ハイト観光
前回のあらすじ三行
ゴーストの種族固有スキル確認
街にいるだけでEPを減らされるなんて!
↑スタート地点の街なら問題なし! よかった。
そういえば……スタート地点が亡霊たちの街並みだったことに驚いたり、その後のステータスの確認でいろいろ覚えたり考えたりしたせいですっかり頭の中から吹き飛んでしまっていたのだけれど、重要なことを一つ、思い出す。
兄さんや奈緒とのゲーム内での付き合い方についてだ。
特に奈緒は、私に一緒にゲームをやってもらいたいからと、鼻息を荒くしながら私の端末の設置やセットアップを手伝ってくれたという気の入れようだ。
この街が亡霊の街ということは、つまりここはゴーストのプレイヤーになった人用のスタート地点なのかもしれない。
普通のスタート地点は、エマニノって言う街だって奈緒も言ってたし、事前情報にもそうあったし……。
きっと、ゲームをスタートしたはずなのに私をスタート地点の街で見かけないとなって、いろいろ捜して回ると思う。
兄さんも、奈緒ほどではないけど同じことをするだろうし……早いうちに、メッセージを飛ばしたほうがいいのかな。
私はゲームメニューを開いて外部アプリ連携機能を使い、SNSアプリとの連携機能から奈緒のSNSアカウントにあててメッセージを送った。
ゲームスタートしたんだたけど、なんか普通とは違う街からのスタートにな
ったみたい。多分、選んだ種族が原因だと思う……。
16:48
うん、これで良しと。
メッセージを送ったら、改めて街中観光を再開した。
少し歩いてわかったのが、この街は本当に『和』のイメージを前面に押し出しているということ。
武器はぜひにも小太刀を、という私の思いが通じたのか、街を巡回している警備NPCと思われるキャラクターも、刀を帯刀した武士のような出で立ちの人(亡霊?)だったし、これは買い物ができて、武器屋さんがあったとしたらいろいろと期待が持てそうだ。
……あ、そうだ。スクリーンショットを取っておこう。……パシャっと。
奈緒たちに根掘り葉掘り聞かれた時のために、一応街を回って観光しながらスクリーンショットを取っておくべきだと思うしね。
今後も、新しい発見があったらこまめにスクリーンショットを撮っていこう。
あとは……あぁ、ちょうどいいところに番所っぽいところがあった。
武士の人が門の前で見張っているし、でも武家のお屋敷にしてはちょっと小さすぎるから多分、番所なんだろうと勝手に思っただけだけど。ここも雰囲気がよく出ていたから、スクリーンショットを撮っておいた。
そこからしばらく歩いていくと、今度は商業地区っぽいところにたどり着いた。
あ……駕籠だ。
そっか、『和』の街並みに馬車ってちょっと似合わないもんね。納得した。
ちょうどよく、武器を取り扱っていそうな露店を見つけたので近寄ってみたところ、きちんと並べられている武具に重なって値段が書かれたフレームが浮かび上がった。
どうやら、きちんと購入できるみたいだね。
ちょうど、小太刀と呼べそうな小振りの太刀を二本見つけたし、試しに買ってみるかな。
「いらっしゃい。おぉ、お嬢ちゃん、女性だてらに武器を振るうたぁ珍しいな。どれ、うちの武器を一丁買っていててみないかね」
「はい。でしたら……こちらとこの小太刀をお願いできないでしょうか」
「おぅ、こいつらだな。こいつらはな、俺の自信作よ! ちょっと高いかもしれねぇが、二本買ってくれるならおまけして600Gのところを500Gで売ろうじゃねぇか」
「そうですか? でしたら、それでお願いします」
「おう、そら、鞘に入れてから渡してやろう」
店員さんは、豪快そうな人だった。
それでもその仕事は丁寧で、洗練された動作で私が示した二本を鞘に入れると、そのまま私に渡してくれた。
代わりに私は、手に出現させた小袋を店主に渡す。
「確かに。お嬢ちゃん、ありがとうな!」
「はい」
ちなみに、購入したのはそれぞれこんな感じの小太刀だった。
【?亡霊小太刀? 武器:短剣 耐久:∞/∞】
魔法攻撃:基5 精密:7
ゴースト系のモンスターの力が半霊化した刀で、その存在は製作者の霊核の断片によって保持されており、半永久的に消えることはない。物理的破壊力はない。スキル【霊体】を持つ者か経験者のみが帯刀することができる。
