レベルアップと連戦
前回のあらすじ三行
街で情報収集
お城に行ってみよう
初戦闘、相手は足軽の亡霊達
戦いを終えて残心を解いた私に待っていたのは、レベルと種族レベルが上がったという嬉しいお知らせだった。
レベルが上がったため、ステータスポイントが10ポイント手に入る。
ステータスポイントは、この場割り振らなければならず、貯めておくことができない(割り振らないとウインドウを消せない)ので、先々のことを考えて割り振る必要がある。
もちろん、特定のステータスに偏り過ぎるのはよくない。
少しはバランスよく割り振らないと、後々後悔するのは私自身だ。
ひとまず、このままでは耐久が低いのでこれに少し多めに割り振り、あとはなるべく均等になる様に割り振りを行った。
そして、割り振り終わってポイント割り振り画面を閉じたところで、視界の端に移っている各種ゲージを確認する。
先ほどの戦闘で消耗したMPは、割り振り前の最大値から計算して20%弱。攻撃自体は6回しか行っていないし、敵の攻撃にもかすった覚えはないから……残りの数%ほどは、カウンターを狙った武器弾きが関係しているのかもしれない。
そう考えた時の私は、多分この上なく顔をしかめていたことだろう。
なにしろ、攻撃をしていないのに、カウンターで武器を弾いただけなのにMPを消費するのである。
おそらくそれは、【受け流しの心得】によるものではなく、【霊体】によるものと考えていいだろう。
そもそも【受け流しの心得】は、相手の近接攻撃を武器等により弾いて防御した場合の相手の硬直時間を延ばす、というものではあったけど、武器で攻撃を防いだり弾いたりした際に、MPを追加で消耗するようなことは書かれていなかったから。
おそらくは、【霊体】の、本来MP消費を伴わない行動によるMP2%消費が働いているのだろう。
そう考えると――かなりシビアで、動き方を考えないといけないことになる。
いかに相手の攻撃を受けないで、こちらの攻撃を繰り出すか――それが活動時間を延ばすカギになるだろう。
「うーん、それでも初戦でこれだけMPを削られちゃったのはさすがに厳しいような気もするけどなぁ……」
そもそも、敵から受けるダメージやMPの自然回復を無視して考えても、私に許された攻撃回数は50回ほどしかない。
それを考えると――やはり、ゴーストは近接戦向けの種族ではないのだろう。
まぁ、かといって魔法中心に切り替える予定もないんだけどね。
要は、敵から攻撃を受けなければいいのと、疲れたら休む、を徹底すればいいだけのことなのだから。
「さて……どうしようかな……ん? おー、櫓の入り口がある。行ってみよう」
とりあえず、最終的にまだ余裕はあると判断して、探索を再開することに。
敵を探すか周辺を探索するか、迷いながら歩いていたら、偶然にも隠れるように櫓の扉が設置されていた。
どうやら、古城、それも日本の城をモチーフにしているだけあって、見るからに堅牢なつくりになっている。
門番を担っていたらしい先ほどの二体の亡霊が護っていた櫓門を通り抜けた先、入り口わきの櫓で、櫓門の両脇を挟むように、しかし門からは少し離して配置されているもののうちの片方である。
入ってみると、中には数体の亡霊たちが犇めいていた。
「すいませんでしたぁ!」
――バタン!
慌てて閉じた私は多分、悪くないと思う。
でも、警戒のためにバックステップを一回した途端、勢いよく閉じた扉が再び開け放たれ、中から亡霊たちが一体ずつ飛び出してきた。
――足軽幽霊・刀 LV1
――足軽幽霊・弓 LV2
――足軽幽霊・鉄砲 LV2
相手は三体、うち二体は名前からして遠隔攻撃を仕掛けてくる敵に違いない。
ひとまず一番ヤバそうな鉄砲持ちから対処すべきだろう。
「風柳流・小枝揺らし!」
繰り出したのは、相手の攻撃をやり過ごしつつ、すれ違いざまに一撃を繰り返す対集団戦用剣技だ。そしてフィニッシュは最後の相手の背後に振り向きざまに与える切り払いと刺突、そしてそこから派生する追加攻撃まで用意されている。
前に出てくる刀持ちの攻撃を片方の小太刀で受け止めつつもう片方の小太刀で一撃を与え、距離を採ろうとしている弓持ちにも駆け寄って一撃加える。
さらにそこでは止まらず、最初の標的としている鉄砲持ちに追いついても止まらない。
鉄砲持ちとすれ違い際に、そいつの脇腹にも一撃加えつつ、その背後でようやっと振り返り――そして背後で一閃。
そこで鉄砲持ちは復活することなく、MPゲージ、HPゲージともに全損させて消滅した。
後衛らしく、わりと脆弱に設定されていたようだ。その代わり、2回の攻撃だけではMPゲージがわずかに残ってしまい、全損させるのに3回攻撃する必要があったけど――さすがにLVからして最序盤向けに用意されているらしい敵だけあって、四回目の攻撃までいかなかったようだ。
さて、鉄砲持ちを倒したことで、次に厄介なのは同じく遠距離攻撃持ちの弓持ちだろう。
見れば、ちょうど刀持ちと入れ替わろうとしているところ、
弓持ちは、鉄砲持ちと同じようにMPゲージの減りが刀持ちよりもほんの少しだけ鈍いから、おそらく鉄砲持ちと同じく3回でMP全損の復活なし。
刀持ちは先程会敵したやつと同じように、半分しか減っていないから2回で全損の1回復活アリかもしれない。
再びの疾走、私は今度は技名も何もない風柳流の基本形のみで弓持ちを倒し、刀持ちと相対した。
「ォォ――」
うなりを上げながら、刀持ちは刀を構え、私の隙を探っている。
――あえて隙を作ってはなくして、を繰り返している。これは、誘っている?
