ルナティカさんと会話
一夜明けて、作ったポーションを早速ルナティカさんのもとへと売り渡しに行く。
作ったのは、常備する分を覗いて応急ポーションばかりなので、私が持っていても仕方なし。
可能な限り、売ろうと思っている。
「や。待ってたよ。なーちゃんから連絡をもらったけど、かなり効果が高いポーション売ってくれるんだって?」
「はい。シナジー効果の【製薬技術向上I】っていうのが発生して、品質ランクが付くようになりまして……。ルナティカさんなら知ってると思いますけど」
「ん~、シナジー効果のことについては私も攻略サイトとか掲示板とかの、もろもろのサイトで目にしてるから存在自体は知ってたし、【調合】と【薬剤の心得】もすでに情報屋の人達がすでに検証済みでアップされてたからねぇ。まぁ、そうじゃなくても、私はすでに【製薬の心得】は手に入れてたから知ってたと思うけど」
まさか【薬剤の心得】に上位スキルが実装されていたとは私も驚いたよ、とルナティカさんはしみじみとそう語るのであった。
「んで、エアルさんは、ポーションを売ってくれるってことでいいのかな?」
「あ、はい。そうです。えっと、まとまった量なんですけど、大丈夫ですか?」
「うんうん、平気平気。在庫はいくらあっても問題ないからね。ジャンジャン売っちゃってよ」
「それじゃあ……」
私は、昨日作ったばかりのポーションをトレード画面に載せていく。
ルナティカさんは、次々に追加されていくポーションの一つ一つをタップして、その詳細を吟味していた。
「ん~……?」
「ルナティカさん、どうかしたの?」
「あぁ、いやね。……エアルさん、ポーション作りって、結構頻度高くやってたりするの? 数百本とかまとめて量産してたり?」
「へ? いえ、普通に、まだ百本くらいしか作ってませんけど……」
エマニノ周辺で採集した薬草も大体それくらいだったしね。
時間は昨日の午後、3時からのログインだったとはいえ、十分時間があったし、他にすることも考えてなかったのでそれだけの量を作ることができたのだ。
「ん~、だよね……でも、それにしては、やけに一部のポーションの出来が良すぎるというか……私も、【調合技術の心得】とかのワンランク上のスキルを持っていても、たまにふつうランクが混ざるって言うのに……」
あー、そういえば【叡智】や【直感】、【感知】、【察知】の四つのスキルによるシナジー効果のことは、なーにすらまだ伝えてなかったっけ。
それなら、なー経由でも伝わってないはずで、ルナティカさんが首を傾げるのにも納得できる。
なにせ、私が作ったポーションは、ポーション作りに欠かせない生産系スキルに加えて【叡智】【直感】、そしてスキルシナジーによってさらに多数のスキルからのボーナスを得るに至っているのだから。
どう考えても、発生しすぎている。
これでは、普通に高品質ポーションが市場に氾濫することになってしまってもおかしくないレベルにまでなってしまっているかもしれない。
正直に言った方がよさそうだね。私一人で扱うには、ちょっと大きすぎるもん。
「その、ちょっと内緒話したいんですけど、できます……?」
「…………? わかった。プライベートスペースに案内するから、ついてきて。……っと、そういえばまだエアルさんとはフレンド登録してなかったね。それじゃ、まずは……」
ルナティカさんは、私が声のトーンを落としたことで何か事情があると察したのだろう。
眉をひそめて、私の求めに応じてくれた。
ルナティカさんに説明されるとおりに、フレンド登録の申請を許諾して、彼女の何かしらのメニュー操作を待ってから、私は彼女の案内の元、店のバックスペースへと移動した。
ちなみになーは招待されていないせいか、一人だけ置いてけぼり。
ごめんねなー、あとでちゃんと説明するから待ってて。
「さて、それじゃあ話を聞かせてもらおっかな。内緒話って、何かな?」
「えっと、まずは私のスキルを見てください……」
そう言って、私は所有しているスキルの一覧をルナティカさんに見せた。
第0スキル
(【霊体26】【死霊21】)
【刀剣21】【二刀の心得19】【蹴り3】【受け流しの心得15】【魔法の心得16】【服17】【薬剤の心得19】【サバイバルの心得30】【叡智の心得25】【食の心得14】【住の心得33】
第1スキル
(【守護霊8】)
【短剣13】【製薬の心得7】【薬学10】【察知17】【感知18】【釣り6】【魔法の才能10】【調合9】【料理4】【食材の知識6】【合成4】【鍛冶8】【叡智10】【直感8】【読解6】
第2スキル
無効化中
【生への執着1】
発動中のスキルシナジー
【魔法剣】【製薬技術】【調味・調薬技術】【錬金術の片鱗】【知識と経験の価値】
「うわぁ……すごっ…………」
「そうですよね。これ、すごいですよね」
「うん。はっきり言って、すごすぎ。まず、【調合】と【料理】を同時に習得する人なんて、趣味で料理する人でもなければ絶対にしないだろうし、これだけでまずは驚きだよ。普通なら、どちらかに焦点絞ると思うし。【製薬の心得】やシナジー効果の【製薬技術向上I】、【調理技術向上I】が発見されたから、その風潮は余計に強くなりそうだしね」
なるほど。
全部習得しようとすれば、その分器用貧乏になるかもしれない。それを恐れて、片方だけの習得にとどめる人は多いんだ。
「加えて、【器用貧乏】っていうマイナスの効果を持つシナジーまである始末だしね」
うわぁ、実際にそんなのが出てきたりとかしてるんだ……。
広告動画に乗っているのがちらっと出ていたらしいが、これについては公式サイトできちんと詳細が載っているらしい。
