新要素、シナジー効果
夕食後、私はなーと兄さんと一緒に、三人でアナザーフロンティアにログインした。
兄さんも一緒にいる理由は、兄さんに剣を譲渡、もとい売り渡すためである。
「ほぅ、これがお前が初めて打った剣か。なかなかの出来だな」
「ほんと? それはよかった」
「ああ。振り心地も申し分ない。代金は……これくらいでいいか?」
「うん、いいよ。ありがとう兄さん」
「こちらこそ助かる。これで、今よりも強い敵といい勝負ができそうだ」
兄さんはそれで満足したのか、ほくほく顔で早速試し斬りをしてくると街の外に向かっていく。
それを見送ってから、私はこの日のプレイを終了した。
そして、さらに次ぐ日。
今日からは、エマニノの周辺で素材を集めながら、せっせと武器やポーションを作り続けてより質の良いアイテムを自給自足できるようにする予定だ。
ポーションについては、常備している分以上はルナティカさんのもとに売りに行くことにした。
ちなみにこの案、なーからの発案である。
曰く、ルナティカさんのメイン商材はポーション類なので、とにかく数が重要になるとのこと。
そのため、いくらあっても多すぎることはなく、金欠なプレイヤーのために委託販売なんかも積極的に受け入れているらしい。
なーが料理の委託販売をしているのも、そういった事情も絡んでいるんだとか。
そんなわけで、私もたくさんの薬草類をエマニノ周辺の草原でかき集めて、湖畔でポーションを作ろうとなったのだ。
なお、傍らではなーが釣りに挑戦している。
「ん~、エマニノに来た初日以来だなぁ、ポーション作るの」
「うん? やり方忘れちゃった?」
「ん~ん。ただ、数日振りだしちょっと不安になっただけ」
それに、実際のところHPを回復する応急ポーションなど、作るのはこれが初めてだったりする。
なので、うまくできるかどうか余計に不安を感じている。
とはいえ、やらないことには始まらない。
私はとりあえず、まずは薬草を湯に投入して、沸騰直前を維持して数分間煮てみた。
マナポーションの時も、ベースにした素材はマナグラスという野草で、同じようにしてベースの液剤を作っていた。今回も、それを参考にした形だ。
すると、出来上がったのは――
「ん~?」
『特製』応急ポーション? 修正値は、+3となっている。
【特製応急ポーション+3 道具:薬品 耐久:1/1】 予想査定額130G
HP回復:基400+120、HP自然回復速度-70%(20m+3m)
若干のアレンジにより、それなりに効果が期待できる応急ポーション。飲んだその場でHPを回復できる。さらに、自己治癒力を高める効果もそれなりに期待できる。
合成すると、一般品と同じものに成分が調整されてしまうため、注意が必要。
霊的生命体が作ったポーションのためか、肉体を持たない物でも問題なく使用できる。
[強化上限:2/10]
[固有印:霊媒、HP回復促進・速1]
〈霊媒〉肉体が無い者でも使用できる。
〈HP回復促進・速1〉HP回復促進・中よりも速い速度でHPが回復するようになる。この効果は、より速い速度のものが最優先される。
[合成印:追加可能数5]
う~ん? 薬品、てなってるのは、多分、昨日のアップデートの微調整によるものだよね、多分。この前までは『消耗品』ってなってたし。より細分化されたってことなのかな。
んで、気になるのはその少し前の、道具の名前のところ。
この間作ったポーションには、特製、なんて売り文句はついてなかったよね。
一体、何が原因なんだろう。
私は一旦作業を中断して、その理由をいろいろ考えてみた。
最初に疑ったのは、素材や調合工程。
でも、これはありえないはずだ。
なぜなら、先ほども触れた通り今回と同じ方法で、マナポーションをすでに作ったことがあるからだ。
その時と同じ方法、まったく変えていない方法なのにこれが付くというのは……。
もしかして、作り方が違う? ううん、でも例えば、今試した方法がマナポーション以上に、応急ポーションに対してマッチした作り方だったとしても、修正値がより高くなるだけでいいはずだ。
事実、応急ポーションの回復量が、修正値を加味しても通常のものよりも多くなりすぎているという疑問もある。
それらを説明するのに、作り方では説明がつかなかった。
では、他に理由はあるだろうか。
じっくり考えて、やがて私の手が止まっていることに気づいたなーも巻き込んだ結果。
なーから、スキルについて指摘があった。
「この前作った時と比べて、何かスキルに変化でもあった?」
「さぁ? あの時とは……あっ、そういえば【薬学】と【製薬の心得】はマナポーション作りを一頻りやり終えた後に取ったんだったっけ」
「それだよきっと! 取った時にちゃんと確認したの?」
「ごめん、なんとなく流れで取っちゃったから、よく確認してなかった……」
「まったくもう……」
なーにすごくあきれられた。うぅ……ジト目まで向けられたぁ。
「それじゃ、今からでも遅くないから、一緒に確認しよっか」
「うん」
スキル画面を操作して、【薬学】と【製薬の心得】を確認していく。
まずは、【薬学】から。
こっちは、薬品系の道具を使ったときの効果が高くなる。つまり、【薬剤の心得】と同じ効果。
