抜け道を確保しよう
櫓の中は、思った通り紫のSPはなかった。それどころか、リリーナさんが言っていた通り、足軽幽霊で埋め尽くされているということもなかった。
どういう理屈かはわからないが――まぁ、相手は幽霊だしね。そもそもがゲームなんだし、深く考えたら負けか。
そんなこんなで、東の丸の最初の突破口らしきものを見つけた私達は、そのままの勢いで……とはならず、リリーナさん達がそうしようとしていたように一旦撤退してなー達を待機させ、私とリリーナさんの二人で東の丸の探索を再度行うことになった。
東の丸が、櫓の中を経由することで危険を回避できることはわかったけど、肝心の櫓の入口は最初の櫓しか見つけていない。
私もリリーナさんも、東の丸を隅々まで探索してたわけでもないしね。
なー達をハイトにおいてきたのは、その方が事前調査をするにも安全だと思ったからだ。
マップ情報を見る限り、【死霊】スキルを持っていない人がいなければ、あんな悪質な紫SPなんて出てこないだろうし。
というわけで、今度は私とリリーナさん、二人でハイト古城東の丸の探索だ。
「改めて、よろしくね」
「うん、よろしく」
林道と山道を抜けて桟橋に到着したところで、頷きあう。
そして、どちらからともなく桟橋を渡り始め、門をくぐり、城郭内に足を踏み入れた。
私達の目では、なーやヌコ丸さんに見えていた紫のSPは見えないから、実際に踏まない限りはSPの存在は把握できない。
なので、まずは慎重に歩を進めてみたのだが……。
「なにも、起きないね……」
「やっぱり、私達だけなら、あんな凶悪な紫のSPは配置されないんだね」
「でも、まだ油断はできないけどね」
とりあえず、最低限の警戒だけはしながら、本来の目的である櫓の入口探しを始めた。
「あ、門だ」
「そういえば、門はすべて櫓門なんだよね」
「そういえば、そうだったね。最初の櫓の構造から考えると……うん、そうだね」
リリーナさんは、北の丸に進む道とは違う方向に進む道に向き直って、そちらに進んでいった。
すると、見事にその進んだ先で巧妙に隠されていた隠し扉を発見することができた。
「お見事だね」
「まぁ、エアルさんが教えてくれた櫓と櫓門の繋がり。あれだけわかりやすいヒントがあったら、ね……」
なるほど。その周囲の壁の内側は、櫓になっている可能性がある、と考えたわけね。
さてさて、こっちの櫓の中は、と……あれ? いきなり階段だ。
それに、一階部分にはほとんど何にもない。
二階部分はやっぱり合戦とかに使われるのだろう野戦道具が雑然と置かれていて、数体の足軽幽霊たちが待ち構えていたかのように襲い掛かってきた。
まぁ、今の私達なら恐れるまでもない敵なんだけど。
そして、肝心の櫓の構造なんだけど……この方向だと、城郭の奥の方、北の丸に進んでってるよね?
