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アナザーフロンティア  作者: シュナじろう
オストリス・ゴースト
9/37

ハイト城、再び

前回のあらすじ三行

紫のサーチポイントコワイ

妹の手料理!

兄「小太刀、小太刀をくれ……!」


 今日から夏休みだ。

 おそらくルーチンとしては、宿題が終わるまでは早朝に軽い鍛錬と朝食、その後は宿題に時間を回して午前中は終わり。ゲームにログインするのは、兄さんが家にいる日は午後に軽く鍛錬をこなしてからになるだろう。そうでなければ多分、午後一からログインできそう。時間帯的にはおおよそ午後3時くらいか。あとは夕食後にちょっとやって終わりくらいになるのかな。

 というか、今日兄さんと相談して、そんな感じのスケジュールにしたし。

 まぁ、兄さんの場合は道場の方があるから、休み以外は夕方以降の限られた時間しかできないんだけどね。

 そんな感じで、やることを済ませてログインした私を出迎えたのは、すっかり夜のとばりに包まれたハイトの街並みだった。

「……そっか。今はゲーム内では真夜中だったっけ……」

 アナザーフロンティアの中では体感時間などが引き延ばされ、これにより現実とゲーム内の時間にずれが生じる。

 こうした事情から、昼間にログインしたのにゲーム内の時間とずれていた、ということはこれから先もよくあることだろう。

 明日も同じ時間にログインするとすれば、その時はゲーム内でも昼過ぎから夕方にかけてのプレイ、という計算になるだろう。

 明日分のゲーム内時間と現実の時間の差を表すタイムテーブルで確認したから、まず間違いない。

 ちなみに昨日の食後にも軽くログインしたものの、ゲーム内の日の出日の入りは、現実の世界におけるその日の時間に則しているのか、夏真っただ中の今はゲーム内でも日没が遅い。

 そんなわけで、夜のマップ自体は実は今日が初体験だったりする。

 そう――初体験、のはずなのだが……没入型VRゲームを謳っているのに、残念ながらその現実味は私にはそれほど感じられなかった。

 種族固有スキルの暗視効果の影響で、夜空の下だというのに昼間と同様の視界が確保できてしまっていたためだ。

 あちらこちらで行燈のほのかな灯が路面を仄明るく照らし、道行く人の導として活用される……のだろうけど、果たして死霊達の街でそんなものが必要あるのかどうか……。

 はっきりいって、現状では違和感大アリとしか言いようがない。

 それにしても……どうにも、微妙にやることに困る時間帯にログインしてしまったようだ。

「…………兄さんたちに会いに行くには危険な時間帯だし……また、お城にでも行ってみようかな……ん?」

 ふと、視界の端に、『i』のマークが点灯していることに気づく。運営からのお知らせが来ている通知だ。

 内容を確認してみると……どうやら、正式サービスに向けて調整を予定していた内容と実際の内容との間に、少しだけ不備があったらしい。

 私に関係する話だと――足軽幽霊たちが落としていくアイテムの内容とドロップ率が、ワンランク下の『レイス』というモンスターの者になっていたらしい。

 レア枠、つまりめったに当たらない方のアイテムは間違ってはいなかったようだが、通常枠の方は『霊核・屑』が1個ではなく、2個だったらしい。つまり、半分損している。

 お詫びとして、損した分の『霊核・屑』が配布されたらしい。

 持ち物を確認してみると、確かにお知らせにあった通り霊核・屑がいくつか届いてた。

 私的には全然知らなかった話だし、儲かったとしか思ってないんだけどね。

 それにこれから探索可能な時間が伸びるのも結構嬉しい。

 まぁ、落とさないこともあるから、過度な期待は禁物なんだけどね。

 それから、生産職向けに予定されていた調整についても、未実装だったものがあったらしい。

 なんと、予定では生産系スキルの初期装備にあたる生産器財、『簡易○○キット』というものが与えられるはずだったらしい。

 それが、トラブルにより配布されていなかった……つまり、プレイヤーたちは生産系スキルを手にしても、各自大枚をはたくなり専用のクエストを受けるなりして、自力で探し出さねばならなくなってしまったらしい。

 さすがにこれは運営としても軽い補填で済ますわけにはいかなかったらしく、まず生産系スキルを持つ人全員に保有しているスキルに応じたまとまったゲーム内通貨が配布されることに。

 さらに、なんと全員にエマニノの街で購入できる生産器財がプレゼントされるという大判振る舞いがなされた。

 私も、クエストを受けずともこれで料理や調合ができるようになったわけだけど……せっかく受けたクエストだもんね。

 お城にあるって言う器財も気になるし、私は引き続きクエスト達成を目指して動こうと思っている。

 さぁ、それじゃあ改めて気を引き締めて、気合充填。

 さっそくハイト城へと出発だ!


