果樹園の調査と呪われた領域
前回のあらすじ三行
街中の捜査活動
墓地の鎮魂樹の実は取っちゃダメ?
ゴーストだから無問題
翌日。
ゲーム内ではまだ明るい時間にログインした私達は、早速果樹園に行ってみることにした。
「ん~、農業区は南の方だね……」
「農業区……というと、農業をやるプレイヤーもいるの?」
「どうなんだろうね。種は売ってるんだけど、肝心の薬草とか野菜とかがなる種はないんだよね~。全部食材には使えないようなお花ばかりで……」
「そうなんだ……」
一体、それらの種はどこにあるんだろうね。
農業は私はできるかどうかわからないから手を出さないけど。
農業区にたどり着いたが、薬草などの種が扱われていないとあってか、やはり売地となっている農用地が目立っていた。
いくらか、花を育てているらしいプレイヤーもいたが、おそらくは完全に趣味の範疇だろう。
「まぁ、ああいうふうに趣味に全力でひた走るのも、VRMMOの醍醐味だからね……」
「この前も、湖畔で釣りをしていた人が何人もいたもんね」
「あの中には、料理人系のプレイヤーも多いと思うけどね。あ、そうだ。私、魚類を獲るために【サバイバルの心得】を新しくとったんだ」
「そうなんだ……」
「うん……だけど、午前中に試してみたけど、何も釣れなかった……」
「そ、そうだったんだ……」
まぁ、釣りは時の運もあるからね……。
「あ。あんなところで釣りしてる人もいるよ」
「溜め池で……釣れるのかなぁ」
「さぁ?」
何がいるのかさえ分からないしね……。
……あ。なんかの魚が釣れてる。HPゲージが表示されてるし、敵扱いか。
「釣った獲物、モンスター扱いなの?」
「そうみたいだね。私も初めて知った」
「なーも知らなかったんだ……」
つまり、あれはモンスターだったと。
どうやら普通に締めればそのまましめてアイテムに変えてしまえるらしく、釣った魚を締めてストレージにしまい込むプレイヤーを横目に、私達は一件目の果樹園を営んでいる家にやってきた。
「ごめんくださ~い」
「はーい……おや、可愛いお嬢さんだな。いらっしゃい、何かうちにご用かね?」
なーの声に反応して出てきた農夫さんは、なーのことしか見ない。
そっか、今はまだ日が出てる時間だもんね。私は見えなくて当然か。
反応してくれないとやることもないので、私はなーに果樹園の方を見てくると断わりを入れて、果樹園へと移動した。
情報にあった通り、そこには鎮魂樹がたくさん植えられていた。
それに、どうやら『鎮魂樹の実』の説明の通り、害虫を寄せ集めてしまう性質があるらしく、沢山の虫も見かけた。
「あ。カブトムシだ……それにあっちの気にはクワガタムシもいる」
試しにカブトムシを捕まえてみると、それは、『ハイトカブトムシ』という種類だった。
ハイトって言う名前、結構聞くよね……。
ハイト自体、ハイトで聞いた話を聞く限りだとすでに亡国になっている雰囲気だし。
それでもなおハイトの名がここまで出てくるってことは、なにかそこに曰くがありそうな気がしないでもない。
多分、バックストーリー的にここは昔、ハイト国領だったんだろうね。
「ん~、それにしても香りが濃いなぁ」
うん、確かに。美味しそうな果物の匂いでお腹が空いてきちゃいそうだよ。
ちなみに鎮魂樹の実は、形的にはリンゴが一番近い。
病人食として扱われる、とは聞いたけど、確かに栄養の補給手段としては期待できそうではある。
「ゲームだからなのかな。なんか、季節感はガン無視されてるけど」
よく、この時期に食べ頃の色合いのリンゴが成っているものだと思う。
現実ではあり得ないことだ。
しばらく果樹園を見て回っていると、やがて話を聞き終わったらしいなーが私のもとへやってきた。
その表情から、どうやら進展があったようだ。
「お姉ちゃん、話聞いてきたよ」
「どうだった?」
「この果樹園では、鳥のゴーストらしいのが出ているかまではわからないけど、連日夜中に鳥の鳴き声がするのは確かだって」
「墓場じゃないけど、やっぱり鎮魂樹があるからなのかな」
「そうなのかな」
「私は、特に収穫はなかったかな……」
「そっか……」
でも、なーが少し来る前にまたクエストの進行度が上がったから、多分ここではこれでいいんだと思う。
多分、もう次の果樹園に行っても問題はないだろう。
そう判断した私達は、最後の調査ポイントになっている、もう片方の鎮魂樹の果樹園へと赴いた。
すると、そこで私達を待ち受けていたのは――
「うわ……なに、これ……」
「今、ゲーム内でも一応は昼間、なんだよね……」
現在、ゲーム内時刻は17時半になろうというところ。
だいぶ日も傾いて来ているものの、夏の日の入りは遅い。
もうしばらくは、まだ日照時間は続くだろう。
にもかかわらず、私達の目の前に広がる光景は、まるで夜なのではないかというほどに薄暗い、闇に閉ざされた領域だった。
「なんかすごく不気味な感じなんだけど……まだ明るいのに、ゴースト系の敵が出てきてもおかしくなさそうな不気味な感じもするし……」
「え?」
私は、思わずなーの方を見てしまう。
なーは今、明るいと言っていたよね。
つまり、この薄暗い光景は、私だけにしか見えていないの……?