また、霊体しか持たないものとの親和性が高く、武器として使用時にマナを消費せずにすむ。
これらの効果は他の武具に合成できない。
所有者の魂と軽く結びつくため、所有している限り失われない。この効果は重複しない。
切りつけた相手のHPを吸収し、MPに変換することで装備者のMPを回復する。
固有印:吸精、持ち帰り
合成印:追加可能数8
合成印不明
どうやら、小太刀は短剣の分類になるようだ。
【刀剣】スキルから上位のスキルに切り替えるときには間違えないようにしないと。
購入した途端、ヘルプの併読を促すサインが流れ、その原因が小太刀の名前の前後についている?マークについてであることがヘルプのタイトルですぐにわかった。
案内通りにその説明を読んでみると、武器等の名前の前後についている?マークは、その武器や防具、アクセサリの状態が不確定な状態であることを示しているらしい。
不確定な状態というのは、例えば武器が呪われていたり、武器の印の効果が封印されていたり、また基本となる攻撃力よりも劣っていたり逆に勝っていたりしている可能性がある、ということ。
呪われている装備品は合成印に〈呪い〉の印が付与されて自由に着脱できなくなる。
印が封印されているものは印に〈嫉妬〉が付与され、付与された装備品の、これ以外のすべての印が効果を発揮しなくなる。
怨念が纏わりついている装備品は〈怨念〉の印が追加され、その装備品を装備しても実践能力値に補正がかからなくなる。
そして装備品名の後ろに+数値が付くと、基礎攻撃力よりも高い補正効果を発揮し、逆に-数値が付くと基礎攻撃力よりも低い補正値しか発揮されないといった具合だ。
ちなみに装備品の後ろの数値が前述の武器の説明にもあった修正値で、通常装備品の基礎補正値と鍛錬に使った素材のランクによってその変動数が変化するらしい。
「そういやぁ、お嬢ちゃんの格好はこの辺りじゃあ目立つかもなぁ。もしかしたら、服屋か、装具屋に行って、そっち方面も調達したほうがいいかもなぁ」
ヘルプ画面を見ていた私にふと、そんな声が投げかけられる。
そういえば、私は今武器を扱っている露店の前にいるんだった。
「あ……はい。確かに……そう、ですね……」
そして、言われて初めて気づいた。
今の私は、シンプルなノースリーブのワンピースに木でできたサンダルという、ちょっとあれな格好をしている。
さすがに私としてもこれはちょっと、と思ったので、素直に言われた通り、服屋へ行って着替えることにした。
ちなみに武器屋のおじさんにどこかよさそうな服屋がないかどうかを聞いたところ、この街には服屋が複数あるらしく、ついでに武器屋のおじさんがひいきにしているという服屋さんを教えてもらった。
教えてもらった通りの路をゆき、服屋に到着する。
中に入って出迎えてくれたのは、綺麗な和服に身を包んだ妙齢の女性だった。
「あらいらっしゃい、こんにちは」
「こんにちわ。あの、服を着替えたいんですけど、お願いできますか? 500Gしかないんですけど……」
「500Gもあれば、一般的な服ならすぐにでも用意できますよ」
「では、お願いします」
「かしこまりました。それでは……そうですね。こちらの服などいかがでしょう」
女性が提案してきた服は、淡いピンク色を基調とした着物と、鮮やかな赤色の袴の組み合わせ。
良さそうな色合いだったので、二つ返事で私はこれにした。
ちなみに300Gでよいとのことだった。
武器や防具は、自分で着ることもできるがメニューのステータスからでも変更することができる。
現在は、『残留思念の服』『残留思念のサンダル』という初期装備の服を着用していたため、すぐに購入したばかりの『亡霊の着物(上)』『亡霊の着物(下)』という名前のそれを選択した。
もちろん、『残留思念のサンダル』も『亡霊の草履』に取り換えた。
どちらも『亡霊小太刀』と同じような説明文で、壊れないようなことが書いてあったのでこれでとりあえずは一安心だろう。
ちなみにそれぞれの装備品の効果はこんな感じになっている。
【亡霊の着物(上)+3 上半身:服 耐久:∞/∞】