 そうして訪れた、昨日振りのハイト城。

 昨日と同じく、今日も門の前には門兵が配置されていた。

 ちなみに今日は両方とも刀持ちだった。

 昨日でこいつらと戦うときの立ち回り方は完全に覚えたので、今日はもう完全に消化試合だった。

 櫓門をくぐり、そして昨日とは反対側の櫓の根元に回ってみる。

 昨日は、確か隠れるようにして櫓の入り口があったから……こっち側の櫓にも、もしかしたらあるんじゃないかなぁって思ってたんだけど……やっぱりあったね、櫓の入り口。

 開いて中を覗いてみたら、数体の足軽幽霊が襲い掛かってきたのも昨日と同じ。ただ、こっち側の櫓では二体しか出てこなかったけど。

 う~ん、残念ながらクエストの達成条件になりそうなものは見つからなかった。SPすらなかった。

 見つかったものといえば、沢山の石が入った木箱や、大きな木の盾。盾、と言っても敵の矢とかを防ぐために後ろに支えを設けて立てかけるやつだ。アイテム扱いではないので、持ち運びはできそうになかった。

 石はおそらく、礫にして投げたり落としたりするやつだろう。櫓門の床の一部が開くようになってて、そこから敵の頭上に落とすんだよ、多分。

 何もなければ仕方なし。私はそのまま櫓門を渡ることなく退出し、城郭外観の探索へと戻った。

 こちら側からは壁に囲まれて進めなくなっているので、道を引き返して昨日行った方向へと進んでいく。

 こっちの櫓の中はすでに調べたのでそのままスルー。

 少し進んで、角を曲がったところに待ち構えていた二体組の足軽幽霊と戦闘になり、無事に勝利を収めた。

 この足軽幽霊たちはレベル3で、HPは2だった。しかも弓持ちも今回は2回の2セットだったので、少ししぶとくなってた。まぁ、やっぱり敵じゃなかったけど。

 ドロップしたのは例によって『霊核・屑』と、それから足軽幽霊・刀が落としていった『亡霊の太刀』が一つ。

 昨日に続いてレアドロップ品だ。うーん、私的にはノーサンキューなんだけどなぁ、こっちのは。

 まぁ、まったく扱えないわけでもないし、予備武器として持っておこうかな。

 ……んん? 話し声?

 誰だろう。

「こん――は俺の――んだな」

「え――がん――て!」

 どうやら、チームを組んで戦っている人がいるみたいだ。

 パーティを組むとEPを消費するというのに勇気あるなぁ……。

 再び角を曲がったあたりで戦っていたその人達は、錫杖? ていうのかな、なんかお坊さんが持っていそうな杖を掲げて一生懸命光の弾みたいのを放っていた。

 まぁ、ゴースト種と言えど、聖属性が弱点なだけで聖魔法が使えないってわけじゃないしねぇ。

 その弱点を受けただけあって、別のプレイヤーと戦っていたその足軽幽霊は一撃でMPを7割以上も減らしていた。残機があったみたいだから、結果的に4発入れる必要があったのは変わらなかったけど。

 うーん、やっぱり本来の戦い方はそうなるよねぇ。

 私には到底できそうもないけど。

 私的には、彼らと組む気は今のところなかったので、視線の先にいるプレイヤーの邪魔にならないように、遠回りをして進んでいこうと思ったんだけど……それほど広くない曲輪の内側だ。どうしても見つかってしまう。

「あれ? おーい、そこのプレイヤーさーん!」

「あ、はい……なんでしょうか」

 声を掛けられてしまったなら無視はできない。

 私は気持ちを切り替えて、二人に近寄っていった。

 ちなみに、足軽幽霊と戦っていたのは、男女二人組のプレイヤーだった。年齢は多分だが、同年代くらい。

 あくまでも予想であり、VRゲームの世界ということでアバターに補正がかかっている関係から、実際のところはわからないが。

 二人とも、幻影都市ハイトで見繕ったであろう和装に身を包んでおり、しかし普段から着慣れていないのかそこはかとなく落ち着かない様子だった。

「えっと、あなたもゴーストを選んだん、ですよね。ここにいるってことは……」

「はい、そうですけど……」

「よかった……やっとほかのプレイヤーにあえたよ……」

「うんうん、よかったよ、ほんとに……」

 二人の話を詳しく聞くと、どうやら二人は幼馴染みという関係らしく、昨日はいろいろと現実で忙しくてゲームをやる時間がなかったとのこと。まぁ、その辺の理由は踏み込む気はないので軽く流した。

