もちろんダイアナの身柄も一緒に。
拘束されていたライアンは馬車へと乗せられ、ウィリアムズ公爵領へと連れて行かれた。
そして馬車から下ろされると、新しい住居が与えられた。
あれだけのことを仕出かしておいて、まだ命があること自体が幸運だったが、ライアンは生活のグレードが下がったことに不満をいだいていた。
その結果、あろうことか馬車の御者に対して不満を述べたが、相手にされることはなかった。
否応なくライアンはその新住居での生活を余儀なくされた。
次の日からダイアナの勧めでライアンは職を探すことになった。
ライアンは渋々職を探し始めたが、何故か職は一つしか見つからなかった。
ドブさらいだ。
この国では罪人のみにさせられる職だ。
実は、アランがドブさらいの職にしか就けないように手を回していた。
ライアンは当然王族たる自分の仕事ではない、と嫌がった。
しかし日銭を稼ぐにはやるしかなかった。
ドブをさらう毎日。
下水の掃除もさせられるので、体には悪臭が染み込んでいく。
ドブさらいを毎日させられる屈辱に、ライアンの王族としてのプライドはズタズタになったが、ダイアナという愛している人物がいたから耐えることができた。
もともとライアンの資産目当てだったダイアナは、一ヶ月でライアンの元を去った。
ダイアナと心の底から愛し合っていたと思っていたライアンは絶望し泣き叫んだ。
結局のところ、ライアンが信じていた真実の愛はまやかしでしかなかった。
とても働けるような心理状態ではなかったが、生きるためにはドブさらいを続けなければならない。
失意の中、プライドがじりじりと削られていくライアンにとって地獄の毎日が続く。
そして次第に生きる目的も、希望も無くなりかけた頃。
ウィリアムズ公爵領にとある噂が流れ始めた。
ソフィアとライトが婚約した、という噂である。
ソフィアとライトの噂は至るところで流れていたので、ライアンは聞きたくなくても耳に入って来た。
曰く、二人の仲はとてもよい。とてもロマンチックな出会い方をした。
そんな内容だ。
ライアンの中で、憎悪の炎が燃えた。
「ふざけるな! 何故だ! 私だって真実の愛だったんだ! 出会い方が! 身分が違うだけじゃないか! なぜアイツだけ幸せになっているんだ!」
ライアンは目から涙を流し天井を睨みつける。
そして爪が食い込むほどに手を固く握り込む。
「そんなことは許さないぞ……! 認めない!」
そしてライアンはその夜、家を出た。
一本のナイフを握りしめて。
向かうのはソフィアのいるウィリアムズ公爵の屋敷だ。
目には憎悪が宿り、歩く姿は尋常ならざる様子だった。
そして屋敷に着いた。
ライアンはナイフを持って二人いる門番に近づく。
「ん? なんだお前は」
「どけぇぇぇぇっ!!」
ライアンはナイフをぶんぶんと振り回し、門番へ切りかかる。
「なっ、何だお前は!」
しかし戦闘のプロである門番に歯が立つわけがなく、ライアンはあっさりと取り押さえられた。
「離せぇぇぇぇっ!」
ライアンはソフィアへの罵詈雑言を吐く。
だがその門番の前で吐かれた言葉は屋敷の中にいたソフィアには全く届くことは無かった。
それどころか、ソフィアはライアンが来たことすら知らなかった。
ライアンは捕まり、牢屋へと入れられた。
そして法の裁きが下された。
王族という身分ではなくなったライアンには重い罰が下された。
死刑である。
平民が貴族の殺害を試みたのだ。当然だった。
断頭台へとライアンは立たされた。
隣には同じく死刑にされるダイアナが立たされていた。
彼女はライアンから逃げた後、ウィリアムズ公爵領を越えようとしたところ、関所で捕まったためだ。
彼女は本当は貴族の殺害は試みてなかったのだが、ライアンと一緒に住んでいたことと、ダイアナが捕まっていることを知ったライアンが道連れにしようと共謀していたと供述したため、死刑にされることになった。
ギロチンの刃が落ちてくる。
ライアンは最期までその瞳に憎悪を宿していた。
名も無き一市民が処刑された後。
ソフィアは何の不自由もなく暮らしていた。
婚約者のライトとは婚約を結んだことでより一層距離が縮まり、以前よりも仲は深まっていた。
現在は二人ともウィリアムズ公爵領で暮らしている。
次期国王、王妃なのだから、本来なら二人は王都にいなければならない。
しかしこうして公爵領にいるのは、公務は今の所発生していないので、出来るだけ心穏やかに暮らせるようにというアランと国王の配慮によるものだ。
政治によって心をすり潰してしまった二人の子供たちに向けての謝罪でもある。
愛を誓いあった二人は何者にも邪魔されることなく、ソフィアとライトは幸せに暮らした。
そして数年後、国王は王の座から退き、ライトが国王として王座に就いた。
ライトは賢王と呼ばれた。
ライトは国の改革に力を入れ、劇的に国民の生活を改善した。
あまりにも的確に、国民の悩みを解決していったため、当初は「実は平民だったのではないか」なんて噂も流れた程だった。
そしてソフィアはそのライトを側で支えた偉大なる国母として称えられた。
永遠の愛を誓いあった二人は、遥か未来まで語り継がれた。
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