防御力:基4+3 魔法防御:基8+3 精密:6+3
ゴースト系のモンスターの力が半霊化した着物で、その存在は製作者の霊核の断片によって保持されており、半永久的に消えることはない。スキル【霊体】を持つ者か経験者のみが着用することができる。
また、霊体しか持たないものとの親和性が高く、衝撃を受けても弾き飛ばされずに済む。
これらの効果は他の武具に合成できない。
所有者の魂と軽く結びつくため、所有している限り失われない。この効果は重複しない。
近接攻撃をしてきた相手のHPを奪い、MPとして吸収する効果を持つ。
固有印:吸精、持ち帰り
合成印:追加可能数10
合成印なし
【亡霊の着物(下)-3 下半身:服 耐久:∞/∞】
防御力:基4-3 魔法防御:基7-3 速度:10-3
ゴースト系のモンスターの力が半霊化した袴で、の存在は製作者の霊核の断片によって保持されており、半永久的に消えることはない。スキル【霊体】を持つ者か経験者のみが着用することができる。
また、霊体しか持たないものとの親和性が高く、衝撃を受けても弾き飛ばされずに済む。
これらの効果は他の武具に合成できない。
所有者の魂と軽く結びつくため、所有している限り失われない。この効果は重複しない。
近接攻撃をしてきた相手のMPを奪い、吸収する効果を持つ。
固有印:吸魔、持ち帰り
合成印:追加可能数8→9
〈呪い〉←DEL!!
【亡霊の草履+2 脚部:服 耐久:∞/∞】
防御力:基0+0→2+2 魔法防御:基0+0→7+2
ゴースト系のモンスターの力が半霊化した草履で、その存在は製作者の霊核の断片によって保持されており、半永久的に消えることはない。スキル【霊体】を持つ者か経験者のみが着用することができる。
また、霊体しか持たないものとの親和性が高く、衝撃を受けても弾き飛ばされずに済む。
これらの効果は他の武具に合成できない。
所有者の魂と軽く結びつくため、所有している限り失われない。この効果は重複しない。
固有印:持ち帰り ←ALL UNLOCKED!!
合成印:追加可能数8→10 ←ALL UNLOCKED
〈嫉妬〉←DEL!!
〈怨念〉←DEL!!
……あ。
先ほどヘルプで読んだのが、早速当たったみたいだ。
見事に〈呪い〉〈嫉妬〉〈怨念〉の三つと修正値がついてるやつを同時に引き当てちゃったみたい。
なんて運の悪さだろうか……いやまぁ、防具三つのうち二つはプラスだったし、【死霊】スキルのおかげですぐに解除できたけどさぁ。
ちなみに未確定品は実際に装備してみたり使用してみたりすることで、識別された状態になる、ということがこの時閲覧を促されたヘルプで理解できた。
あと、実際に使って効果を実感することで識別することを、漢識別と呼ぶのだということも記載されていた。
呪いや封印などが付与されているかどうかは、実際に使うその瞬間か、事前に識別するためのアビリティ(技とか魔法とかのこと)を使わないとわからないらしい。
なんというか、この短時間だけで覚えないといけないことがずいぶんあった気がするなぁ……。
事前情報は十分に仕入れてきたはずだったんだけど、実際にゲームを始めてみるとやはり思い違いや未知のものが多数出てくる。
百聞は一見に如かず、という言葉を嫌でも理解させられた気分だ。
とりあえず、街の噴水広場で疲れた頭を休めるべく、ベンチに座ってボーとしていると――。
ゲームスタートしたけど、なんか普通とは違う街からのスタートになった
みたい。多分、選んだ種族が原因だと思うの……。
16:48 既読2
そうだったんだ……道理でいないと思った。
まぁ、私もエルフの里スタートだったし、それくらいじゃ驚かないけど……
奈緒 17:05
そうなのか?
まぁ、そういうことならお前はお前で楽しむといい。
…………詰まないように、頑張れよ?
Kei 17:05
奈緒と兄さんから、先ほど私が送ったメッセージの変身が返ってきたようだ。
「はぁ……やっぱりこう言われた……」
どうやら、兄さんの中ではすでに私がゲームの中で積んでしまう光景がすでに見えてしまっているみたいだ。
絶対に、その予想を外してやるんだから。
そのためにも、まずは強くならないとだよね。うん!