 そして、今日になって、いざゲームをスタートした、まではよかったのだが――どうやら二人とも興味本位で人外の種族を選んでしまったらしい。

 それも、何の因果か二人が選んだのは同じ種族――ゴーストだった。

 アギトという少年の方がゴーストを選んだ理由は、本当にただなんとなく目についたからそれにした、というだけ。

 もともと魔法使いでプレイをしたかったらしいので、ゴーストの能力値倍率については大して気にしていなかったという。

 しいて言えばMP管理が厳しくなるであろうことくらいだった、と言っていた。

 そしてフリーダという少女の方は、もともと空を飛べる種族を志望していたらしいが、VRゲームという特性上、翼を持つ種族でそれを選ぶのは地雷の場合とそうでない場合があり、このゲームの場合はそのどちらにあたるのか判断着かなかったという。

 であれば、と翼という人にはない器官を操る必要がなさそうな、ゴーストを選んだのだと彼女は語った。

 ちなみに二人とも普段はオフラインのゲームばかりを嗜んでいたらしく、MMOはこれが初めてとのこと。

 ――まぁ、それでも私よりかは断然ましだと思うけどね

「ただ……ゲーム内で合流できたまではよかったんですけど、ほら……ゴーストの種族固有スキルがあるじゃないですか? そういう可能性は考慮していなかったもので……一人旅のゲームなんてしたことありませんでしたし。だから、他のプレイヤーさんにアドバイスをもらってから、本格的にどう動くか二人で決めようかな、とも思ってたんですけど……」

「他のプレイヤーが現れなかった、と……」

 まぁ、わからないでもない。

 ただでさえ、モンスターを選ぶ人なんているかどうかさえ不明なのに。

 ここに、その変わり者がすでに三人、いるのだけど、それは今は棚に上げて置く。

「もともと予定していた、二人でタッグを組んで、わたしが惹きつけてアギトの魔法で一気に叩く、みたいな戦法がうかつにはできなくなっちゃいましたし……でも、とりあえずパーティを組まなければ固有スキルのペナルティは発生しないので、今はかわりばんこで敵を倒しながら経験値と熟練度……えっと、熟達値を稼いでいたところなんです」

「なるほど……」

 つまり、二人は私にアドバイスを求めて声を掛けてきたわけか……うーん、なんていう奇跡的な偶然の重なりなんだろう。

 私が兄さんを一泡吹かせたい一心で、一風変わった種族でもってゲーム内で名を上げようと考えた、それで偶然目についたゴーストを選んだ。

 アギトくんは何を考えるでもなく、ただ目についたゴーストという種族を選択した。

 そしてフリーダさんは空を自由に跳びたいな、と思ったから消去法でゴーストを選んだ。

 こんな偶然が見事に重なり合うなんて……私自身、驚きだ。

 しかし悲しいかな、私には二人の求めるアドバイスはかけてあげることができない。

 なにせ、私は二人よりもさらにゲームの実力がないのだから。

「私……じつはゲーム自体、これが初めてなんですよね…………」

「えぇっ、そうだったんですか!?」

「うん、そうなんですよ。だから、申し訳ないんですけど、二人が求めるようなアドバイスはできないかもしれません」

「そう、ですか……。それなら、仕方ないですね。すみません、お邪魔してしまって」

「いえ、大丈夫ですよ。それに……昨日の数時間、という程度のアドバンテージで得られた情報くらいなら、共有はできそうですし」

「あ……それもそうですね。その……それじゃあ、その昨日一日プレイしてみた所見って言うんですかね、聞かせてもらってもいいですか?」

「うーん、そうだね……」

 私は、昨日一日でわかったこのゲームのシステム面でのことや、奈緒の存在から食卓での会話のこと、そしてクエスト中であることなどを話した。

 二人がまず食いついたのは、足軽幽霊を他の同レベル帯の敵と比較した時の立ち位置――つまり準強モブであることについてだった。

「そうなんですね……普通に最初の敵ってこれくらいなのかなーって思ってました」

「他のところだと、もう少し弱いみたいですよ」

「まぁ、いいんですけどね。MPが潤沢なおかげで、バシバシ魔法打てますし。『霊核・屑』をそれなりに落としますから、MP補給もまぁまぁできますしね」

「私もゴーストを選んだ関係上、近接戦は捨てて魔法にしようって決めましたが、いいですよね、これ。魔法一発に必要なMPも、一番最初のは5しかないですからダメージ受けなければ100発は撃てますし」

「ひゃっ……!?」

 うん、素直に驚いた。

 やっぱりゴーストは魔法特化で間違いない。というか、魔法以外の戦闘は行うべきではないんだね。

 何度目になるか、それでも私は曲がらないけど。

「私は、それでも近接戦を選びましたから、ちょっと燃費悪いですけどね……」

「あ、はは……その、頑張ってください。応援してます」

「はい、ありがとうございます」

 暖かい目で見守られてしまった。

 何気に、ちょっとだけショックだった。



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