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アナザーフロンティア  作者: シュナじろう
オストリス・ゴースト
8/37

古城から生還


 あとは紫のサーチポイントだね。

 なんか、他のサーチポイントもそうだけど、エフェクトの明度が明るめだから、紫の光といってもそれほど禍々しくはない感じだ。

 でも、紫、というだけでなんか毒々しくして、いかにもっていう感じにさせられるんだよね。

 要求されているスキルも【叡智の心得1】と【食の心得1】の併記と、その後に【サバイバルの心得5】に表示が切り替わる形で二通りの表示に分かれていた。

 前者か後者のいずれかを満たせばいいってことなのかな。

 だとすると、私は前者の条件を満たしているので、挑んてみてもよさそうだ。

 結果は私が思った通りで、どちらかの条件さえ満たしていればよかったみたいだった。

 また、紫のサーチポイントからは、『超古びた兵糧』という丸っこい携帯食料を入手。

 演出は、紫色の煙が濛々(もうもう)とわき上がり、サーチポイント自体は、小さくなりながら徐々に薄れて消えていくという、青や赤の光とは少し異なる演出だ。

 あ、そうだ。入手した料理を見てみないと。


【超古びた兵糧 道具:消耗品 耐久:1/1】

効果:HP-5%/1s(1h)、MP-5%/1s(1h)

 もはやカビの塊といっても過言ではない兵糧。危険物なので食べない方がいい。

固有印:気絶10、料理使用不可付加10、薬使用不可付加10、HP回復不能付加10

合成印:追加可能数3

合成印なし


 うわぁ、これは悪辣だぁ。明らかに殺しにかかってるよ。

 罠に引っかかったらその場で死亡、というのよりも悪質だよこれ。

 直接じゃなくて、じわじわとHPとかMPを減らしていくっていうのがまず、ね。

 それにとどまらず、気絶って動けなくなるってことでしょ、それから料理と薬が使用できなくなるってことは、周りが助けてあげることもできなくなるわけで……。

 それにHPを回復不能にされるって、どういうふうになるのかはわからないしわかりたくもないけど……うわぁ、使ったときの地獄絵図が見えるようだよ。

 サーチポイント消滅の時に、演出によるものなのか不気味な極低音の笑い声も聞こえたし、毒々しくも禍々しい演出だったわけだ。絶対に赤い光よりも危険であることを示しているんだろうね。

 しかも思い返してみたらこれ、紫の光のエリア内に最初から置かれてたやつじゃないかな。

 そして解明した途端、『SP解明ボーナス!! 発見時の状況から未識別品の識別に成功しました:識別可能スキル【食の心得5】+【叡智の心得15】or【料理1】』というインフォメーションが表示された次第だ。

 つまり、情報を統合すると、サーチポイントを解明しなくても一応手には入れられたわけで、でもその場合は別途識別しないとどんなアイテムかわからなかったわけで……でも、それだと求められるスキルが最初期の段階だと全然そろっていない状況。

 うわぁ、こんなのをゲーム初めて最初のダンジョンに配置するとか、本当に悪辣すぎるよ……。

 こんな罠、仕掛けないでほしかった。心臓に悪い……。

 もちろん、私はすぐにそのアイテムを破棄し、見なかったことにした。


 その後は、門櫓の内部にいた亡霊と軽く戦ってから、街に戻ることにした。

 理由はいくつかあるけど、最大の理由は時間だ。

 午前中は学校の終業式で、午後は昼食後に剣術と宿題をいくらか。それからゲームにログインしたから、それなりにいい時間になってしまったのだ。

 それ以外にもこまごまとした理由はある。たとえば、敵から手に入れた火縄銃なんて私は扱うことできないし、櫓門の亡霊たちからも霊核が手に入ったんだけど、一個っきりじゃさすがに雀の涙ほどだからね。さすがにMPを消耗した状態でお城の攻略を続ける気にはなれなかった。

 そうして街に戻ってから、少しだけ余った時間を使ってステータスを改めて確認してみたところ、レベルが早くも4レベルにあがったのはステータスポイントの割り振りがあったのでわかっていたことだったが、【刀剣】スキルがそんなにプレイしていないにもかかわらずもう8まで上昇してしまっていたことも新たに判明した。

