神殿でできること
前回のあらすじ三行
エマニノ観光
なーの友達
出店ルートもあり?
神殿の敷地内は、現実の神社と同じように、どことなく清らかと言うか、背筋が自然とピンとなってしまうような、そんな厳かな空気に包まれていた。
「なんか……似てないけど、神社みたい」
「あはは、まぁ実際に神様を祭るための場所だしね……まぁ、言いたいことはわかるけど」
私の言葉を聞いて、なーはからからと笑いながら中へと入っていった。
内部では、おそらくはこのゲームの世界を見守っているのだろう神様をかたどったであろう神像が祀られており、NPCがちらほらと参拝している。
「ほら。あの中央にある男神像。あの像の前でお祈りすると、転職ができるんだよ」
「転職……変異はどうやってやるんだろう? 転職と同じで、街中の宗教施設でできるって聞いたんだけど……」
「βの時だと、その隣にある、女神像の前で祈るとできたみたいだけど……」
なーに誘われて、私はその女神像の前までやってきた。
台座には、【生命と力の神 レミーユ】と書かれている。
「生命と力の神……」
まさに、種族の変更をするにふさわしいと言える神様だ。
試しに、私はその神像の前で、二礼二拍手一礼の順に神社式の拝礼をおこなってみた。
――どこまでいけるかはわかりませんが、ひとまずは今の種族でできるところまで行ってみようと思います。見守っていてください、と。
すると――頭上から青白い光に照らされて、耳にささやくような言葉が聞こえてきた。
――守護霊エアル。あなたの祈り、確かに届きました。そのひたむきな思いを称え、あなたに【ひたむきな心】の称号を授けましょう。
流麗な、女性の声に聞こえた。
雰囲気的に、神々しさこそ感じはしたんだけど……どこかで、聞いたことがあるような気がするのは私の気のせいなのかな……。
まぁ、気にしても仕方ないか。
それより、なんか称号をもらっちゃったんだけど、ちょろくないかな。
とりあえず、もらった称号を確認してみる。
称号は、持っていても効果も何もない、ただのアピール要素以外にはコレクトアイテム的な要素しか持ち合わせていない。
つまり完全に趣味の範疇の要素なんだけど……。さすがに、不意打ちに近い感じで取得してしまったからには確認してみたくはなる。
えっと……なになに。【ひたむきな心】は……特定の物事において、エラい地位のNPCや神像の前に誓いを立てるなどすると取得できる、その人の目的への一途さを称えるための称号、かぁ。
そのまんまだね、ほんとに。
私はそんなつもりで祈ったわけじゃないんだけどなぁ。
――では、雑談はそこそこに、そろそろ本題へと移りましょう。守護霊エアル。ここは、現在の生き方に不満のある者が集いし場所。そしてその者に新しい生き方を我々が提案し、進歩を促すための場所。あなたもみなと同じように導いて差し上げましょう。
雑談だったんだ、さっきの。
アレで終わりかと思った。そんな雰囲気だったし。
まぁ、青白いスポットライトは消えてないから、おかしくはないんだけどさ。
――さて。あなたの現状を踏まえると、私があなたに提案できる新しい生き方の例としては、このようなものがありますね。どれか気になるものはありますか?
その女神様――レミーユ? の言葉の直後に、私の目の前には二つの種族が表示された。
進化前のゴーストか、現在の守護霊。無論、守護霊の方は『現在選択中』と付記されていて、選択できなくなっているので、実質ゴーストしか選択できないんだけど。
ちなみにレミーユ曰く、ここに表示されないものについては、レミーユの気まぐれ(=ランダム)で、進化、転職の条件を達していない種族や職業になるための条件のヒントがいくつか、少なくとも未達成の種族・職業それぞれで一つは与えられるらしい。
試しに、ここにない新しい進化先について聞いてみたら、早速ヒントをもらえた。
――一つの存在に対して与えられる我々への祈りの機会は、その者にとっての一日につき一度まで。あなたにとっての明日に、またお会いしましょう。
そして、その言葉を最後に、レミーユの言葉は聞こえなくなった。
私は、耳にレミーユの言葉の残滓を残しながらその場を後にし、少し離れたところで見学していたなーのところへと戻った。
「なんか、見てた感じ少し面白いことがあったみたいだね?」
「え? なんでわかったの?」
「だって、ちょっと動きが変だったもん、お姉ちゃん」
「そ、そうだったの……」
一体、どんな動きをしていたのか気になるなぁ……うぅ、恥ずかしい……。
「なんか、今の種族で頑張る敵な思いを込めて祈ったら、称号をもらったの」
「へぇ。やっぱり祈り方で神様の対応も変わるんだね。最近のAIはすごいなぁ」
「思ったことがそのまま伝わっちゃうみたいで、まさに神様って言う感じだったなぁ……」
「うん、そうだよねぇ……。んで、他に何か収穫はあった?」
「うーん……生きた人と行動を共にし、守護の誓いを守り続けると吉。あえてゴーストに戻り、ゴーストとして成長すると吉。特定のエリアに現実時間で三日三晩居座り続けると吉。悪行を重ねると吉。動き回ると吉。もらえたヒントを意訳するとこんな感じかな……」
「異なる種族への進化方法かな。『吉』っていうのが、原則そこまででヒント一つ分ってことだとすると、もらえ方についてはあまり職業の方と変わらないね」
「転職も同じ感じなんだ」
「うん、そうだね。大体似たようなもんだよ」
ちなみに私の勝手な憶測だけど、一つ目のヒントはそのまま守護霊の正当な進化先で、このままなーと一緒にゲームを続ければいずれ到達するんじゃないかなっていうのが感想だ。ただ、可能性を見出すにはほかにも行動を起こす必要があり、というレミーユの言葉が気になる。
やっぱり、他にも条件を満たす必要がある、ってことかな。
残りの進化先は……なんだろ。二つ目は、同じ場所に居座るって、言い換えるとその場所に固執しなさいってことでしょ?