どう考えても、門の上にはつながっていない気がする。
改めて一階に降りて櫓の中を一通り探索し、進んだ先の扉から出た先は、やはりと言うかなんというか、北の丸に繋がっている門前の広場。
どうやら今通ってきた櫓はそのままゴールに直通してしまうものだったようだ。
「……でも、ちょっと気になるというか。さっきのエアルさんじゃないけど、櫓に囲まれたこの広場。あからさまと言うかなんと言うか」
「うん。やっぱり、怪しいよね」
これで東の丸までの安全ルートが確保できた、と思っていると痛い目に遭いそうで少し怖い。
もう少し、探索をした方がよさそうだった。
そうして、出た広場の外周を見て回ったところ、やはりというか、ここにも櫓の入り口が見つかった。
先ほど出てきた櫓のものとは別に、新たに二つも見つけた感じだ。
「これは……二手に分かれて探した方が早いかな……」
「敵自体は私達にとっては気にするようなものでもないし、そうするのがいいかもしれないわね。一応、これ渡しておくわね」
私はストレージから自作のマナポーションを差し出す。
と、リリーナさんは驚愕の眼差しで私にそれを突き返してきた。
「こ、これ! こんなにすごいマナポーション、もらえないよ! というか、こんなのどうしたの!?」
今プレイヤーショップに出回っているどのポーションをも凌駕しているんだけど、と言いながら私に返却を望むリリーナさん。
けど、今となっては私にとってこれくらいは普通に造ることができる品質の物だ。
返されるほどのものでもない。
「作ったんだよ。リリーナさんも知っての通り、ゴーストで近接戦やるならひどすぎるコストパフォーマンスをどうにか解決しないといけないじゃない?」
「まぁ、それはそうだけど……」
リリーナさんの場合がどうなのかはわからないけれど、私の場合はそれがポーションの自給自足だった。それだけの話なのだといえば、リリーナさんは開いた口が塞がらない、と言わんばかりに呆れた顔で私を見てくるばかり。
「そんなに驚くことかな」
「ま、まぁ、おかしくは、ないよ。おかしくはないんだけど、ね……」
まさか、生産職のトップすら超えるくらいのポーションを作っているとは思わなかった、とリリーナさんは苦笑交じりにそう言って、
「本当にもらっちゃってもいいの?」
「もちろんだよ。自分の分はちゃんと確保してあるからね」
「それならありがたく、もらっておくね」
それから、宣言通りに二手に分かれての探索を始めた。
私は、南向き(北向き?)の扉から櫓内に侵入し、まずは周囲を注意深く見渡してみる。
どうやら足軽幽霊は潜んでいないようだ。
少し警戒を緩めて、先に進もうとする――と、視界の端に、櫓内の内装には若干不釣り合いなタンスが見えて、私はそちらに進んでみた。
私の背丈よりも若干高いくらいのそのタンスは、引き出しが多く作られており、またいくつかは引き戸にもなっていた。
気になったのは、何か所か開けてみようと手をかけてみたものの、ほとんどの引き出しが、何かが引っ掛かっているかのように開けられそうもなかったことだ。
このタンスは、ただのオブジェなのかな?
気にはなるけど、いつまでもこれを調べているわけにもいかないと、私はタンスの調査を諦めて櫓の探索を進めることにした。
そして、再び周囲を見回して、どうやら南方向へと続いているらしい櫓の中を進んで行こうと足を動かしたところで、櫓の扉が開かれ――外から、つい先ほど別れたばかりのリリーナさんが、もう追い付いて来てしまった。
調べ終わって追いつくにしても早すぎる合流。
一体、もう一つの櫓内で何があったというのだろうか。
「どうしたの? モンスターハウスでも潜んでた?」
「ううん。入ってすぐのところにまた扉があったんだけど、その扉が何かに引っかかって開かなかったの」
「そうだったんだ。……うーん、なんだろうね。とりあえず、こっちの櫓調べ終わってから、もう一度調べに行ってみる?」
「うん、そうしよう。こっちに何か手掛かりがあるかもしれないし」
なるほどね。もう一つの櫓の入り口には閂か何かが施されていて、開かないようになっていたのかもしれない。
もし内側に閂が嵌められていたのだとしたら、ちょっと面倒そうだなぁと思いながら進んで行くと、ほどなくして南端部へと到達した。
周囲の狭間や窓から外の様子をうかがうに、こちら側の扉はこの一つ目の櫓を抜けて出てきた先にある、櫓門の付近へとつながっているのかもしれない。
とりあえず、ここの出入り口には内鍵がかかっていたので外しておく。
「この分だと、やっぱりあっちの櫓には入れないのかな?」
「どうだろう……もうちょっと、この中を調べてみよう」
私は、再び注意深く周囲に視線を走らせながら、来た道を戻って何か手掛かりがないか探してみる。