 これは、いくらなんでも早すぎないだろうか――などと少し頭をひねったりもした。

 だって、私は今日、亡霊たちを7体しか倒していないのだ。

 それなのにもうこれでは、さすがにバグのレベルではないか、と思わずにはいられない。

 とりあえず、そんな感じでステータスの考察をしていたところでちょうどいい時間になったのでログアウト。

 現在は、奈緒が作った料理が並ぶ食卓で、ゲーム内での出来事の報告会が始まろうとしていた。

 お話をする前に、まずスープを一口。

 ……うん、さすなおだね。

 これ口にすると、やっぱり洋風レストランを営む母の娘が、料理が大雑把にしかできないとは何とも恥ずかしいよね。

 とくに、このスープやほかの料理を作ったのが、妹だというのがなんとも……。

 やっぱり、アナザーフロンティアの中でも料理の練習はやってみよ。じゃないと姉として立つ瀬がなくなる気がする。

 料理に関しては、搭載しているシステムはともかく、できた料理の評価についての平均水準のラインはほぼ現実の家庭用のそれと同じ感じに仕上げてある、と公式にも書かれていたしね。

「それでは、ゲームを始めてからのお前の動きを洗いざらい話してもらおうか」

 ……兄さんの声がすごくマジな声だ。

 食卓で出すような声じゃないと思う。

「……いったいどんな尋問なの、これは」

「いや、単純にお姉ちゃんがどんなことをゲーム内でやってたのか、知りたいだけだから。お兄ちゃんも、そうだと思うよ…………多分」

 まぁ、私もそうだろうとは思うけど。

 やっぱり、声がね……。

「それで――どこから話したらいいかな」

「そうだな。まぁ、朱音が普通の街でスタートしないな種族を選んだ理由は想像がつくから、そこは省いていいか。まずはそうだな……朱音が選んだ種族とその特徴を聞かせてもらえるか」

「ゴーストの特徴、か。わかった。一応、理解している範囲ではあるんだけど――」

 私は、確認できている範囲内でゴーストのステータス倍率や特徴、動き方などを兄さんや奈緒に教えていった。

 すると、まずは奈緒が少しだけ考えるそぶりを見せて、

「そ、そうなんだ……。私としては、ゴーストって言う種族自体が初耳だからどう反応したらいいのかわからないけど……多分物議を醸す案件だよその内容……」

「うん? 奈緒、βでは朱音が選んだ種族はなかったのか?」

「なかったね。モンスター系の種族もないわけじゃなかったけど、そもそも選択肢の中にゴーストなんてなかったよ。アンデッド系と言うと……スケルトンとかリビングメイルとか、ゴーストに近い種族でレイスとか?」

「そうなんだ……でもレイスなんて種族、逆に私はリストの中では見かけなかったと思ったたけど……」

 奈緒は見逃しただけなんじゃない、と言っていたけど……う~ん、確かになかったように思うんだよね。

 私の気のせいだったのかな。

 私が首を傾げていると、兄さんもレイスという種族には見覚えがないと言う。

 奈緒は、だとしたら正式版で差し替えが行われたのかな、などと呟いたのだった。

「ステータス倍率や種族固有のスキルは、確かに奈緒の言う通りだと俺も思うがな。はっきり言って、癖が強すぎる」

「RPGで残機制なんて珍しいよね。ぜったい、他のプレイヤーから反感を買うよ」

「だが、固有スキルの負の効果がソロプレイを強要しているからな……そこに、理解を求められるかどうか、が焦点になるだろうな」

 奈緒や兄さんが言うには、EPの低下など、PKと呼ばれるプレイスタイルをとるPKer? というプレイヤーにとっては大した問題ではないだろうという。

 EP低下デメリット上等、という具合に。

「多分、PK狙いであればゴーストになるプレイヤーはそこそこ現れるだろうな。モンスターを選べるということは、そういった種族のロールプレイなんかも許されているということだから」

「そうなるよねぇ、やっぱり」

 どうやら、思いのほか厄介な問題をはらんでいるらしい?