効果はほぼ同等、いや少しだけこちらの方が補正率・補正の成長率が高いけど、効果自体は【薬剤の心得】と同系統だ。
となると……作った道具が(いい意味で)おかしくなったのは【製薬の心得】ということになりそう。
しかし、スキルの詳細を見てみても、【製薬の心得】については【調合】スキルと効果がほぼ同じようなことが書かれている。できたアイテムの評価が大々的に変わるようなことは、書かれていなかった。
なら、原因はこれというわけでもなさそうだ。
じゃあ一体何が原因なんだ、と思いながらさらにスクロールできるようになっている、今現在のスキル画面をスクロールしていくと。
――あ。原因、こんなわかりやすいところに書かれてたじゃん。
意外にも、スキル画面のトップにその原因はしっかりと記載されていた。
ただ、スクロールが足りなかっただけで。
肝心の原因の方だが、実は先日のアップデートで実装された『スキルシナジー』という特殊効果が、すでにいくつか発動条件を満たしていたらしく、それが今回の結果を招いたらしい。
具体的には、【製薬の心得】【調合】の二つがその発動条件となるスキルに該当していたようで、【シナジー効果:製薬技術向上I】が発現していたのだ。
これにより、【製薬の心得】や【調合】スキルによる薬品系の生産工程においてアレンジレシピの適用が解禁され、それに伴って判定基準の切り替えも行われるという。
ありていに言えば、手作り、などと料理と同じような売り文句みたいなのが付いたのは、その効果によるものだった。
このシナジー効果が発動している間は、料理を作った時と同じようにランク分けがされるようになり、料理と変わらない段階評価へと切り替わる。
ちなみにシナジー効果の詳細画面には各ランクの大体の効果倍率も説明されていて、失敗作は50%、ふつうはシナジー効果発生前と同様の100%。これが特製以降になっていくと、50%ずつ上昇していくとのことだった。
つまり、○○謹製――『エアル・ウィロア謹製』までいくと、修正値なしでも3倍の効果を発揮することになる。
そのほか、補正値の付き方や料理のそれに準ずるが、修正値によるボーナスは薬品類の修正値補正が適用される、と書かれていた。まぁ、そこに関してはなーに聞くのが手っ取り早いね。
あと、意外なことに【料理】と【調合】でも、同様の化学反応が起こっていた。発言したのは【シナジー効果:調味・調薬技術】という効果で、【食の心得】と【料理】スキルがポーションなどの作成に、【住の心得】と【調合】が料理などの作成に大きく影響を及ぼす、というもの。
つまり、この二つのシナジー効果の働きによって、先ほどのような現象が起きたというわけだ。
「すごそうな効果だね……持っている人は、まだそれほど多くなさそうだけど」
「あはは……私は【住の心得】自体が、初期設定の時に余剰枠の抽選で選ばれた奴だったから、本当に棚ぼたみたいな感じなんだけどね」
そうじゃなくても、スキルシナジー自体がつい先日実装されたばかりなのだ。
そういった意味でも、たまたま所持していたスキルが偶然にもその条件を満たしていただけなのだし、本当に棚からぼた餅としか言いようがない。
「そうだったんだっけ。……まぁ、そんなわけだから、生産職でそのスキルを取る人はそれほどいないと思うんだ」
「将来の可能性とか」
「β版の時の評判が根強く残ってるし、生産職が取るくらいだったら、他の生産職にとって有用なスキルを取っちゃうよ。他のゲームで生産職やってた人なら特に。まぁ、そのうちお姉ちゃんと同じように、【薬剤の心得】と【住の心得】を両方とも取得する人も出てくるだろうし、情報が出回るのも時間の問題だと思うけどね」
なーは、肩をすくめながら、最後にそう締めくくった。
ふぅん……。そんなものなのかな。割と、併せて取る人いそうなものだと思うんだけどな……。
あと、このことでようやく気付いたのだけれど、アイテムの作成に関しては、この二つのスキル以外にも補正が働いているスキルがあったのを忘れてた。
【住の心得】と【製薬の心得】に、【薬学】はまぁ、わかるとして、【叡智の心得】が意外なところで微妙な効果を発揮していたことがすっぽり頭から抜けていた。これも、微々たるものだけどもしかしたら評価の上昇につながっているのかもしれない。
【叡智の心得】の効果は、まずゲーム内で文献などを読めるようになる、という効果がある他、生産活動や様々な探索行為にも達成値に補正がかかるという効果があった。ただ、その補正に関しては浅く広くなので、あってないようなものだと言われているのだけど。
なるほど、道理で本とかを読んでいないのにそれなりの速さで成長していると思ったら、これが原因だったんだ。
うっかりしてた。
う~ん……あ、そうだ。どうせだし、スキルを確認ついでに【叡智の心得】の上位スキルが解禁されていたので、それを確認して、有用そうなら習得しとこうかな。
上位スキルは……なるほど、【読解の心得】と【叡智】、それから【直感】ね。
【読解の心得】はいい意味でも悪い意味でも【叡智の心得】の完全上位互換。ただ、どちらかといえば読解能力に重きが向いているっぽい?