そうして、北端に到達すると、そこで先ほどはなかったSPが出現しているのに気づく。
「あれ? ここ、さっきまではSPなんてなかったのに……。それにこれ、黄色のSPなんて初めて見たよ?」
なんだろうかと思い、リリーナさんに視線を向けてみるも、彼女はふるふると首を横に振るばかり。
どうやら、このSPは私にしか見えていないらしい。
近づいて必要スキルを確認してみると、要求されていたのは【察知10】と【叡智15】、そして【直感10】。
「リリーナさん、【直感】ってどうやって取った?」
「どうやってって……普通に、【察知】と【発見】、それに【採取】を取ったら出て来たけど……?」
「あぁ、やっぱりそっちで取ってたんだね」
「そっちって……【直感】って、他にも取り方あるの?」
「うん。私は、【叡智】と【察知】【感知】で取得できたよ」
「へぇ、面白いね。同じスキルでも、違う取得方法があるなんて」
【叡智】なんて聞いたことすらなくてそこですでに驚いた、などといわれれば微妙な顔にならざるを得ない。
まぁ、効果自体は一緒だろうし、単純に【叡智】スキルを持っていなかったからなんだろうけど……一緒、だよね。
まぁ、今気にすべきはそこじゃない。SPについてだ。
黄色のSPは、先ほどスルーしたタンスに重なる形で出現している。
「これ、タンス、だよね……」
「うん。そうなんだけど、さっき開けようとしたんだけど、全然開けられなかったんだよね……」
「そうなんだ……でも、こうしてSPが出てきているんだから、何かしらの意味はあると思うんだろうけど……」
まぁ、そう思うよね……。
それなら、やっぱり解明してみるかな。
私は見たことのない黄色のSPに恐る恐る触れてみる。
すると、唐突にタンスの引き出しの一つが勢いよく開いた。
そのままその一段上にある引き出しが開いた――かと思えば、今度はさらにその一つ上にある引き戸が開いて、と次々と引き出しや引き戸が動いていった。
「からくりダンス……そういう、ことだったんだね」
「からくりダンス?」
「そう」
リリーナさんが言うには、からくりダンスというのは鍵の無い金庫のようなもので、幾重にも張り巡らされたからくりによってなかなか引き出しが引き出せないように仕組まれているのだという。
単純に目的の引き出しを開けようとしても開けられないようにできているため、中身を取り出すにはあらかじめ定められた手順を踏んでからくりを解いていく必要があるらしい。
なるほど、目の前のタンスもそういうからくりダンスになっていた、というわけか。
やがて黄色いSPはパァン、という音とともに弾け飛び、無数の光の粒子となって消滅。
それと共にすべてのタンスの引き出しや引き戸は開放され、目の前には『からくりダンスの謎を解明した! どこかの閂が外れたようだ』 と表示された。
うーん、からくりダンスかぁ。
「もしこのSPがなかったら、どうなってたのかな?」
「さぁ? 引き出しは、全部は開かなかったの?」
「ううん。いくつか試してみただけなんだけど、一つだけ開いたのはあったかな」
「そっか。それなら、もし【叡智】のスキルがなかったら自力で解く必要があったのかもね」
「これを自力で……」
うわぁ。それはまた、難儀なことだなぁ。
「どこかに、ヒントはまぎれているかもしれないけどね」
それでも、どこにヒントがあるかなんてわからないし、やっぱり自力で解くのは無理がありそう。
「今までは何のためにあるのか存在意義が疑問視されてた【叡智】スキルだけど、実はこういう場所で非常に強い力を発揮するスキルなんだろうね」
「あはは。それは間違いなさそうだ」
そういえば、最初に調べた時も一度開いた引き出しは、閉じたあと緑色に点滅していた気もしなくはなかった。
あれも、多分【叡智】スキルがもたらしたヒントなんだろうなぁ。この引き出しは、すでに操作不要ですよ、みたいな感じの。
とにかく、SPの解明結果からして、リリーナさんが開けられなかったもう片方の扉が開けられるようになっている可能性が高そうだし、なー達のところに戻る前にまずはそっちを確認してみよう。
リリーナさんと一緒に、改めてリリーナさんが先に調べていたらしい扉に手をかけてみたところ――
「開いたみたいだね。やっぱり、さっきのからくりダンスがカギになってたんだね」
「はぁ~。これを開くには、【叡智】スキルが必須なのかぁ。攻略難易度、一気に跳ね上がりそうだね」
「逆に、【叡智】スキルの価値は爆上がりしそうだけどね」
「こういうなぞ解きを、スルー出来るスキル。それは確かに、注目されるでしょうね」
とにかく、これで間違いなく楽に北の丸へ進めるようになったんだし、早速なー達に報せに行かないとね。




