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アナザーフロンティア  作者: シュナじろう
亡霊達の将
27/37

ローグライクとアップデート

明日投降予定の話に合わせた改稿を行いました。


 オストリス・ゴーストのクエストをクリアした翌日。

 スマートフォンのメールにアナザーフロンティアからのお知らせが来ていたのでそれを開いてみたところ、内容は今日は午後からアップデート作業のためサービスが利用できないとのことだった。

 私は夏休みの宿題は前半に終わらせてしまう派なので、今の時期は午前中から遊ぶようなことはしない。

 ゆえにこの話は寝耳に水で、午後の予定がまるっと開いてしまった。

 残りの時間をどう過ごすか少し迷ったが、少し考えて、とりあえず少しでもゲームになれるために、アナザーフロンティアとは全く別の、オフラインでも遊べるゲームをやってみることにした。

 ちなみにお小遣いはそれなりにある。

 それに繁忙期には母さんのお店の手伝いをすることもあるのだが、そういったときにはアルバイト料ももらったりなんかもしている。

 なので、お金に関してはそれほど気にしてはいなかった。

 というか、今まで風柳流一辺倒だったからね。お小遣い、たまる一方でほとんど使ったことがなかったんだよね。

 買ったとしても、文庫本くらいだったし。

 だから、今回は自分のお小遣いで初めての、四桁台のお買い物だったりする。

「ん~……そうだなぁ……。これなんかは、面白そうかなぁ……でも、こっちのはキャラクターがなんかかわいいし……こっちのも面白そう……」

 悩んだ結果、私が購入してみたのは、黄色いダチョウみたいな鳥がモンスターの跋扈する迷宮を探索していくという、人ではないキャラクターを主人公としたゲームだった。

 ローグライクゲームというジャンルのゲームで、倒れたらその時所持していたアイテムをすべて失ってしまう、というところにアナザーフロンティアと若干の類似性を感じて、やってみようと思った次第である。

 中でも私が選んだこのゲームは、主人公が倒れてもレベルはキープされるらしいので、その他のローグライク以上にアナザーフロンティアに近いと感じたからだ。

 さっそく購入、ダウンロードしてゲームを起動してみる。

 すると、いくつかロゴが出てきた後、タイトル画面に移行すると同時に作品のメインテーマと思われるBGMが流れ始めた。

 ――♪――♪♪

「ふふっ」

 その陽気なミュージックに、私は思わず軽く噴き出してしまい、テンションがやや上がり気味になってしまった。

 と、そこへ。

 配信を終えて、中途半端な時間だったのかゲームを切り上げてログアウトしてきたらしい奈緒が、私の部屋にやってきた。

 ちなみに本日奈緒がプレイしていたゲームはほのぼのFarmプラネットというVRMMOシミュレーションゲーム。

 名前の通り、農業や酪農を題材とした、ほのぼのとした雰囲気がウリのシミュレーションゲームらしい。

「お姉ちゃん、なんかの音楽でもダウンロードしたの? 珍しいね?」

「ううん、ダウンロードしたのは音楽じゃなくてゲームだよ。VRじゃない、普通の。現実にいるままできるやつ」

「えっ!? お姉ちゃんがゲーム!? ……明日は小太刀が降るのかな…………」

「……ちょっとだけ、見てみたい光景かも」

 などという条件はさておいて。

 まぁ、確かに私が自分からゲームを買うなんて、これまででは考えられなかったことだものね。

 これも多分、アナザーフロンティアの影響なのかもしれないね。

「どんなの落としたの?」

「見てみる? これなんだけど」

「どれどれ……あ~、懐かし~。私の配信デビュー作だ」

「へぇ、奈緒はこれで配信デビューしたんだ」

「ローグとしてはデスペナルティが緩いし、何よりキャラクターが可愛いからね。受けもよかったよ」

「そうだったんだ」

 ちなみに、今でもたまにこれをやることがあるらしい。

 ……奈緒って、ゲーマーなんだからすでにやり込んでそうな気がしないでもないんだけど。

 RTA? さすがにそこまでは私は付き合いきれないなぁ。

 ちなみに奈緒、とあるローグライクゲームで過去に記録を出したことがあるらしい。

 素潜り、という知らない単語が出て来たけど、どんな意味なんだろうか。

「えっと、奈緒。わかんない言葉出て来たんだけど、素潜りって? 普通に水の中に潜るとか、そう言うのじゃないのはわかるんだけど……」

「ん~と、簡単に言うと、アイテムやゲームマネーを一切持たないで、難易度や不可逆性の高いダンジョンなんかに潜る行為のこと、かな」

 なんでも、よくあるローグライクの縛りプレイの一種で、これができるようになればローグライクマニアの仲間入りらしい。

 私にはちょっと、無理そう。

 ほどほどに、できる範囲でプレイしてればそれでいっかな。

 それから、奈緒はローグライクでよくある事故やなんかを語ってくれた。

 例えば、自爆してこちらのHPに大打撃を与えてくるモンスターがいたりだとか、そういったモンスターに取り囲まれているときに自爆されるとどんどん誘爆していって、あっという間にHP0に追い込まれてしまうだとか。

