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アナザーフロンティア  作者: シュナじろう
オストリス・ゴースト
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追憶の幻影都市ハイト


 扉をくぐった私を待っていたのは――なんというか、戦国時代や江戸時代を彷彿とさせる、『和』を最前面に押し出した感じの街並みだった。

「うわぁ……すごい…………」

 テレビでも時代劇関係のドラマでしか見たことがないような光景を前に、私は少しだけ胸を躍らせた。

 とりあえず、私は動き始める前に、まずはスキルを選択した後のステータスがどうなったのかを確認した。

 魔法攻撃とか速度とかの実践能力値は、基礎能力値や種族倍率のほか、スキルや装備品でも変動するからだ。

 先ほど受けたチュートリアルを思い出しながら、私はメインメニューを表示させて、ステータス表示に切り替えた。

 そして、そのウインドウとにらめっこをすること、約5分。

「…………まぁ、こんなものなのかしら?」

 ゲーム完全入門者な私は、その内容が果たしていいものなのか悪いものなのかはわからなかった。

 ただ、少なくとも悪すぎる、というわけではないのだろうな、とは思いたかった。

 攻撃力や防御力を捨てて、完全に魔法攻撃と魔法防御ありきのステータスになる種族倍率のゴーストだが――種族選択の時に見た特徴から、近接戦でも問題なく戦えるのではないか、とも思っている。

 あ、そうだ。

 種族の項目を選べば、その種族の詳細な説明が詳しくみられるってナビさんが言ってたっけ。

 種族選択の時には軽い説明文と種族倍率しか添付されていなかったから、ここで確認しておいた方がいいだろう。


ゴースト

特性:

 種族特性なし

種族固有スキル

【霊体】第0スキル:1

 常に霊視効果と暗視効果と飛翔効果を得る。

 毒、麻痺を受けても影響を受けない。

 HP自然回復量と回復所用時間が常に一定となり、HP回復効果を無効にする。

 HPダメージをMPダメージに変換。MPが不足していてもすぐにHPに影響はない。この効果は耐性として扱わない。

 HPかMPが0になると死亡判定を受ける。

 HPが2以上ある時、MPが0になってもペナルティなしで復帰可能。

 本来MP消費を伴わない行動を行った場合、最大MPの2%分のMP消費を伴う。ただし、平面移動や立体移動、アイテム等の回収など一部動作は除く。

 特殊な計算がない限り、すべての攻撃が魔法攻撃依存となる。

 敵の攻撃により受けたダメージに対し、魔法防御が参照される。

 特定の分類のアイテムを使用できなくなる。

 特定の分類のアイテムを使用するに際し、特殊条件が発生するようになる。

 霊視効果を持つアビリティを使うか、夜間マップでしか生者キャラクターから認識されない。逆にこちらの声も聞こえない。干渉しても認識されない。

 夜間マップでない場合、霊視効果を持つスキルを使われなければダメージを一切受けない。

【死霊】第0スキル:1

 デバフ効果のある魔力を吸収することにより、MPを回復する。回復量は相手が消耗したMPまたは宝箱や道具などのランクによる。この効果は耐性として扱わない。

 装備品や道具を装備/使用した際、呪いや嫉妬、怨念などの魔力を吸収することにより影響を無視し、MPを回復し、解除可能であれば解除する。MP回復量は装備品の補正値や効果量による。

【生への執着】第1スキル:1

 火属性、地属性、聖属性以外のダメージを50%カット。

 火属性、地属性、聖属性のダメージが50%アップ。

 神聖な場所にいると徐々にMP減少。神聖なほど減少速度アップ。

 街にいる間、常にMPが最大値に、さらにあらゆる状態異常を無効化。2分につき1ポイント、EPが低下する。神聖な場所にいてもMPは減らない。

 パーティを組んでいる間、10秒ごとにメンバー全員からMPを自分の自然回復量分吸収する。また5分につきメンバーの総数-1人分、EPが低下する。


 ……最後のやつが、思いのほか酷かった。

 というか、街にいる間EPが減少し続けるって、嘘でしょ!?

 EPは少なければ少ないほど、街の人に与える印象が悪くなり、雑な扱いをされたり無視されることが多くなるという。ひどくなると警備キャラが出張ってくることもあるので注意が必要だ、とすらナビさんが言っていたほどに重要なものだ。

 それが街に居たり、誰かとチームを組んだりしていると常に減り続けるなんて……ちょっとまず過ぎない、これ!

 私は急いで視界の端に表示されているパラメータのうち、EPにあたるゲージを確認する。

 その表示は…………よかった。初期値の0から変動していない……?

 あれ? 変動していない?

 私、多分だけど数分以上はここで立ち止まっていたよね……?

 もう一度、種族固有スキルを確認する。

 うん、間違いなく街にいる間はEPが減少していくってあるね。

 でも実際には減少していない……なぜかしら。もしかして、開始して早々に不具合? バグ?

