4話
「ウィリアムズ公爵」
「国王様」
部屋の中にはすでにアラン・ウィリアムズ公爵がいた。
国王が名前を呼ぶとアランは立ち上がり、国王へ挨拶をする。
どちらとも表面上はにこやかな笑みを浮かべているが、アランは内心腸が煮えくり返り、また国王は冷や汗が止まらなかった。
国王は自分から切り出すことにした。
「ライアンから全て聞いている」
「はい」
「本当に、申し訳なかった。これはライアンの独断専行で王家の意思ではないことを分かって欲しい」
国王は頭を下げる。
普通は身分が下の貴族に頭を下げることはないが、今回は内容が内容だけに頭を下げざるを得ない。
「ソフィア嬢を側妃にしようとしたうえ、婚約破棄を突きつけた、と聞いた」
「はい。その上ソフィアに手を上げた、とも聞いております」
国王は初めて聞く話に戸惑った。
「今何と……? 手を上げた……?」
「はい。ソフィアが側妃にすることを抗議したら、手を上げて怒鳴りつけた、とソフィアからはそう聞いています」
国王はライアンから聞いていた話とは全く違うことに激しく動揺した。
そして、もしかしたら……と、アランに質問する。
「公爵、私の知っているライアンから聞いていた話とはかなりかけ離れている。どうかソフィア嬢が話していたことを教えてほしい」
「了解しました」
そしてアランは話した。
側妃にする、とすでに決定事項のように言われていたこと。側妃にすることに抗議したら激しい非難と罵声を浴びせられたこと。そして暴力をふるわれたこと。
国王はその話を聞いて、怒りに身を震わせる。
「ライアン……! この私に嘘をついてたのか……!」
「如何されるおつもりですか?」
今度はアランが国王に尋ねる。
もちろんライアンをどうするのか、という質問だ。
国王はゴクリと唾を飲み込んだ。
ここで対応を間違えれば、国内で大きな力を持つ公爵家と争うかもしれないからだ。
「もちろん、廃嫡することは免れないだろう」
「そうですね。大事なのはそれからをどうするか、ですか」
「ああ。だが流石にライアンがここまで酷い嘘をついているとは思わなかった。──だから、全て公爵が決めてほしい。拷問するなり、好きにしてもらっても構わない」
「好きにしてもいいと……?」
「ああ、ライアンの自由も何もかも、全てを公爵に渡そう」
アランにとっても、国王のした提案は意外だった。
ライアンの生殺与奪を握ってもいいということは、つまりウィリアムズ公爵家が王家の血を手に入れることと同義だ。
廃嫡になったとしてもライアンは元王子。
政治的な取引には使うことも出来るし、ウィリアムズ公爵家が謀反を企んでいるとしたら、ライアンを次期王に掲げて戦争をしかけることが出来る。
もちろん、謀反を企んでいる相手に渡してもいい。
他家に対しても王家に対しても政治的にかなり優位に立つことが出来るのは間違いない。
ライアンは強力なカードなのだ。
国王は自分の首に剣を当てさせたようなものだ。
国王はそれほど申し訳ないと思っているのだろう。
謝罪としては過剰なほどの対応からそれが読み取れる。
アランは王家からの謝罪を受け取った。
「ならば、ライアン殿は私が自由にさせて頂きましょう。それで今回の件は解決、ということで」
「ああ、ありがとう」
「それでは、後処理をどうするか話し合いましょうか」
「そうだな」
そして国王とアランは今回の事件を対外的にどう発表するかを決めた。
そして結局、婚約破棄はライアンに非があるため、慰謝料は王家から公爵家に支払われること、そしてソフィアの名誉を守るような経緯を王家の方から説明することが定められた。
国王とアランは立ち上がり握手を交わす。
これにて取引は終了した。
部屋から出て、王宮の廊下を歩きながらアランは呟いた。
(平民に落とされた程度で済むと思うな。覚悟していろ、ライアン)
◯
「それでは行ってまいります」
「ああ、気をつけてな」
ソフィアはアランに別れの挨拶をする。
ソフィアは王都を離れ、ウィリアムズ公爵領へと向かうことになった。
目的は傷ついたソフィアの心を癒やすため、そして一度政治の思惑から外させるためだ。
静かな屋敷で自然に触れながら休んでいたならすぐに心も癒やされるだろう。
そして三日後、ソフィアはウィリアムズ公爵領についた。
ソフィアはそこで運命的な出会いを果たすことになる。