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アナザーフロンティア  作者: シュナじろう
亡霊達の将
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ルタリオ門、まさか君が××だったとは


 それから、待ち構えていた敵を倒し尽くして安全になった通路をぐるりと回り込んで、なー達は私達と合流を果たした。

「ん~、案外あっけなかった、かな……」

「でもないと思うけど。よくよく考えてみ? ここ、多分だけど呪いとか怨念とか、そういったデバフ撒いてくる敵しか出てこないんだよ?」

「そうそう。リリーなやエアルさんがいてくれたからまだ受け皿があったものの、そうじゃなかったらデバフに次ぐデバフで、レベル的には問題ないってのに死に戻りしてた可能性だってありうるぞ」

「なんなら、即死の呪いは使ってこないだろうけど、スリップダメージ系のデバフは普通にあるだろうし」

 ヌコ丸さんが思ったより簡単だったようなことを言ったが、どうやら他のメンバーはそうは思っていなかったようで、口々に反対意見を言っていった。

 まぁ、確かにその意見もわからなくはないんだけど。

 そもそも、ここがゴースト系のスタート地点から直接入って来れるダンジョンという事実が、ゴースト系プレイヤーに圧倒的な優遇措置が図られていると受け取れる。

 ゴースト系のプレイヤーなしでは難易度が激増することくらい、私でもわかることだった。

「それじゃ、先に進もうか」

「うん、そうだね」

 とりあえず、ここでこうしていても攻略が進むわけでもなし。

 古城の攻略を進めるべく、さらに奥へ――本丸へと向けて進んで行った。


 北の丸は、どうやら今乗り越えた山場を除くと、あと一つしか難所は残されていないらしい。

 櫓の下を潜り抜けた先の、一つ目の難所を乗り越えた私達を待っていたのは、見晴らしの良い広場だった。

 遠目に見えるのは櫓門で、マップ情報を確認しながら進んでいた私は、マップの名称が『古城ハイト 城郭・北の丸ルタリオ門(BOSS)』となったことにいち早く気づいた。

 (BOSS)……つまり、エリアボスが早くもここで登場するということ。

 マップ情報には、弓聖ルタリオが守るとも書かれていたはずだ。

 その文の内容から、おそらくルタリオからの攻撃は頭上に存在する櫓からの、弓矢による攻撃。

 肝心の門番はといえば、広場に槍兵が多数いることから、こいつらのどれかがそれにあたるのだろう。その門番を倒せば先に進む扉が開くのか。

 もしくは、全滅させないと櫓門が開かない、とかもありそうな条件だけど。

 ただ、そこに控えていた敵のレベルと数が問題で、そいつを倒すだけで結構な時間がかかりそうなんだけどね。

 全員が、レベル8~9と、結構今の私やなーのレベルに迫ってきている。

 ここまでくると、一回で相手のMPを0にするのはちょっと厳しいかもしれない。

 そのため、こいつらを倒すのだけでも少し時間がかかりそうなのだけど――今回はそれに加えて、おそらくは上から降り注いでくる矢にも対処しないといけない。

 それは、なかなかに厄介な内容だった。

「っと、構えているそばから矢が降ってきた!」

「狙いが正確……うそっ、避けたはずなのに」

 訂正、どうやら櫓から放たれる矢はこちらを追尾してくるらしい。

 受けたダメージは……思ったより少ない?

 いや、私の、ゴースト系の耐久性事情だからそう見えるだけで、HPの少ないなーやぬこ丸さんのHPゲージはそれなりに減っていた。

 おおよそ1割って言うところかな。

 これが……どれくらいの間隔で放たれるのかが問題だ。

 さらに、背後からも脅威が。

「あ……門が……」

 音を立てて閉まっていく門。

 私達は、完全に閉じ込められてしまった。

 そしてそんな状態で広場の中心に現れたのは、ここがエリアボスの領域であることを示すメッセージ。


 ――Area boss stand-by……Ready.

 ――Have are good luck!!


 どこから襲い掛かってきてもいいように身構えていたなー達も、これにはびっくりしたようで、全員が慌てだした。

「エリアボス……まさかとは思うけど、こんな感じで閉じ込められるだなんて!」

「これは序盤にしちゃ厳しすぎるだろ」

「話は後! 今はとにかく、ボスがどいつなのかを探し出さないと!」

 と、私は務めて冷静にふるまうけど、正直私もどいつから手をつければいいのかわからない状態だ。

 上からはやまない矢の攻撃。

 追尾性がある上に、どうやらボス戦に挑んでいるプレイヤー全員に等しくダメージが入る判定なのか、私がなーをかばうように動いても、そんなの知らないと言わんばかりに両方にダメージを与えてくる。

