古の古城 ハイト城 その2
私達と同じようにハイト古城の攻略にやってきた四人組パーティは、私目線から見ればかなりバランスが取れているんじゃないか、という編成だった。
前衛に盾と直剣を持った男性プレイヤーの『ああああああああ』、通称アオールさんさん。
同じく前衛で大剣を背負っているのは、女性プレイヤーの『もふもり』さん。
後衛でいかにも魔法使いっぽい衣装をまとっている男性プレイヤーは『ヌコ丸』さん。
そして先程軽く話を交わした斥候役の『リリーナ』さんを加えた四人編成。
彼らの方でも、魔法使いがヒーラーを兼任していたものの、なーが加わったことでどちらかが攻撃に専念できるようになったようだ。これは、私達にも同じことが言える。
なーはどちらかといえば回復系の方を伸ばしたいということで、攻撃魔法担当はヌコ丸さんが担当することになった。
ちなみに、同年代ということもあって、彼らとはため口で話すことになった。
この中では一番年下になるなーも最初は遠慮していたが、もふもりさんが気にしなくてもいいと改めてため口を促したことで、なーも敬語なしで普通に話している。
そんなこんなで立ち回り方を決めながら城門へ到達した私達。
私は、依然来た時とは全く違う雰囲気を漂わせる城門――マップ情報によればハーミット門というらしい――を前に、しばし呆然としていた。
事前にリリーナさん達から話を聞いていたが、実際に紫のSPでおおわれた櫓門を見るとやっぱり言葉を失ってしまう。
ハイト古城というダンジョンの不気味さも相まって、それほどまでに不気味な様相を醸し出していた。
「あれが……」
「そう。私達、ゴーストだけの時はなかった、紫のSPよ」
「私達も、最初は北の丸くらいなら楽勝でしょ、って思ってたんだけどね……」
「いざ到着してみれば、ごらんの有り様ってわけだ。……俺達にゃ特に何も見えてないんだがな」
つまり、対応スキルを持ってないために、SPが視界に映らないということだろう。
見えていなくても、紫のSP自体は、そこにある。だから、一見してSPがないからと安心して侵入すると、とんでもない目に遭わされることになる。
「とりあえず、このままでは進めないし、まずはSPを消さないと……」
私はSPに近寄って、
「待って!」
リリーナさんに諫められる。
「どうかしたの?」
「そのまま進むのは危険よ」
「なんで……って、まさか門の手前にもSPが?」
「うん。桟橋のところに、いくつもの紫のSPがあるの。下がってて、お姉ちゃん」
「この紫のSPは、俺となーちゃんに任せときな」
そう言って、二人は堂々と前に出る。
そして、虚空に手をかざしては櫓門の上層部分にある小窓に向かって魔法を放っていった。
そうして、門に限りなく近くなったところで反転、今度は私達の出番だと言わんばかりに再び後衛に戻っていった。
「どんな罠だったの?」
「怨霊の狙撃だって。効果は――」
「主にはHPダメージで、1ポイント分は区分や属性を持たないダメージだそうだ」
区分/属性無規定ダメージ。その名の通り、物理や魔法といった区分を持たず、属性すらも規定されていない特殊なダメージだ。
物理や魔法でもない上に属性も持たないのでダメージを減らす手段がなく、必ず100%分のダメージを受けてしまうというとんでもないもので、私達ゴースト系のプレイヤーが連続で受けようものなら、どれだけHPがあってもすぐに倒されてしまうことだろう。
「まぁ、普通ならゴーストは明らかに魔法特化のステータス補正だし、単純に考えればこのSPも普通に対処できたんだろうけど……」
「二人とも、バリバリの近接戦特化だからねぇ。このSPに対応したスキルは、持ってないでしょ」
必要なスキルを聞けば、弓使いや銃使い、そして属性攻撃系の魔法スキルだった。
私は無論持ってなどいないし、リリーナさんも投擲スキルなら持っていたらしいけどやっぱり桟橋上のSPには対応していなかったのか、残念ながら彼女にも見ることはできないと言われた。
なーやヌコ丸さんがいなかったらとんでもない目に遭っていたところだ。
やっぱり、私が単独で来た時よりも、圧倒的に難易度が上がっている。
「もう、大丈夫なんだよね」
「うん。桟橋の上のSPは全部消したはず。だから問題はないと思う」
「門の紫SPは二人に任せるな」
「私は、SPは見えるけど白いのになっちゃってるんだよね……だから、やっぱりお姉ちゃんたちじゃないと対処できないよ」
なるほど。なーにはSP自体は見えている、と。
でも白いSPは、そこに何かがあること自体は見抜けているけど、それが危険なのかそうでないのかすらも判別できない、対処不能なSPであることを示している。
なんにせよ、アオールさんが言ったように、ここは私達のうちどちらかが対処しないといけないだろう。
「えっと、じゃあ今回はエアルさんに頼んじゃおっかな……」
「わかったわ」
おずおず、といった感じでリリーナさんに言われて、私は何が起きてもいいように武器を構えながら門に近づく。
幸いにも、敵の不意打ちを受けることなく、そのまま門のSPに触れることができた。
えっと、必要スキルは……【死霊1】か、または【霊的生命体1】。どちらもレベル1なので、所持さえしていれば問題なく解除できるということになる。