なら、その誘いに乗ってあげようではないか。
私は再び小枝揺らしを繰り出す。
今度は相手も一体だけ、であれば普通に四連撃を放つのと変わらない。
最初に一回、すれ違いざまの攻撃を加え、背後に回ってから二連撃を放つ。
背後からの完全な奇襲を受けた足軽幽霊の刀持ちも、そこでHP・MPゲージともに全損し、他の二体同様、光の粒子となって消えた。
「ふぅ……」
残心を解き、MPゲージを確認。
濃いブルーだったMPゲージはライトブルーに変わり、おおよそ7割といったところだった。
まぁ、MPの自然回復もあるし、それほど頻繁に戦闘があるわけでもない。門前で消耗した分など、敵を探しながらでも歩いていればすぐに回復してしまうくらいだろう。
「ん、レベルアップか……」
再び表示される、レベルアップの通知。
5体しか戦っていないのに一気にレベル3……どうりで今闘った刀持ちへのダメージが、1戦目の時よりも大きかったわけだ。
これが早いのか遅いのかは正直判断着かないけど、この短時間で2レベルあがったのはいいことだ。
私は再び能力を割り振り、そして先程の戦闘で手に入れたらしいアイテムを確認した。
ふむ……『霊核・屑』は分類としては素材だけど、どうやら例外的にスキル【霊体】を持っている人は『料理』と同じように食用可能らしい。しかも食べるとMPポーションと同等の効果を示すみたいだ。
これで活動時間が増えるだろう。
しかも、それが3個も! なんという棚ぼた何だろうか!
それから……んん?
火縄銃かぁ。これは正直、私は使わないからパスかなぁ。
NPCのお店に売れるかなぁ。一応、捨てないでもらっておこう。
とりあえず、MPが心許ないから今入手した霊核を3個使ってしまおうかな。
ストレージから取り出した霊核は、ぽあぽあとした白く光る球体だった。
手に持てばお団子のような、少し粘りのある柔らかい感触。
恐る恐る、食べてみると――見た目通りの、けれども味気ないお団子のような味だ。
うーん、これをあと二つもかぁ。みたらし団子が食べたいなぁ。
……………よし。食べた。
MPを確認すると、ライトブルーだったゲージがほぼ満タンになっていた。
これなら、もうちょっとここに残れるだろう。
始めた時間が時間だったし、さすがにやれることは限られているけど……少なくとも、櫓の中くらいは探索できるはず。
先ほど亡霊たちと鉢合わせてしまった櫓の扉を、再び開いてみる――と、今度は誰もいない、無人の空間が広がるばかりであった。
周囲を見渡してみると、遠目に階段があるのが分かる。位置的には櫓門の内部に続いているんだろうけど、そっちには多分、別の敵がいるんだろうね。
今はちょっと戦いは休みたいから後回しにして、この辺りを見て回ろう。
…………ん? また、クエストウインドウが出てきた。
なんだろう。
【クエストを受注しました】
怪しい場所の発見
推奨実力LV:0 タイプ:チュートリアル
特定のスキルの効果範囲内に怪しい場所があると、その場所は何かしらの色で発光します。これをサーチポイントと呼びます。
サーチポイントの光の種類は怪しい場所の内容に紐づいており、保有スキルや要求レベルによって光の見え方は異なります。判断が全く着けられない場合には白い光、要求レベルとの差が大きすぎると見えない場合もあります。
今、ちょうどサーチポイントがすぐ近くにあるようです。試しにその場所に近づいてなぜスキルに反応したのか、その原因を解明してみましょう。
クリア条件 サーチポイントの調査
クリア報酬 関連スキルのLV+1分の熟達値
クエストナビ 0/1
サーチポイントを調査せよ 0/1
……へぇ。こんなのがあるんだね。
改めて室内を見渡してみれば――なるほど、確かにいろんなところに青い光や赤い光、紫の光があるね。
白い光じゃないってことは、全てが私のスキルの中で、戦闘に関係ないスキルのどれかに反応しているってことなんだけど……。
青い光は、テーブルがあるあたり。いくつかの黄色いダイヤのマークがついていることから、なんかよさそうな感じのスポットの気がする。
逆に赤いスポットは直剣が交差したマークでいかにも戦闘になりそうだ。
櫓内の穴の前――狭間って言うんだっけ、そこの前にあるみたいだし、もしかしたら近づいたら敵が出現するって言うたぐいの罠なのかも。
そして紫のは……ドクロマークで、いかにもヤバそうな感じ。
それぞれのマークは数字付きのスキルも交互に入れ替わりながら表示されているが、多分その表示されるスキルと数字が、必要なスキルとレベルなんだろう。