もしかして、この暗さって、もしかして――。
嫌な予感に駆られた私は、そこで思わずもう一度、隣を歩くなーの方をじぃっと見る。
すると、なーの体に薄い靄のようなものが纏わりついているのが見て取れて、慌てて私はインジケーターでなーの今の状態異常を確認した。
結果は――思った通り。
なーは、知らずのうちに何かしらの『呪い』を受けていた。
「なー、呪いにかかってるよ!」
「え? 何にかかってるって?」
「だから、呪いだって!」
「うん? ごめん、よく聞き取れないや……もしかして、妨害されてるのかな……?」
妨害……言われてみれば、『呪い』らしいマークは、なーのHPゲージの下に二つ付いていた。
それに、その二つのマーク、それぞれドクロマークがついているのは共通しているけど、一緒に描かれているマークに違いがある。
つまり、何かしらの効果を二種類受けている、ということ。
しかも、その内の一つは呪いにかかってしまっていることを気付かれないようにするという、認識を妨害するような、かなり性質が悪い効果の可能性が高い。
他者から言われても聞き取れずに認識できない、ということは、とてもまずいのではないだろうか。
ほかに何か方法はないか、とほんの少し考えて、私は次にメッセンジャーアプリでなーにスクショ付きでメッセージを送ってみることにした。
すると、そこでようやっと、なーは気づいてくれた。
「え、うそ! 私、呪いにかかってたの!? うわぁ、本当だ……しかもこれ、状態異常表示を隠すのと、多分時間内に何とかしないと死に戻りする奴の二つもかかってる……」
「そうだったの!? 早くなんとかしないと……」
「うん……あ、そうだ! お姉ちゃん!」
「あ、そっか」
なーが手を差し出してきて、そこで思い出し、そして気付く。
私は、呪いなどのデバフ効果の魔力を吸い取ることで、デバフ効果を無効化できるということを。
そして、魔力を吸い取るということはつまり、装備品のそれらに対してそうだったように、他者がすでにかかっている呪いなども、接触することで解除できるのではないか――と。
なーの手をきゅっ、と握りしめて、解除されて……と、祈りながらもインジケーターを再確認するも――解除、されない…………?