あとできちんと発動条件確かめとかないと。
「あとは……こっちの【知識と経験の価値】。これが、とんでもなくすごい働きしてるよね」
「あはは……やっぱりですか」
「うん。ほら、ここよく見て」
ルナティカさんに示されたのは、【知識と経験の価値】の説明書きの一文、『関連スキルの基礎補正値に加算補正値を与える』という部分。
少し前にも触れたけど、これは端的に言えば『ある特定の行動を行うことでレベルが上がる可能性があるスキル』と言い換えることもできる。
具体例を挙げれば、料理をしたらなぜか【食の心得】だけじゃなく、本来達成値ボーナスが発生しないはずの【住の心得】までほんのわずかに成長していた、というような現象のことだ。
これらを踏まえて、改めて知識の価値の説明文を読んでみれば――
「この一文によれば、【知識と経験の価値】は、本来補正がないはずのスキルであっても、関連性がある限りは補正を与えるスキルに変えてしまうという特殊効果ということになるわ」
これを強力といわずになんというのか、と改めて実感させられてしまう。
「まとめるとエアルさんの場合、私よりも圧倒的に補正を与えるが多いということになるわね」
そして、その最終的な補正も、おそらくはルナティカさんの現状を軽く超える程度には、上回ってしまっているということなのだろう。
これは、すごいことに気づいてしまったということなのではないだろうか。
そんなことを思っていると、それに気づいたのかルナティカさんは苦笑気味にこう言ってきた。
「これ、現時点だと確かなアドバンテージになるのは確かだと思う。一応言っとくと、【叡智の心得】って、ちょっとどころかかなり不遇なスキルだし。習得する人がいたとしても、スキルポイントの相談になりそうだしね」
確かに、【叡智の心得】が各方面に及ぼす補正は、カバー範囲が広い代わりに非常に効果が薄いと言われているし、実際にその通りだったりする。
そもそもの補正率が低い第0スキルの中でもとりわけ低い部類に入るらしく、取得する人はかなり少ない部類に入るだろうとのことだった。
加えて、【直感】スキルも実は習得方法は複数通りあり、【発見】と【察知】に加え、【サバイバルの心得】からの派生の一つである【採取】か【狩猟】を習得すれば習得可能になるのだとか。
前提の一つとなっている【発見】自体、私の記憶が正しければ【サバイバルの心得】から通常派生するものだったと思うし、私がやったみたいな【叡智】を前提条件とする方法だと、【叡智】の前提条件である【叡智の心得】分のコストが無駄になってしまうことになる。
唯一の救いといえば、【叡智の心得】を持っていれば未識別の素材や道具などの鑑定や、フィールドに設置されたSPの調査にあたり、必要なスキルレベルが緩和されるという点だろう。
が、そのスキルレベルの不足も時間が解決してしまう。
確かに、それだと取得する人は少なさそうだ。
SPの調査にしたって、探索に必要なスキルをきちんと育て上げてさえいれば、スキルレベル不足で解明できない、なんて事態に遭うようなことはないんだろうし。
まして、スキルポイントは有限なのだから、なおさらである。
「……まぁ、確かに、スキルポイントに関しては特に納得できます」
「でしょ~。だからさ、私としてはそのシナジーも欲しいところではあるんだけど、スキルポイントの話になるとちょ~っと差し控えたくなっちゃうのよ。多分、この先も上位になるにつれて必要なスキルポイントは加速度的に増えそうだし? そもそもそのシナジー、【叡智の心得】を初期習得したからこそできた早期発現みたいな文言があるし、私は真似できそうにないかなぁ」
あ~、その問題は確かにある。
次の階級のスキルがどれくらいのポイントを必要とするのか、私はまだ知らないけど、ある程度は残しておかないと、成長が遅れちゃいそうだし。
「んで、どうする? 掲示板に情報乗っけとく?」
「ん~、パスで。そのうち、誰かが気づいた時にでも載せれば」
「おっけ。それじゃあ、話も済んだことだし、店舗スペースに戻ろっか」
エアルさんのポーションの買い取り、やらないとだしね、と茶目っ気に笑いながら、ルナティカさんは店舗スペースへと戻っていった。
それに続いて私も売り場に戻ると、そこでは、なーが売り子になって来店したプレイヤーに可愛がられている光景が見られた。
やっぱり可愛いなぁ、なーは。
「あ、お姉ちゃんおかえりー。結局、どんな話だったの? 私にも聞かせてもらえる?」
「うん、あとで……夕食の時にね」
「わかった。ここじゃ話せないんだよね……」
ちら、とルナティカさんの方をみながらなーに聞かれて、私はこくり、と頷く。
さすがに、この情報を流してしまっては、せっかくつかんだ私のアドバンテージが揺らいでしまう。
私達の後に始めたプレイヤーたちや、他のプレイヤーたちが後でこれに気づくかもしれないけど、それまで約束されたアドバンテージくらいは、享受したかった。
「それじゃ、遅くなっちゃったけど、エアルちゃんのポーション、買っちゃうわね。ん~、さっきもみたけど、やっぱり標準買い取り値基準で考えてもかなりの高級品だなぁ……。少なくとも、これだけで今の状況だと1万近くなっちゃうかも?」
「そんなにですか!?」
「うん。それに、これほどのポーションともなると、さすがに今は未だ出回ってないから、色付けておかないといけないし……うん、おおよそ定価の2倍はいけるかな……」
「……ぼってはいませんよね、ソレ」
さすがにぼったくり商売相手に卸すのはやだよ?