その場所に固執……というか、囚われて動けない霊ならあるけど……まさか、本当に地縛霊への進化方法だったりしないよね?
進化した場所から離れるほど弱くなるとか、ちょっとどころかかなり大変なことになると思うから絶対に避けよう。
それから最後のは多分、掲示板の人のだよね。確か……通りすがりの浮遊霊さん!
「それは身バレを防ぐためのHNだから、実際のアカウントネームとはほとんど関係ないからね、お姉ちゃん」
「あ、そういえばそうだったね……」
一応、確認のために『昇格/進化・転職/変異』のウインドウを開いてみる。
あ、『??????』の表記だけど、新しい進化先が表示されている。
多分、さっきヒントをもらった進化先だね。実際に発見に至るまでは名前が伏せられるってことかな。
でも、タップしても特に反応はないから、ヒントはあれしかもらえないということなんだろう。
まぁ、さっきレミーユに祈ったように、今は守護霊で行けるところまで行きたいから、他の種族のことはどうだっていいんだけどね。
「神殿に関しては、こんなところかな……」
「うん、大体わかった。進化後の種族に不満があったら、とにかくここに来ればいいんだよね?」
「そういうこと。期待してその職業や種族になってみたら、実際には大外れだったっていうことはよくあることだし、よくお世話になると思うから、かなり重要な設備だね」
「種族を変えたら、気に入らなかった種族固有スキルは無効化しておくのを忘れないようにしないと」
「あはは……βの時に、それを忘れて悔しい思いをしたプレイヤーがいたみたいだから、くれぐれも気をつけようね」
うん、本当に。
【生への執着】みたいにデメリットのあるスキルだったら、大変だもんね。
それから、なーと私は神殿内の施設を見て回った。
神殿内の施設として、正式版で真新しいものはほとんどないらしく、β版の時と同じくここは本当に転職や変異をするための場所らしかった。
唯一違う点があるとすれば、こじんまりとした食事処が開設されていた点だろう。
売られているのは、どれも『ふつう』ランクの料理ばかり。
テイクアウトできるように、木箱に収められた料理はどれもおいしそうに見えるけど、これでもランクとしては普通らしい。
変えないほどの金額ではなく、貧乏な私でも買える程度の価格設定だったので一つ買って食べてみたけど……うん。普通に現実の、コンビニで売ってるサンドイッチだよね。
うぅ……これ以上のサンドイッチ、私作れる自信ないよぅ……。
今になって、ちょっと自信なくなってきたんだけど……と、そう思っていたら、なーから喝を入れられた。
うん、そうだね。むしろ、これがふつうだっていうなら、まずはこれを超えられるようにならないと。
ちなみに、なーはすでにここで売ってる料理の味は大体覚えたそうで、またここで売っているものよりはおいしいものが作れる、と胸を張って言っていた。
まぁ、実際にその通りだとは思うけどね。
その後は、サンドイッチをなーと食べながら、神殿内をゆったりと歩いて回る。
ちなみにそのサンドイッチ、私が作った濃縮マナポーションよりも基礎回復量が多かった。
まぁ、なーがいうには、料理系は回復にせよ補助効果にせよ、効果がポーション類よりも圧倒的に優れている反面、FPという制約条件が厳しく設定されているので多用はできない。
やはり、リソース回復という一点に絞るなら、ポーションは外せないようだ。
閑話休題。
自由に見て回れる区画は、この食事処や、先ほどの『祈祷の間』以外にもいろいろとあり、それらの場所では夜番の神官さん達といろいろ話をすることができた。
どうやら、神官さん達は神官にふさわしく、霊視をすることができるらしいことが話して分かった。
私のことを霊体のみの参拝客と出合い頭に言われて驚き、さらに神官のほとんどは霊視することができるということも知らされて、二度驚いた。
まぁ、考えてみればおかしいことでもないんだけど。
「でも、これで昼間にここに来ても問題ないって言うことが分かったから、安心できるよ」
「そう? それならよかった。まぁ……どちらにしろ、お祈りするだけなら種族なんて関係ないことなんだけどね」
「…………言われてみれば、そうだったね」
それを考えてみれば、神官さんがゴースト系のプレイヤーを昼間でも見ることができるかどうかは、些細な問題なのかもしれなかった。
※エアル視点で確認された現在の種族ツリーと開示済み進化条件
守護霊(選択中)
進化条件・1 ゴースト種族Lv.10以上(済)
進化条件・2 【霊体】スキルLv.10以上(済)
進化条件・3 【生への執着】スキルLv.9以下 or ???(済)
進化条件・4 現在EP+10以上(済)
????(A)
進化条件・1 ???
進化条件・2 ???
進化条件・3 【守護霊】スキルLv.XX-A以上
進化条件・4 ???
ハイ・ゴースト(初期開示種族)
進化条件・1 ゴースト種族Lv.10以上(済)
進化条件・2 【死霊】スキルLv.10以上
????(B)
進化条件 ゴースト種族Lv.XX-B以上
????(C)
進化条件・1 ゴースト種族Lv.10以上(済)
進化条件・2 同エリア■■滞在時間 現実時間72h以上
進化条件・3 ???
イビル・ゴースト(初期開示種族)
進化条件・1 ゴースト種族Lv.10以上(済)
進化条件・2 【生への執着】スキルLv.10以上
進化条件・3 EP-10以下
???(D)
進化条件1・ゴースト種族Lv.10以上(済)
進化条件2・累計エリア移動回数XX-D回以上
進化条件3・???