親切丁寧な分かりやすさだ。私みたいな入門者でもすぐにわかった。
試しに安全でお得そうな青い光に行ってみると、『調査しますか? Y/N ※今後このメッセージを表示する/しない』というウインドウが表示されている。
なるほど、スポットに近づいても勝手には表示されず、調査するかしないかの意思を表明できるわけね。
そりゃあ、待ち合わせとかで時間がなくて、ただ単に移動したいだけっていう場合もあるから、そんなときに一々罠に引っかかったりしていたらたまった者じゃないものね。至れり尽くせりとはこのことだ。
この青い光は安全そうなので、躊躇うことなくYESをタップする。幸いなことに、このスポットに要求されているのは【叡智の心得1】だったので、【叡智の心得】さえもっていれば解明できるらしかった。
すると、青い光のエリアは一際眩しく光を放ち――ぼふんっ、と煙となって消えた後、『SP解明ボーナス!! テーブルの下から『錆びた小太刀』を二つ入手しました』というメッセージが。
やっぱり青い光は調べてお得なスポットだったんだね。
ちなみに『錆びた小太刀』は武器ではなくアイテム。武器屋さんに持っていくと研ぎなおしを依頼できるらしく、入手した場所に設定されている専用テーブルの中から、ランダムで何かしらのアイテムを入手できるらしい。
私は壊れない武器があるから今のところはいらないけど、持っておいて損はなさそうだ。
さて、チュートリアルクエストはこれでクリアだね。
おや。リファレンスが出てきた。条件を達成すると出てくるのかな、これは。
……ふむふむ、なるほど。どうやら、サーチポイントの要求レベルにスキルのレベルが届いていなかった場合、要求レベルをスキルレベル分低下させる代わりに、すぐに再調査する際には別のプレイヤーの助けが必要になる、と。
そして該当スキル以外で調査をした場合は要求レベルの二倍スキルレベルが必要である、か。
うーん、なにかとゴーストにとって厳しい実情を突き付けられたなぁ。つまり、パーティプレイを推奨しますってことでしょう?
一人プレイ推奨のゴーストだと、ただひたすらにスキルを成長させていくしか対処法はなさそうだなぁ。
まぁ、そのあたりは時間が解決してくれるだろうから、まぁいいでしょう。私が急ぎたいのは、あくまでも兄さんに一泡吹かせることだけだし。
さて……それじゃあ、後学のために他のも一応チェックしてみるかな。
狭間近くの赤い光は……『なにかの気配がする。調査しますか?』という問いかけ。
やっぱり、どうにかしないと敵が来てしまう罠だったらしい。
要求されているのは、【サバイバルの心得2】。ステータスを表示させてスキルのレベルを確認してみれば、いつの間にかそのスキルは2まで上昇していたことが分かり、なんという幸運だろうかと嬉々としてYESを押した。
すると青い光の時と同じような演出(ただし光と煙の色は赤かったが)の後、勝手に体が動き、壁に張りつかされてしまった。
体勢的に、隠れながら狭間から櫓の外を覗き見るような感じだ。
どういうことだろうかと頭を悩ませているうちに、何かの足音が聞こえ――やがて遠ざかっていった。
遠ざかっていたナニカ――狭間の外を歩いていったナニカは、それはもう恐ろしいなんてものではなかった。
その正体を狭間越しに見た私は、思わず危ないところだったぁ、とその場に崩れてしまったほどだ。
――SP解明ボーナス!! 遭遇を回避した敵の情報が一部開示されます。
――足軽幽霊・組頭 LV10 HP3
今の私がどれだけ敵にダメージを与えられているかはわからないけれど、レベルを見ただけで強敵だ、と理解させられてしまった。
なにしろ、これ見よがしに開示されているHPが3とはいえ、極端に少なかったのだ。そして――他の足軽幽霊とおなじゴースト系の敵だとすれば、それは『3しかない』ではなく、『3もある』といった方が差し支えない。
MPは他のゴーストたちと同じく開示はされていなかったため未知数だけど――それでも、HPのことを考えるとおそらく300%。
さらに敵は私とは違い、直接攻撃でMPを消耗しているとはどう考えても思えなかった。プレイヤーと敵とでは、微妙にそのあたりに差があるのかもしれない。それがさらに、相手のタフネスに磨きをかけている状態だ。
とても勝てそうな気がしない相手だった。
「はぁ……怖かったぁ……」
チュートリアルクエストで説明されたサーチポイントの重要性、骨の髄まで理解させられた気分になっちゃったよ。
これは、赤いサーチポイントには今後、厳重警戒しないと駄目だね。うん。