 私にはよくわからないのだけど。

「まぁ、HPが残機になったのは、ソロプレイ特化の代償、とすれば、まぁ理解できなくもないけど」

「物理面で悪すぎるMP倍率も、魔法攻撃主体と考えたり、パーティ攻略推奨のボスをソロで倒すことを前提に考えれば、むしろそれくらいないと無理だろうしな」

「だよねぇ。私も同感かな。とはいえ、β版のレイスのことを考えると、多分、攻略を進めるにつれて、その固有スキルの負の側面が火を吹いてくるんじゃないかなぁ、って私は思うよ。MPの回復手段は限られてるし、その割にMPがHPの代わりも果たすからガンガン体力削られて、回復はできずじまい……。私だったら、残機制でもそんなのまず選ばないなぁ……。まぁ、ずっとそのままって言うわけじゃないだろうし、スキルが成長すればある程度は緩和されてくると思うけど」

「逆に緩和されない可能性もはらんでいるがな、その言い方だと」

 うげ……それはきついなぁ。私としては、ぜひともMPの燃費の悪さは緩和されてほしいと思う。

 攻撃だけじゃなく、武器防御なんかもひっくるめて、様々な行動の総合計を50回以内に収めないといけないとか、かなり厳しいんだけど。

「まぁ、なんにせよ、残機が1増えるまでの間は我慢するしかないね、そのあたりは。私としては、お姉ちゃんのスタート地点になったって言う街に行きたくなったけど……行けそうもないもんね」

 あとパーティを組めなくなったのも、と言いながら奈緒はフォークに絡めたパスタを口に頬張る。

「今はどうやっても無理そうなのか?」

「うん、多分だけどね。お姉ちゃんの話を聞く限りでは。あとは、進化待ちかなぁ……」

 奈緒は、それ以降も持ち前のゲーム知識で私が疑問に思ったことの答えをくれた。

 今の話題は、私がゲーム内で戦ってきた、足軽幽霊たちに関する考察だ。

「お姉ちゃん。ゴーストの固有スキルって、いわゆるRPGでは珍しい残機制の追加でよかったんだよね」

「いい点だけで考えると、まぁ……そんなところに、なるのかな」

「β版ではHPゲージが何本もあるのはボス限定の特権だったんだけど、プレイアブルな種族にそんな特権が与えられるとなると、当然敵にも同様の特性をもつ雑魚敵は出てきてもおかしくはない、のかな……? いやでも、残機を持つ敵がわらわら出てくるって、それだとゲームのバランス的に……あぁ、でも地域を限定したり、ステ調整したやつを置いたりなんかすれば……」

「奈緒……?」

 何かわかったのかな。

「う~ん。大体のところは。多分だけど、それは強モブみたいなやつなんだよ、きっと」

「きょうもぶ?」

 なんか専門的な用語が来た。

 なんだそれは。

「強モブっていうのは、そのレベル帯の地域にしては、やけに強いと感じる敵キャラのこと、かな。例えば、レベル表記は5なのに、レベル5のメンバーで固めたパーティを組んでもギリギリでしか勝てない敵、みたいな感じで」

「な、なるほど……そんな敵がいるんだ」

「いるんだよねぇ、それが。んでもって、そういった敵に限って、楽に倒せるようになるとむしろ稼ぎとしてはあまりおいしくない敵に設定されていたりとか」

「つまり、周囲の敵よりも断然強いくせに、あくまでもその推奨レベル前後の時に倒さないと適性とは認められないということだな」

 なるほど、兄さんの説明でようやく理解できた。

 つまりあの亡霊たちは、奈緒が言うところの強モブに近いものだった、と。

 しかも、あの場所はその強モブのような敵でしか構成されていない。

 だから、数はそんなにこなせていないのに、一体あたりから得られた経験値や熟達値が多く、結果としてそれなりの数をこなしたのと同じような結果になったというわけか。

 …………わかりづらっ!

