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1話



 私の名前はソフィア・ウィリアムズ。

 この国の公爵家に生まれた公爵令嬢だ。

 私には婚約者がいた。幼少期から婚約していたため、選択権は無かった。


 相手はこの国の王子、ライアンだ。

 私は彼と婚約し、将来正妃となる予定だった。


 そのため、私は王妃教育を施されていた。

 期間は、生まれてからずっと。


 遊ぶ暇もなく、私は王妃としての教育を叩き込まれてきた。

 本来あるはずの自由も無く、私は全てを正妃になる為に費やしてきた。


 何度も自問自答したが、「これは国のため、未来のためなのだから」と我慢して努力してきた。


 しかし。


「私はこの女性を正妃にする!」


 ライアン王子は、私ではない別の女性を正妃にすると宣言した。

 なんの前触れもなく、ある日突然に。


 そう言って紹介されたのは平民の女性だ。

 出会ったのは一ヶ月前。街でライアンとぶつかって、そこから恋仲に発展したらしい。


 照れながらそんなことを紹介するライアンに、私は何を言っているのか理解出来なかった。

 ライアンは今まで私が努力してきたことも、全ての時間を正妃になるために費やしてきたことも知っているはずだ。


 それなのになぜ……?


「それは、どういうことでしょうか」

「だから、私はこの女性を正妃にすると言ったんだ。聞いていなかったのか?」


 ライアンは眉を寄せて不機嫌そうに私へ言った。


「私は真実の愛を見つけたんだ! この女性以外正妃にするのは考えられない!」

「そ、そんな私みたいな平民が王妃さまなんて……えへへ……」


 ダイアナ、という名前らしい、その女性はライアンと熱い視線を交した。

 ダイアナは王妃にするとライアンに言われて満更でもなさそうに笑った。


「彼女が正妃になるのなら私はどうなるのですか」

「君は側妃にする」


 なんてことのないように。

 別にさして重要ではない、といったように。

 特段気にも留めず。


 ライアンは私を側妃にする、と宣言した。


「そんな……」


 私は絶望して声を漏らす。

 今までの努力を、全て否定されたのと一緒だ。


「そんなの……無理です。私はずっと王妃教育を受けてきたんです。今まで努力も、時間も、全てを私は捧げてきたんですよ!」


 私はライアンに訴えた。

 しかし。


「ああもう、うるさいな! 君はさっきから自分のことばかりだな! 少しは私のことを祝ったらどうなんだ!」


 ライアンは逆ギレして怒りを顕にした。


「え……?」


 この男は今何と言った?

 私が、自分のことばかり?

 自分のことばかり言っているのはそっちでは……?

 私の都合や事情も考えずに、全部台無しにしたのはライアンなのではないだろうか。


「今まで結んでいた婚約を台無しにしたのは、そちらではありませんか」

「別に台無しにはしていないだろう。ちゃんと側妃にすると言ってるじゃないか」

「それが台無しにしていると言っているんです……! 私の人生をかけてきたのに何故そんな軽々しく──」


 突然、ライアンが私の頬をはたいた。

 パン! と乾いた音が響いた。

 私は叩かれた頬に手を当てる。

 じん、と熱を帯びていた。


「私だって人生を好きに生きる自由がある! 大体、君が勝手に人生をかけてきただけだろう! 恩着せがましいぞ!」


 ああ。

 そうか。理解していなかったのだ。


 責務の重要さも。

 国の未来を担う王族とはどうあるべきかも。

 だから私がこれ程努力したことも。


 知らないから、こんなに酷いことが言えるんだ。


 ダイアナも会話へ参加してくる。


「ライアン王子だって人間なんです。生まれを選べないのですから、使命を背負わせるのは酷だと思います……!」


 綺麗事だ。

 果たして国民のうち何人がその言葉に頷くだろう。


 ライアンは今まで平民が一生をかけても着れないような高価な服を着てきた。

 税金でシェフが腕によりをかけた料理を毎日堪能してきた。


 今まで美味しいところだけをすくってきて、なのに自分はそのお返しを国民にしない、なんて理屈は通用するのだろうか。


「ダイアナ……ありがとう。私の心を代弁してくれた。……それに比べてソフィア、君は最低の人間だ」


 ライアンは私を静かに罵った。


 なぜ、私がここまで言われなければならないのだろう。

 なぜ、ここまで酷い扱いを受けなければならないのだろう。


 もう疲れた。

 この人と関わりたくない。


 だから、私はライアンに告げることにした。


「じゃあ、もういいです。婚約を破棄しましょう」


 あなたを見捨てることにします、と。


「…………何だって?」


 私が「婚約破棄しましょう」と言うと、ライアンは聞き返してきた。


「ですから婚約破棄しましょう。私と、あなたの」


 私はもう一度同じ言葉を繰り返す。

 するとライアンは頬に冷や汗を流して焦り始めた。


「待ってくれ。どうしてそういう話になるんだ」

「王子のお言葉を聞いて、自分の考えの至らなさに気づきました。私のような未熟な人間が側妃になるなんて出来ません。ですので婚約を破棄させていただきます」


 本当はライアンにこれ以上関わりたくなかったからだが、面と向かって言うわけにもいかず、私はでっちあげの理由をさらさらと述べた。

 心にもないことだったので若干棒読みになってしまったがライアンは気づかないだろう。


 ライアンは必死に私を引き止める。


「ま、待て」

「何故でしょうか」

「君と婚約破棄になったら、私の評判が下がるだろう」


 心の中で、ライアンを軽蔑した。


 確かに、今のタイミングで婚約破棄となったら責められるのはライアンだ。

 だがそれは当然のこと。

 勝手に平民の女性を連れてきて正妃にすると言っているのだから。


 なので、ライアンの言っていることは人としてあり得ない。

 まさかここまでしでかしておいて、引き止める理由が自分の評判を気にしてのことなんて。

 まぁ、ずっと自分の評判のことばかり気にしていたから、側妃にするなんて宣言をしたのだろうけど。


 それにしても最低だ。


「私は一から自分を見つめ直したく思います」

「だから待てと言っているだろう! 私のことも考えて──」

「王子は、先程から自分のことばかりですね」

「っ……!」


 私はさっきライアンに言われた言葉をそのまま返した。

 ライアンは悔しそうに押し黙る。


「それでは、ごきげんよう」


 ライアンが二の句を告げられないことを確認すると、また引き止められないように私は挨拶をして颯爽とその場を後にした。

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