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5話



「自由に生きていい」


 父であるアランはそう言っていた。

 ソフィアがライアンから解放された後、ウィリアムズ公爵領に行く前にそう伝えられた。


 ガラガラと音を立てて走る馬車の中でソフィアは外の景色を見ながらため息をついた。


 自由とは何か、分からなかったからだ。


 今まで決められた人生を歩んできた。

 だから今更自由を与えられたソフィアは、それを持て余していた。


 馬車がウィリアムズ公爵領に入る。

 久しぶりに訪れた公爵領は王都にも引けを取らないぐらいに発展していた。


 ソフィアの目が少し開いた。


 今までは決して届かないと思っていた物。しかし届くと知った今、それらはキラキラと輝いて見えた。


(外に出て、歩き回ってみたい……!)


 ソフィアは強烈に心を動かされた。


 そして外の景色に目を奪われている内にソフィアは屋敷へとついた。

 早速ソフィアは「外へ出てみたい」と使用人に告げた。

 しかし否定される。


「それは出来ません。ソフィア様の体調を鑑みて、一ヶ月間は屋敷の庭より外へは出さないように、とご当主様からいいつけられていますので」


 ソフィアはここ最近、ライアンから受けたストレスで何度も熱を出し寝込んでいた。

 そのため、アランはそのように告げたのだろう。

 ソフィアを縛るための言葉ではなく、単純にソフィアの体調を気にして言った言葉だった。


 しかしソフィアにとってアランの言いつけは邪魔な鎖でしか無かった。


 そして、ソフィアはあることを思いつく。


 それは今までなら考えなかったこと。

 言いつけを破って、外へと出かける。


 普通の子供ならとっくに経験しているはずの、親への反抗心だった。


(私は、自由になりたい……!)


 手にした自由を謳歌するため。

 今まで自分を閉じ込めていた殻を破るように。

 ソフィアは自分を縛る鎖を引きちぎり、外へと飛び出した。


 屋敷の窓から抜け出して、ソフィアは街へ出かけた。

 服は街の人間に溶け込めるように、出来るだけ質素な服を着ていった。

 フード付きの外套を深く被り、ソフィアは街を歩く。


 新鮮だった。

 見たこともない食べ物。屋敷で着るようなドレスとは違う可愛らしい服。怪しげな老婆が売っているアクセサリー。

 今まで見たこともない光景にソフィアは胸を躍らせた。


 周りをくるくると見ながらソフィアは歩く。


 そして、知らぬうちにソフィアは路地裏へと迷い込んでいた。

 表通りとは違い、路地裏は暗い雰囲気が漂っていた。


 しかしテンションの上がりきったソフィアはそれに気づくことはなく、興味深そうに積み上げられた木箱や樽を眺めている。


 複数人の足音がソフィアの前で止まった。


「おい」


 ソフィアは声の方向に顔を向ける。

 そこにはいかにも街の不良、といった風貌の柄の悪い男たちがいた。


 ソフィアは気圧される。

 どう見ても目の前の男たちはソフィアに対して良くない感情を抱いていたからだ。


 男たちは下卑た笑みを浮かべた。


「お前、金目のモン出せよ」

「わ、私お金なんて持っていません」

「嘘つくな。そんな高そうな服を着て金を持ってない訳ねぇだろうが」


 それは貴族と平民の価値観の違いだった。

 ずっと高級な服だけを着て過ごしてきたソフィアにとっては今着ている「質素な服」でも、平民にとっては十分に高そうに見える服だった。


 ソフィアはここで自分の常識が世間からずれていることを自覚した。


「本当にお金は持っていなくて……」


 お金は本当に持っていないので、そのことを伝えた。

 ソフィアはお金目的ならこれで諦めてくれるのでは、と考えたが男たちは逆にニヤニヤと笑った。


「金がないなら体で支払ってもらおうか……!」


 男たちが笑う。

 そして一人がソフィアへ手を伸ばしたとき、その手を誰かが掴んだ。


 男たちの腕を掴んだのは、黒髪の男性だった。

 服装を見る限り恐らく平民だが、その男性は恐ろしいほどに顔が整っていた。

 街を歩いていたら十人が十人振り返るだろう。


 そんな男性が睨みつけているので、息を呑むような迫力があった。

 不良の男たちも気圧されている。


「なっ、なんだテメェ!」

「女性に乱暴しようとしているバカを止めようとしているだけだ」

「離せ!」


 腕を掴まれた男がもう片方の手で殴りかかる。

 しかし掴んだ腕を離すことなくそれをひょいと避けるとカウンターで腹部に拳を入れた。

 男はうめき声を上げてうずくまった。


 明らかに武術に心得のある仕草だ。


「お、お前ら! 全員でかかれ!」


 残りの男たちは一斉に飛びかかった。


 そして数分後、不良の男たちは全員地面に倒れていた。

 黒髪の男性が全て倒してしまったのだ。

 黒髪の男性はソフィアの方へと向く。


「おい、大丈夫か?」

「あ、ありがとうございます……」


 目の前の光景に呆気に取られていたソフィアは男性の言葉で我を取り戻し、お礼の言葉を述べる。


「まったく……貴族さまが一人で出歩くんじゃない」

「すみません……」

「次からは気をつけるんだな」


 黒髪の男性はそう言うと歩き去ろうとしたので、ソフィアは慌てて引き止める。


「あっ……! 待ってください! お名前を教えて下さい!」


 ソフィアの必死の引き止めに、黒髪の男性は面倒くさそうに振り返り、手短に名前を述べた。


「……ヴァンだ」


 ヴァンと名乗った男性はまた歩き出す。

 それにソフィアは後ろからついていく。


「……おい、なぜついてくる」

「実は迷ってしまって……」

「面倒くせぇ……」


 ヴァンは深くため息を吐いた。


「ついてこい」

「っ! はい!」


 ソフィアは満面の笑顔でヴァンについていった。

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