「そんな……解除、されない……」
「…………どうやら、お姉ちゃんのスキル、装備品やアイテムには効果があっても、他のプレイヤーには効果がないみたいだね……」
これでは、もう本当に時間が来て、なーが死に戻りするのを待つしかないではないか……。
ううん、諦めるのは早い。
これまでのクエストの流れからすると、この黒い靄は、クエストにかかわりのあるものだと思う。
それは、あの神殿の共同墓地や、南の墓地で遭遇したしぶといゴーストがカウンターで放つ黒い煙がその傍証になる。
だとすれば――この靄を晴らせば、あるいは。
「まだ時間はある。これがクエストによるものだったとすれば、クエストをクリアすれば、解除される可能性だってあるかもしれない!」
「うん、そうだね。どうしようかなんて、考えてる暇はないよね!」
私の方では、細かくは確認できなかったけど、なーにかけられた呪いは、少なくともゲーム内時間で5日間は大丈夫とのことだった。
それなら大丈夫。ゲーム内でそれだけあれば、現実時間でだって3日間くらいはあるのだから。
「とりあえず、果樹園を管理している人の家に急ごう!」
私達は、マップを参考に、急いでそのマーカーが示す場所を目指した。
ただ――これだけ呪いの靄――いや、これはもはや霧だ。これだけ濃密な呪いの霧がかかっているとなると、当然ゴースト系のモンスターも引き寄せられてくるらしく。
「うそぉ……昼間なのに、ゴースト系のモンスターがいるなんて……」
「なーにはやっぱり、この霧見えてないんだね……」
「霧!? 何か私に見えてないものがあるの!?」
「うん。とっても黒い霧。これのお陰で、私にはこの辺り一帯だけ夜の時と同じ視界になっちゃってる」
「うわぁ、マジかぁ……」
どうやら、私の持つスキルの何かしらの効果に、こうした呪いの霧を可視化できるものが含まれているらしい。
文章上には出てきていないとなると、隠された効果みたいなものなんだろう。あるいは副次的効果とも言うべきか。
「あいつら、墓場で遭遇したしぶといやつと同じモンスター名だ……」
墓場で遭遇したゴースト系モンスター――カースド・ゴースト。
呪われたゴースト、その名前にぴったりの状況ではないだろうか、今のこの環境からすれば。
とはいえ、今はもうクエストもほぼ大詰め、いつボスが登場してもおかしくないとすらいえる、となーは言うし、できれば万全の状態は維持しておきたい。
「あぁっ、そんな、今度は装備品にまで……」
「どうしたの?」
「装備品に、〈嫉妬〉印が付いちゃってたの……それにこの印の効果……これじゃ、このままだと素寒貧になっちゃうよ……。この杖も法衣も、全部なくなっちゃう……」
「ちょっと触らせて? …………やっぱり、解除されない。ううん、正確には、私が手をはなしたそばから新しく付与されちゃう。多分、やっぱりこの霧のせいだと思う」
私の装備品を確認してみる。
私のも、同じ状況になっていたのはいた。
けど――私が手放さなければ――地面に置いたりなどして、所持品から除外しなければ、やはり〈嫉妬〉印は解除されたままの状態が維持されるけど。
なんにせよ、これで余計になーが死に戻りするわけにはいかなくなってしまった。
なにがなんでも、このクエストのボスには勝たないといけない。じゃないと、なーはゲーム内で本当の意味で素寒貧になってしまうことになるのだから。
「とりあえず、先を急ごう」
「うん。そうだね」
そうして、私達が小走りになって目的の農家の家までやってきた――のだが。
私達をそこで出迎えたのは、この果樹園を営んでいる農家の人ではなく――
「聖騎士、さん? 何でここに」
「貴君らか。我々も、調査を進めていく段階で、ここの果樹園が怪しいと突き止めたので、まずは話を、と思ってここに来たのだがな――これを見るといいだろう。其の方が話が早い」
そう言って、昨日振りの女性聖騎士に示されたのは、もう動くこともなくなった、農夫の屍。
「死体の状態からして、ふむ……数日は経過しているであろうな。君たちが本件の調査に踏み切った時期を考えても、君たちが遅かった、というわけではあるまい。そう気を落とすことはないだろう」
「はい…………」
「問題なのは、だ。そちらにいるなー嬢についてだ。……貴君、この瘴気に中てられたな?」
「あ、はい、確かに……」
「聖騎士歴がそれなりの私ですら、この霧の中を歩いてくるのは骨が折れたからな……。鳥のゴーストに魂を汚染された他のゴーストどもが集まったせいだな。個々の力は弱くとも、相乗効果でこれほどの規模になってしまっている」
これでは、もととなった鳥のモンスターのゴーストを倒したところで、この辺りの呪いが解除されるとは限らないと言われ、私達は希望を絶たれた思いになってしまった。
「案ずるな。少なくともその程度の呪いなら、神殿に来てもらえればたやすく解除できるだろう」
それを聞いて、今度は二人揃ってほっとしたのは言うまでもない。
「それで、貴君らはどうする? 私は一旦神殿に戻り、この場一体を浄化するための準備をしてくるが」
「……そうですね。とりあえず、引き受けたからには、鳥のゴーストとは、戦ってみようと思います」
「そうか……無理はしないようにな。では、健闘を祈る」
そう言って、聖騎士は私達が来た道から去っていった。
直後、クエストの調査パートも終了し、あとはクエストボスを倒すだけとなったことも通知が入る。
さて。残された私たちは、どうしようか。
――そんなの、決まっている。
「とりあえず、この辺りの果樹園を調べてみる?」
「そうだね……」
すでに枯れ木の集まりと化したこの果樹園の調査を開始した。