 例えば、強制的にこちらの位置をかえさせてくるタイプの敵によって、ワナのある所に飛ばされたりとか、ほかのモンスターにぶつけられたりとか。

 そうして、ただでさえピンチだった状況が、ワナやそのモンスターの成長などによってより危険な状態に陥ってしまったりとか。

 あとは、持っている食糧をうかつに使用できなくしてしまうような技を使ってくるモンスターの存在とか。

 とにかく、いろいろ興味を引く話を聞くことができた。

 なかでも特に興味を引いたのが、モンスターハウスというローグライクならではのシステム。

「モンスターハウス? なにそれ」

「書いて字の如く、モンスター達の巣窟。部屋いっぱいにモンスターがわんさか。ついでに、床にはアイテムとかワナとかもわんさか」

「へぇ……なんか、ハイリスクハイリターンだね、それって」

「うん。実際そうなんだけど、装備が整っていればむしろお宝部屋にしかならないんだよね」

 ローグライクにおいては、ノーマルプレイではむしろそれも醍醐味の一つだと奈緒は鼻息を荒くしながら語った。

 まぁ、難関を突破した後にご褒美が待っているとなれば、それはもう、突っ込んでしまいそうになるのはわかる気はする。

 わかる気はするんだけど……。

 なんだろうか。こう…………嫌な予感がするのは、私だけ、なのかな……?

「?」

 自分でも、顔を引きつらせているであろうことがわかるのだが、奈緒は私が妙な胸騒ぎを覚えたことが甚だ疑問らしく、きょとんとして首を傾げるのであった。


 そうして、その日の夜。

 夕食の席で、食卓を囲いながらテレビを見ていた私達に、その情報は唐突にもたらされた。

「朱音に倣って、帰ってきてから少しだけ情報収集にあたっていたのだが……なんでも、本日の午後はアップデートでアナザーフロンティアにはログインできなかったようだな」

「そうなんだよね。私も少し気になってるんだけど……。どんな内容なのかな」

「ん~? 明後日午前零時の、DL版解禁に向けた準備と、あとそれに先駆けた追加要素の実装だって。なんか、元々DL版解禁に合わせての実装を予定してたらしいよ?」

「そうなんだ……」

 ちなみに、パッケージ版は第二陣が九月に発売予定らしい。

 DL版は、パッケージ版よりも安いものの、実は機能がある程度制限されているらしく、パッケージ版と同様の環境で遊ぶには追加課金をしてアンロックしないといけないらしい。

 ちなみにアンロックをすべて解除すると、パッケージ版とまったく同じ値段になるようになっているんだとか。

 なにそれ。どうせなら、全部丸っとひっくるめてパッケージ版と同じ内容にしてしまえばいいと思うのに。

 ロックされている機能は例えば奈緒がたまにやるらしい料理スキルのスキル補正オフ機能や、釣りのスキル補正オフ機能など、完全なお遊び要素やマニア向け機能が中心らしい。

 あとは称号。これもDL版では閲覧やPR反映機能にロックがかかっているみたいだけど、実質的にはコレクトアイテムとしての機能しか持ってなくて、入手したところで自慢話以外の何の役にも立たないものなので、別にアンロックしなくてもゲームの進行自体には支障がない。

 ただ、倒した敵の解体など、一部パッケージ版とアンロックした人限定の機能などもあり、そうした面からすれば差別化は一応はできているそうだ。

「それから、昼間お姉ちゃんに語ったあれ。モンスターハウス。あれと似たようなのが実装されるんだって。名前もそのままモンスターハウスなんだって」

「……胸騒ぎの正体はこれだったんだぁ…………」

 まだ昼間落としたゲームでは、モンスターハウスなんてものには遭遇してないんだけど……なんとなく、そのアナフロ版モンスターハウスとやらを発見した時の光景が思い浮かんでしまう。


 ――大量の足軽幽霊たちがひしめき合っている、城郭の一角。

 ――そこに踏み込んだ途端、サッと私の方に振り向く足軽たち。

 ――あたふたしているうちに囲まれて……あぁっ、そんなところに足封じ系の罠なんてっ!