一方で【叡智】と【直感】は両方とも生産活動や様々な探索行為への補助特化になっている。
探索行為の補助は、【感知】や【察知】と同じ部類に入るだろう。
このうち、【直感】は【感知】と【察知】、そして【叡智】を習得していることが条件。
習得条件が少し厳しいだけに、そのボーナスも強力で、先ほど発見したばかりの要素『スキルシナジー』もしっかりと乗っかっている。
シナジーの条件と効果は、生産活動をしている時、熟練度が入るだけでボーナスは発揮されていなかったスキルに対し、追加加算補正値というものを与えるようになるという効果。
つまり、例えば【薬学】なんかも調合中にボーナスが入るようになるというわけだ。
さらに、シナジー効果はこれら以外にも発生しているらしい。
これは期待が持てそうだ。
さて、一通りの疑問が解決したので、私は三度ポーション作りに挑む。
うわっ、なにこれ、【叡智】と【直感】を加えただけで、一気に『エアル・ウィロア印』ができちゃったんだけど。
シナジー効果、ヤバくない?
【エアル・ウィロア印の応急ポーション+4 道具:薬品 耐久:1/1】 価格175G
HP回復:基500+200 HP自然回復速度-83%(20m+4m)
レシピのアレンジにより、かなり高い効果が期待できる応急ポーション。飲んだその場でHPを回復できる。
合成すると、一般品と同じものに成分が調整されてしまうため、注意が必要。
霊的生命体が作ったポーションのためか、肉体を持たない物でも問題なく使用できる。
強化上限:4/10
[固有印:霊媒、HP回復促進・急3]
〈霊媒〉肉体が無い者でも使用できる。
〈HP回復促進・急3〉HP回復促進・速よりも速い速度でHPが回復するようになる。この効果は、より速い速度のものが最優先される。
[合成印:追加可能数5]
【エアル・ウィロア印のマナポーション+5 道具:薬品 耐久:1/1】 価格187G
MP回復:基50+25 MP自然回復速度-84%(20m+5m)
レシピのアレンジにより、かなり高い効果が期待できる応急ポーション。飲んだその場でMPを回復できる。
合成すると、一般品と同じものに成分が調整されてしまうため、注意が必要。
霊的生命体が作ったポーションのためか、肉体を持たない物でも問題なく使用できる。
強化上限:5/10
[固有印:霊媒]
〈霊媒〉肉体が無い者でも使用できる。
〈MP回復促進・急4〉MP回復促進・速よりも速い速度でMPが回復するようになる。この効果は、より速い速度のものが最優先される。
[合成印:追加可能数5]
しかも、何度作っても、少なくとも+2以上のものしか出てこない。
シナジー効果、怖すぎるって!
この後、私は調子に乗ってポーションを作り続け、気が付いたらその総数は30本近くにも及んでいた。
その背後で、今日何度目になるのか、なーが呆れたようなため息をついたことに、私は一切気付かなかった。
【製薬技術向上I】
前提スキル:調合+製薬の心得
薬剤系の消耗品や中間素材を作成時、アレンジレシピより品質ランクの適用が解禁される。
品質ランクは料理と同様6段階で、
失敗作<ふつう(アイテム名のみ表示)<手作り<特製<(PN)印<(PN)謹製
となる。
合成を行った場合、合成後の品質ランクはふつうで固定となる。
【調味・調薬技術】
前提スキル:料理+(調合または製薬の心得)
薬品系アイテム生産時、達成値に【料理】スキルツリーに属するスキルによるボーナスを得る。基点は【料理】スキルとなり、下位スキルは参照されない。
料理系アイテム生産時、達成値に【調合】スキルツリーまたは【製薬の心得】スキルツリーのいずれかに属するスキルによるボーナスを得る。両方所有している場合は【調合】スキルツリーのスキルが優先して選択される。基点は【調合】(【製薬の心得】)となり、下位スキルは参照されない。