 その疑問の答えと言うか、もしかしたら、と思うものは、種族の詳細説明を消してステータス表示に戻ったところで発見した。

 ステータス表示には、HPなどの流動性能力値、自分の筋力などといった基礎能力値、攻撃力等の実戦能力値に加え、現在のゲーム内の位置情報やゲーム内時間などの情報も記載されていた。

 その中の一つ、私の現在のエリアに、このような記載がされていたのだ。

 ――追憶の幻影都市 ハイト

 追憶、の幻影都市……意訳すると、現実には存在しない街、ということになる。

 詳細説明とあったので表示させてみると、

『滅びた都市の住民たちの強い残留思念が互いに干渉、増幅し合い、古都遺構ハイトの同一座標上の異次元に形成された幻影の街。肉体という束縛から離れた者か、彼らに仲間と受け入れられた者のみがここに訪れることができるが、仲間として受け入れられなければ本来の遺構で彼らから手痛い歓迎を受けることになるだろう』

 と書かれていた。

 つまり……今ここにある街並みは、(そもそもゲームの中に存在する街並みに対してこういうのは違和感大アリだけど)すべて実在しない、幻の光景……ということになる。

 すでに滅びた、故人達の想いによって形成された街……。

 EPが減っていかないのは、だから、ということなのか。

 ここにいる人達が亡霊だから……彼らにとって、種族『ゴースト』を選んだ私は仲間だから。

 設定上では、『私』にとっても彼らは仲間であり、MPを吸収するような相手ではない……だから、スキル効果も働かず、結果としてEPの現象も起きていないのだろう。

 なかなかに、作り込まれた設定だ。

「でも……なんだか、寂しい気もしないでもないけどね……」

 この光景が、すべて幻影という設定だなんて……。

 本当なら、兄さんや奈緒も呼んで、この光景を見てもらいたかったのだけど……種族限定の街並みじゃ、仕方ないね。

 ひとまずはスクリーンショットを撮影して、後で自慢話じゃないけどいろいろと話を聞かせてあげよう。

 兄さんや奈緒も、私がゲーム内で何をしていたのか、気になるだろうし……かといって、この場所の説明を見る限り、二人ともここには来ることができないだろうしね。

 そう考えて、私は開いていたステータスウインドウの隅にある×ボタンを押して、ウインドウを閉じた。

 しかし、参ったなぁ。普通の街に行くと、EPが減少していっちゃうのかぁ。困った種族固有スキルがついてきちゃったなぁ。

 これは、進化に賭けるしかないのかな……。

 人外の種族に関しては、職業の代わりに種族そのものを変更することができる、とチュートリアルでナビさんは言っていた。

 やり方は、職業のそれとほとんど変わらないらしく、条件を満たせば昇格/進化先が解放される。

 それがその時点の職業/種族の直上のものであれば、いつでも昇格/進化が可能。

 もし昇格/進化後の種族が気に入らなければ、あるいは別ルートの職業/種族に変更したい場合は、街中の宗教施設で元の職業/種族に変えたり、条件を満たすほかの職業/種族に変更したりすることも可能だ。

 【生への執着】が種族固有スキルとして固定されている以上、今できることは何もない。

 一つ上の種族で、【生への執着】が外れる種族が来てくれるのを祈るしかなさそうだ。


 ――それにしても……もう一つ気になるのは、本来MPの消費を伴わない行動にもMP消費を伴うっていう一文だ。

 その範囲は一体どこからどこまでなんだろう。

 移動するとか、道具を拾うとか、そういった基本的な行動は範疇の外みたいだからまだよかったものの、その範囲も不明瞭だし……ちょっと確かめてみる必要がありそうね。

 まず、路面に落ちている石を拾ってみる。これは説明に遭った通り、特にMPを消費することなく拾うことができた。

 次はその石を、誰もいない方向に軽く放り投げてみた。

 MPは減らない。ものを投げるのはMPを使わない?

 次に、もう一度石を拾って、今度はソフトボールみたいに投げ飛ばしてみた。

 今度は微妙にMPが減少した。

 10ポイントくらい減ったから、おおよそ説明通りの減少量。

 なるほど、明確に投げるような動作だと【霊体】の効果に引っかかると。

 いらないアイテムを捨てるときは、アイテム欄から破棄を選んでその場に放出するか、弱い力で放り捨てる必要がありそうだね。

 あとこの場で確かめられることといえば……素振りで減るかどうか、かな。

 少し歩いて発見した木の枝を木刀よろしく構えて、軽く振ってみる。

 ……うん、やっぱり軽くなら問題ないけど、ある程度強く振るとMPが消費する。

 どうやら、これらの行動は力加減によってMPを使うか使わないかが決まるみたいだね。

 うかつに素振りをしてMPを無駄遣いしないように注意しないとだ。

 それ以外では、今はもう確かめようがないので、あとはその場その場で確かめるしかないだろう。

「……ふぅ。確認したいことはあらかたで来たし、ステータスの確認とかはもう大丈夫かな……。それじゃ、まずはこの街を一通り見て回ろうかな……。敵との戦いは、その後でいいや。まだ武器も調達してないし……あれ? そういえば、この街っていわゆる幻の街みたいな感じなんだけど……買い物とかって、できるのかな……?」

 一応、ゲームスタート時の支給品としてゲームマネーを1000ゲイン手に入れたけど……買い物できなかったらどうしよう……。

 一抹の不安を抱えながら、私は開いていたウインドウをすべて閉じてこの場を後にした。

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