 ――ダァン、ダァン、ヒュ……トスッ、ザシュッ……。

 ――そして復活しては倒されて、復活しては倒されて……そのまま見事に死に戻り。


 そんな光景が、一瞬のうちに鮮明によぎってしまった。

「……古城を探索するときは、気を付けていかないと……」

「あ~……詳しくは知らないけど、お城の城郭っていうだけで、なんか狭そうだもんね、そこ。足軽幽霊だっけ。そいつらのモンハウとか……なんか、ゴースト系のモンスターのモンハウってだけでゾッとしちゃうよ……」

「できればお目にかかりたくないものだな、それは……」

 うん、私も切実にそう思うよ……。

 とにかく、どんな感じになるのかはわからないけど、実装されてしまったものは仕方がない。

 気を引き締めて探索をしないといけなくなるだろう。

「あと、スキルの方で早速追加要素が入るってさ。公式動画を見る限り、どうにもリリースに間に合わせようとして結局間に合わずじまいで、このタイミングになっちゃったんだって」

「へぇ~……いったいどんなのなんだろ」

「かなりすごいよ~? その名も【スキルシナジー】って言うんだって」

 スキルシナジー、か。

 ニュアンスからすると、いくつかのスキルの組み合わせで、強力な相乗効果が発生する、みたいな感じの要素なのかな。

「そんな感じの説明になってたね。動画のサンプル映像だと、第一スキルの【魔法の才能】スキルと、同じく第一スキルの【弓の心得】や【銃の心得】の組み合わせで【遠隔魔法】っていう効果になるんだって。名指しや指差しで魔法の使用対象をロックオンできるみたい」

「へぇ。ノーコンな人でも安心して魔法が撃てるようになるわけか」

「強力な例もあったな。武器系の第1スキルと【魔法の才能】で、飛ぶ斬撃が放てるようになるらしい。飛距離や威力は二つのスキルレベルによって決まるらしいが、見た感じ期待が持てる威力のようだった」

「それは……興味あるかも」

 スキルシナジーかぁ。

 探してみるのもいいかもしれないな。

 私がそのことに思いをはせていると、なーが最後に、と一度言葉を切ってから話をつづけた。

「装備品類の合成の仕様に調整と、アイテム全般の表示方法に微調整が入るって」

「合成の仕様の調整?」

 表示方法の微調整っていうのもわからないけど、気になると言えば装備品類の合成の仕様調整。

 一体、どう変わるんだろう。

「なんでも、装備品類には今後、ランクが設定されるんだって。合成素材にする装備品がベースのランクより2低いと素材の修正値が半減。3以上低いと、素材の修正値は除外扱いなるんだってさ」

「へぇ。つまり、入手のしやすい武器を量産して修正値を稼いで合成、という手段では攻撃力を稼稼ぎにくく」

「それなりの労力とコストがかかるようになったってことだね」

 なるほど……考えてみれば、当たり前の調整かもしれないね。

 このままじゃ、新しい武器を手に入れて、速攻で限界まで強化すれば、大した努力をすることなく最高峰の武器になってしまうし。

 私もその恩恵にあずかったことがあったし、あれの便利さといったらバランス崩壊もいいところだったので、まぁ妥当ではあるかもしれない。

「代わりに、無償で装備品の修正値が+1されるアイテムが追加されるらしいから、修正値を稼ぎたいならそれを集めることになるんじゃないか?」

「なるほどねぇ」

 それがどんなアイテムになるのかはわからないけど、取り合いになり得るということだけは確かだろう。

 あとの変更点は、表示方法の微調整らしい。

 こっちはどう変わるんだろ。表示方法の調整、だから装備品類以外には実際の効果とか使用には影響ないんだよね?

「表示方法の調整は、いくつかあるみたいだけど、大々的に告知されたのは強化上限とかの項目が追加されるってところかな。ルナティカさんも言ってた通り、修正値の上限自体は最初からあったんだけど、その上限の具体的な数字が分からなくって困る、って言う声が多かったんだって。まぁ、私もその要望を送った一人なんだけど」

 あはは……。

 それは、まぁ、確かに。普通そうなるよねぇ……。

 締めにほうじ茶を飲んでごちそうさますると、先に食べ終わっていたらしい奈緒が、更なる情報を投下してきた。

「あとは、不具合の修正と……あぁ、サービス開始記念と、DL版解禁記念に、近いうちに公式イベントが行われるんだって。これも注目だね」

「ふぅん……?」

 イベントの内容自体は、後日公開となるそうだが、すでに攻略サイトのコメント欄含む、各種掲示板はどこもその話題で沸騰中らしい。

 ありがちなケースだと、こうしたVRMMORPGの場合はキャンプや無人島生活などのサバイバル系や、モンスター達の集団から特定の街を守る防衛戦系などが挙げられるそうだ。

 他のプレイヤーたちも、その線で準備を進めているらしいけど……。

「まぁ、私達、パッケージ第1陣組もまだ正式サービスが開始してから一週間くらいしか経ってないんだし、それほど差は開かないと思うけど……それでも、一週間の差を考慮しての内容にはなると思うかな……」

「そっか……」

 正直、私的にはあまり難しくないイベントだといいな、と切に思う。

 こっちはゲーム初心者なんだし、あまりコアなルールのイベントじゃ、戸惑って楽しむどころじゃなくなっちゃうだろうし。

「まぁ、私達は焦らないで、ゆっくり楽しもうよ」

「うん……」

 そうだね。焦ってやったところで、できることもできなくなっちゃうようでは仕方ないし。

 落ち着いて、私にできる範囲で頑張ればいいんだよね。

 でも、できればトップになってみたいなぁ、という野心があるのは、どうしても否定できないんだけど。


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