こんなスキル、普通の種族を選んだプレイヤーは持っているはずがないので、紫のSPに気づかなくてもおかしくはない。
SPはあっさりと解明され、跡形もなく消え去った。
その名残というか、解除したことでその内容が私に開示されたが、その内容を見て私はぎょっとした。
『亡者の霧:サーチポイントに侵入したプレイヤーとそのパーティメンバーが装備しているものすべてに〈嫉妬〉印を付与し、プレイヤー自身に怨念のデバフ効果を付与する。その後、それぞれ50%の確率で衰弱の呪い、回復効果逆転の呪い、嫉妬のデバフ効果を付与する』
これって……。
「どう? 私達が撤退しかけてた理由、なんとなくわかってもらえたと思うけど……」
コクコク、と私はリリーナさんに頷き返す。
確かに、こんなのが続くなら、進もうかどうしようか躊躇してしまうのもわかる気がする。
しかも、ネット上に出回っている攻略情報とは明らかに異なる状況だ。様子見のために出直そうと考えるのは当たり前のこと。
「それでも、私達は先に進むことにしたんだけど……」
この先は、また私達自身の目で見るべき、と言外に促されて、私は警戒しながら先に進んでいった。
――と。
「待って、紫のSPが至る所にある」
再び背後からなーの声。
どうやら、紫のSPがこの先に多く配置されているらしい。
早速なー達にSPの対処を任せようとしたが、どうやらそうはうまくいかないようだ。
「やっぱり、敵の襲撃が多すぎるわね。的確にこちらの狙いをくじいてくるわ」
「……そうだ。もしかしたら……」
周囲の状況を改めて確認する。
城郭ということもあり、高い壁に囲まれた城郭内。その壁は、いたるところに穴――狭間が開けられている特徴的な壁だ。
そう、狭間である。
つまり、この紫のSPの内容から察するに、そのトラップの概要は――
「みんな、こっち!」
「え、お姉ちゃん?!」
「おいおい、そっちは袋小路じゃなかったか?」
「うん。ほら、少し離れたところに壁も見えるじゃない」
皆はそういうけど、私の狙いはその少し手前――櫓の中に入るための、隠し扉だ。
「いいから、こっちに来て!」
「お姉ちゃん!? あぁ、もう……待ってよ」
なーが、やれやれと言わんばかりに私を追ってくる。
その後ろから、どうかしたのかといわんばかりにリリーナさん達も追ってくる。
それをしり目に確認しながら、私は入口付近の北側の櫓を目指して駆け抜ける。
なーやヌコ丸さんが追いつけるように若干遅めに走っているから、二人はすぐに私に追いついてきた。
「まったく、SPがいっぱい仕掛けられてるって言ったじゃないか」
「こっちも例外じゃないみたいだね。でも……幾分か、少ない?」
「やっぱりそう? だとしたら、こっちに来るのがやっぱり正解なのかも」
どういうこと、と嘯くなーに、私は自身のマップ情報を開示した。
「これは……壁かと思ってたけど、中に空洞……通路がある?」
「これは渡櫓よ。あそこにある櫓と、あっちにある櫓をつないでいるの。ほら、私達が入ってきた櫓門。あの上を通って、反対側の櫓に回れるの」
「なるほど……考えてみれば、壁には穴が開いているし、城郭内の紫のSPはどれも桟橋に遭った『怨霊の狙撃』だったな」
「つまり、私達が櫓の中に入ってしまえば、その中を通っている間はワナ地獄からは解放されるってわけか」
わかってもらえたようで何より。
説明している間にも私達は歩いており、あと少しで目的の扉がある突き当りに到着しようというところ。
「SPは……うん、ないかな」
「あ……あった、扉だね。こんな入り組んだところにあったなんて……ぱっと見じゃわからなかったわけだ」
「私の場合は、初めて来たときに運よく櫓から出てきた足軽幽霊と戦闘になった経緯があったからね」
逆に言えば、それがなければ私も気が付かなかった可能性が……いや、もしかしたら見づらい箇所に敵がいないかどうか確かめるために、奥の方までのぞき込んでたかもしれないし、そうなったら結局見つけてたかもしれないけど。
初めにリリーナさんが扉に耳を押し当てる。
【かくれんぼ】という初期取得可能な第0スキルがあるらしく、それから派生した【聞き耳】スキルで、閉ざされた空間の外側からある程度内部の状況を調べることができるらしい。
「中には三体くらいの敵……【察知】や【直感】の情報とも一致するし、多分間違いないと思う。罠は、大丈夫そうかな」
「それはよかった。……そう言うのができると便利だね。……私も習得してみようかな」
「器用貧乏になるからやめた方がいいよ、シナジー的な意味じゃなくて本当の意味で」
まぁ、確かにそれはそうか。
ともあれ、中が比較的安全と分かれば、これはもう中に入らない選択肢はない。
もふもりさんと頷き合って、私達はいっせーので櫓の中に押し入った。
【かくれんぼ】第0スキル
建物の扉や壁などに耳を押し当てることで、中の様子をうかがうことができる。
様々な隠密行動の隠密効果にボーナス。
ご連絡
Pixiv版のとは違う展開にしているのですが、その改稿済みのストックがなくなったため、明日からは数日おきの投稿になります。