 どう動こうか、と私が視線をさまよわせていると、

「とりあえず、私は回復に専念するから、皆は片っ端から敵を倒していって!」

「なーちゃん、俺も協力するぜ!」

「ありがとう」

「敵はいっぱいいると言っても所詮、格下のモブばかりだ! 手分けすればすぐに全部片づけられる!」

「えぇ!」

 なーが真っ先に我に返って号令をかけてくれた。

 そうだ、私は前衛しかできない。この状況下では、敵を倒すことしか私にできることはない。いや、それこそが私の役割だ。

「なー、MPポーションは!?」

「まだ全然使ってないから大丈夫!」

「おっけ。それじゃぬこ丸さん、これよかったら使ってください!」

 私はぬこ丸さんに自前のマナポーションをいくつか渡して、手近な敵に切りかかっていった。

 敵は、これまでの道中にも出てきた足軽幽霊――かと思ったが、侍ゴーストという、また別の敵だった。

 これは少し誤算だ。

 相手のレベルは8で、今の私のレベルは16。

 倍近くのレベル差があると思うのだけれど、それでも一撃でMPを3~4割削るのがいいところ。

 そしてその上で、もちろん相手もゴースト系だからHPの数値だけ命がある。

 一度倒した際のHPゲージの減り具合から、こいつらは3回倒さないと完全には倒れないようだ。

 それに――侍、というようにこれまでと比較しなくても名前だけで格が上ということもわかるが、こうして対峙してみると改めて足軽とは段違いだと理解させられる。

 槍を使う足軽なら、確かに存在していた。

 が、そいつらとは明らかにその捌き方が違う。

 近寄ろうとすれば即座に反応してきて槍を突き出し、それを避けて切りかかろうとすれば即座に持ち方を変えて柄で小太刀を受けてしまう。

 そしてそのまま槍を回し、柄で突こうとしてくるからこちらとしてもそれを避けねばならず、結果として決定打を与える隙になかなか恵まれない。

 それでも、こちらは二刀で戦っているから、一度こちらの攻撃が入ればそのまま追撃につぐ追撃で、どうにか押し切ることはできているんだけれども……やっぱり、足軽幽霊たちと同じようにはどうしても行かない。

 気にするほどのダメージは受けないとはいえ、櫓からの矢によるダメージのことも考えると、無視できるほどの小ダメージということでもない。

 ここの攻略がなかなか進んでない理由が、ようやっと見えてきたかもしれない。

 先ほどの、高低差を利用した包囲網の時と同様の、数の暴力で制圧してこようという敵の配置。

 そして北の丸でも頭一つ抜けた一体あたりの強さ。

 なによりも上から降り注いでくる矢による一方的な攻撃。いや、これはギミックとも言うべきか――とかく、それらの要素が積み重なって、ジリ貧負けが連続しているのだろう。

 おそらくだけど、最大の敵は『油断』と……それから、これまでの道程からすると、もう一つは『観察不足』だろうか。

 敵のレベルが一けた台だからとタカをくくってここまできたプレイヤーも、もしかしたら多いのかもしれないけど――私の体感だと、ここを守っている敵全員を、そのまま一つの『ボス』として捉えるのだとすれば、やはり2~3レベルだけしか相手のレベルを上回っていないのは分不相応のように思える。

 そして、ここに来たプレイヤーたちの中には、そういったプレイヤー以外にも、私達のようにきちんとレベルを上げて挑んで来たプレイヤーたちだっていたはず。

 そう言ったプレイヤーでさえも敗北を期しているとなると、降り注ぐや以外にも何かしらのギミックがあるとみていいだろう。

 そもそも、この城郭の最序盤、東の丸からしてすでにギミックが満載だったのだから。

 ここも、何らかの攻略を有利に進めるためのギミックが、あってもいいはず……。

 戦いながら、あちらこちらに何か手掛かりがないか、と探っていると、不意に後ろに待機させていたなー達の姿が目に付く。

「あ……なーがまずい…………」

 ふと後ろを見てみれば、なー達が壁際に下がって、私達のサポートをしようと魔法の詠唱モーションに入っているのが見える――のだけれど、思うように使えていないようだ。

 私は、なーにボイスメッセージをつないで軽く様子をうかがってみる。

「なー、大丈夫?」

『あー、うん……思ったよりピンチかも』

「なんか、ポーションでその場をしのいでいるように見えたけど……魔法、使えないの?」

『うん。弓矢って、実は地味に魔法使い殺しの武器なんだよね。銃系の武器にも同じことが言えるんだけど、総じてため解除がデフォルトで付いているから』

 それは初耳だ。

 銃が武器として存在していることは、すでに何人も銃を装備しているプレイヤーを見かけているから知っていたけど……ともかく、遠距離系の武器二系統に、そんな仕様があったとは思わなかった。

 そして、この櫓から放たれる必中の矢にも、同様の効果が含まれている、と。

 この戦いにおいて、魔法使いからのサポートはまったく期待できないということが、これでわかった。

 これだけ敵の数が多いとなると、さすがに魔法使いのサポートがないのはきつい。

 ある程度数が減ってきてはいるけど、全体を見渡してみると、頻度でリポップしているのがわかる。

 それが少し気になって、私は戦いながらなーに聞いてみた。

「一つ聞きたいんだけど、こういう時、敵ってリポップするものなの?」

『うん敵の特技で呼ばれたり、一定時間耐えきるって言う特殊条件のためだったりとか、理由は様々だけど、結構類例としてはある方だね』

 なんでも、なー自身も、退路が立たれた時点で、これが耐久型――つまり、言って時間耐えるタイプのボスなのではないか、という可能性も考えていたらしい。

 だとすれば、どれくらいこれに耐え続けていればいいのか……。

 このボス戦のクリア条件について考えながらも、体の方は普通に戦いをこなしていく。

 そうして、見境なしに敵を倒して回っていたためか、気づいたら誰よりもゴール側の門に近くなってしまっていることに気づいた。

 他のみんなは、まだ半ばほどまでしか着ていない。

 私だけ、突っ走ってきてしまったようだ。

 この門も、なーが言うところの耐久型のボスだったら、この戦いに耐え抜かないと絶対に開かないんだよね。

 はてさて、敵を一定数倒すにせよ、一定時間耐え抜くにせよ、あとどれくらいで私達の勝利とみなされるのか……と、戦いながらふと門に視線を向けると、


 ――[AREA BOSS]Mimic door:LV10


 まさかの、こいつがボスでした。

 お前がボスだったんかーい!

 というかさ……一つだけ、叫びたいことができちゃったんだけど。

 敵の注意を惹きつけるのはこの状況だと自殺行為だからいけないんだけど、心の中だけならいいよね。


 ――こんなの、普通気付くか! 誰、こんな悪辣な仕掛け仕込んだやつ!



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