 というか、それだと他の地域だといわゆる雑魚敵はあの亡霊たちよりもかなり弱めに設定されてたりするんだろうか。

 奈緒たちにそのことを聞いてみれば、

「エマニノの周辺? 弱っちいもんだよ。ちゃんと初期資金で装備を整えれば、それこそ通常攻撃なら二回から、多くて三回くらいの攻撃で倒せちゃうし。私はヒーラーだから攻撃も魔法主体だけど、それでもほぼ一撃で倒せちゃうし」

「そうなんだね……」

「ちなみに、最もベターな攻略としては、エマニノ平原でレベル3~5くらいまで上げたら、それより外周部にある各方面のフィールドに進出することです」

 とのことだった。

 ちなみに奈緒はすでに私がいるハイト遺構の周囲に広がる、ハイト古戦場に来ているらしい。

 とはいえ、βの時から夜の古戦場は強いアンデッドが出るため、レベルが一けた台の時は夜の古戦場にはいかないのが得策、と言われていた。

 そのため、ゲーム内で夜になったら、奈緒もほかの狩場に行くと言っていたが。

「どうする? 古戦場に出て私達と合流する?」

「そうだね……したとしても、私奈緒達とはパーティは組めないよ? EP減らしたくないし……そもそも、昼の間は奈緒達には見えないみたいだから」

「だよねぇ。βの時には、そんなの無かったから。普通に厄介すぎるよ」

「PK勢にとってはどちらもいいスパイスになるだろうがな」

「あはは、言えてる」

 正直なところ、EPについてはβ版の時にはなかった要素らしく、まだその先がまだ不透明な状態であるという。

 しかし、普通に考えるなら、街のNPCからの受けがよくなくなるということで、あまり減らしていいようなものではないのもまた事実。

 結論として、ある程度のプレイヤーはPK行為を避けるようになるのではないか、と奈緒は語った。

「まぁ、あくまでもすべて推論なんだけどね」

「それもそうだな。――ところで朱音。一つ再確認したいんだが、スタート地点は和風の街だったんだよな?」

「…………? うん、そうだけど……なにか?」

 な。なんだろう。兄さんの顔が……。

 鍛錬の時に、何か至らなかったことがあって鬼指導モードに入った時のような……。

 剣術を始めたばかりの父さんの指導の賜物で、このようなときの兄さんや父さんを前にした時はすぅ、と背筋を伸ばしてしまうくらいのトラウマを抱えていたりする。

 ありていに言えば……今、とても恐怖を感じている。

「小太刀は……小太刀は、あったのか?」

「小太刀……あぁ、そういうことか……」

 なるほど。確かに、それはとても重要なことだ。

 風柳流は、小太刀二刀流。つまり、ナイフのようなモノでの運用は想定されていない。

 だからこそ、そこが気になっていたのだろう。

「あるには、あるけど?」

「そうか! それはよかった! なら朱音。その小太刀、俺の分も買ってきてはくれないか? エマニノには小太刀も太刀や打刀も売ってなかったんだ」

「あ~……」

 どうしよう。

 この兄さんの期待感。とても、事実を言うのがつらい。

 兄さんは、おそらく私がハイトで小太刀を買って兄さんに届けたなら、すぐにでも小太刀を、風柳二刀流の真価を周囲に見せつけることができると思っていたのだろう。

「多分、普通に買ってどうこうするのは無理だと思う」

「なにっ!? どういうことだ!」

「その、ハイトで購入できる装備品には、すべて【霊体】スキルを持っていないといけない制限がかかってるから……」

「な、に…………!」

「ちなみに、薬屋さんや食事処で見かけたポーション類や料理にも、全部〈霊媒〉という肉体を持たないキャラクターでも使用できるようにする印が付与されたよ」

「うわぁ……在る意味いたせりつくせりだけど、うわぁだよ……よりにもよってそれかぁ。どんまい、お兄ちゃん」

 兄さんはよっぽど悔しかったのだろう。

 食卓を囲っているにも関わらず、どんよりとしてしまった。

 ただ、私が錆びた小太刀の存在を伝えたら復活して、ぜひともそれを譲ってくれ、と迫られたけど。



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