「ぼってないって。流通具合を考えての値段だと仮定しての査定だから気にしないでいいよ」
「それなら、いいんですけど」
「ん、よろしい。それじゃあ、代金の一万Gね」
「ありがとうございます」
どうしよう。
すごく売れすぎるんだけど。これ、夢じゃないよね……?
「いやいや。私としても、高品質のポーションはありがたいからね。がっつりバトってる連中のタンクなんか、もう私が今作れる最高品質のポーションでも足りないって言ってくるしさ」
「はぁ~……そうなんですか」
「まぁ、そういう人達はHPあってなんぼだから、わからないでもないんですけど、ね……」
「いやはや、正式サービスで最初に特製より上のやつを作ってくるプレイヤーは、多分なーちゃんなんだろうなぁ、と思ってたんだけど……思わぬ尖兵がいたものだねぇ。まさか、エアルさんが先に持ってくるとは思ってもみなかったよ」
「私の場合は、ランダム抽選によるスキルから派生しただけだったので、本当にたまたまだったんですけどね……」
「ほんとだね……。まぁ、【叡智の心得】でも持っていれば自由に解体ができるようになる、って言う時点で、何かあるかな、とは思ってたんだけど……。これは、とんでもない爆弾が眠っていたものだよ、ほんとに」
本当にこれは爆弾だよ。
少なくとも、このシナジー効果があれば、早晩生産活動で失敗するなどということはなくなるだろう。
ゲーム初心者の私でも、あんなポーションが出来上がってしまうくらいなんだ。
慎重に扱わないといけないことだけは、確かな話だろう。
※なお、【直感】スキルは内部的には同名のスキルが2つあるが、何らかのスキルや職業、シナジー効果などの条件に設定されていた場合はその違いは無視される、という設定です。
シナジー効果情報
【錬金術の片鱗】
前提スキル:【叡智】+【直感】+【合成】+(【調合】または【製薬の心得】)
アレンジレシピを適用したアイテムの合成時、アレンジレシピ適用の維持が可能になる。
評価点は移動平均となり、一つ投入するごとに平均値で再評価されるが、必ずベースアイテムとして選択したものが最初に投入されたアイテムとして扱われる。
印はベースアイテムの固有印・追加印、および素材の固有印のみ合成対象となる。
【知識と経験の価値】
前提スキル:【叡智】+【直感】+【察知】+【感知】
※特殊条件:シナジー効果/生産技術系発現数:3以上(条件達成)
※特殊条件:【叡智の心得】【サバイバルの心得】初期習得でスキルランク条件緩和(条件達成)
アイテム生産時、関連スキルに対し、該当行為に対応した追加加算補正値を与える。
この追加加算補正値は、【叡智】【直感】【察知】【感知】及びこれらのスキルから派生するスキルのレベルに比例する
【器用貧乏n】
前提スキル:なし
※特殊条件1:第nランクのスキルが(25-4n)個以上有効になっている。第0スキルではこの効果は発動しない
(隠し条件:※特殊条件2:第n段階の【叡智の心得】ツリーに属するスキルを習得時、同一ランクの【器用貧乏】特殊条件1の最終値に+5。この条件は達成後に開示される。)
第n段階のスキルのうち、有効になっているスキルすべてのスキルレベルと成長速度が効果発動中、30%ダウン。この効果は、特殊条件1および特殊条件2を合わせた数値を1個超えるごとに5%上昇する。
(マスクデータ:【知識と経験の価値】発動時、この効果の上限は20%ダウンに再設定される)




