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アナザーフロンティア  作者: シュナじろう
オストリス・ゴースト
16/37

エマニノを観光

前回のあらすじ三行

掲示板デビュー

なーの所持金がすごい

銀行システム実装はよ


 翌日。

 奈緒は、私や兄さんと起きる時間帯が重なった。

 休日でこういう状況の時は、大体ゲームの配信プレイをする予定である可能性が高い。

 事実、今日はその予定日だったらしく、朝食前に端末を立ち上げて色々と準備をしていたようだ。

 直に私も誘われるかもしれないけど、私は別に気にすることもないので、その時が来たら受け容れて一緒に配信プレイをするだけだ。

 今日の午後がその時になるかどうかは、まだわからないけど。

 さて。そんなわけで、今日もやることをやって、昼食後のお楽しみの時間。

 昨日と同じく、なーに一緒にプレイしようと頼まれて、私は二つ返事でこれに同意。

 早速ゲームにログインした私は、夜のエマニノでのスタートになった。

 傍らでは、昨日同じ場所でログアウトしたなーが直後にログインしてきた。

「お姉ちゃん、今日もよろしくね」

「うん、こっちこそよろしくね。……配信は、終わったの?」

「終わったよ。もともと今日は午前中で終わらせる予定だったしね。……そのうち、午後からの配信もやりたいな、とは思ってるんだけど……」

 チラ、と私を見てるのは、やっぱり私に遠慮してのことなんだろうなぁ。

「私は別に気にしないからね。大丈夫、なーは安心して配信やって?」

「うん……」

「あと、配信に出てほしいときも、遠慮なく声かけてね? 配信のことはよくわからないけど、私なりにできる範囲で協力するから」

「本当?」

「うん。だから、気にしないで、せっかくのゲームなんだから、楽しんでやろう?」

「うん!」

 そこでようやっとなーは悩みが解消したらしく、いつも通りの彼女に戻った。

「今日はどうする?」

 私からの問いかけに、なーは少し考えて、

「そう、だね……。昨日は結局、生産活動とか掲示板の閲覧とかでエマニノを見て回らなかったし、今日こそはエマニノを回ってみる? エマニノ観光、みたいな感じで」

「あ、うん。私もそれ、やりたいなって思ってた」

 ハイトの街には、あちらにはあちらで風情のある街並みが味わえたけど、エマニノの街並みもこれはこれでなかなかのものだった。

 昨日は、日が高いうちはそもそもほとんどの人に気づいてもらえなかったのでほぼ素通りだったし、夜は夜で、湖畔で料理や調合の練習と掲示板の閲覧のやりかたを覚えるので時間を取られちゃったけど……。

 今日はログイン時からゲーム内は夜だった。夜間なら、NPCの人たちにも気づいてもらえるだろうから、私でも普通に……できるかどうかはわかんないけど、観光することはできるだろう。

 かくて、なーをガイド役に、私のエマニノ観光は始まったのであった。


 私となーは、まず大半の種族の初期スタート地点となる、エマニノの中央公園にやってきた。

 近所の運動公園にも匹敵するほどの広大な公園には、確かにちらほらとたった今ログインしてきたであろうプレイヤーたちが散見される。

 彼らも、これから探索なりレベル上げなりに出かけるんだろうか。

「リスポーン地点の変更方法はわかる?」

「うん、それくらいなら。そのリスポーン地点の近くにある、水晶体に触れればいいんだよね?」

「そうだよ。エマニノだと公園のいろんなところで光ってるやつが、一番わかりやすい場所かな。ほら、あれとか」

 エマニノはスタート地点という関係上、非常に多くのプレイヤーが集まる場所でもある。

 そのためか、リスポーン地点も公園以外にもいたるところに設置されているという。

「昼過ぎだけあって、ログインしてくる人が多いね」

「そうだね。でも、それ以外には特に特徴もないから、もう次に行ってもいいかもね」

「そう? じゃあ、次お願い」

「任せて! 次は……生産市場がいいかな?」

 名前からして、生産職と呼ばれるプレイヤーたちが集まる市場のような場所のことだろう。

 店を持とうとしているプレイヤーたちの登竜門でもあるのかもしれない。

「ついたよ。ここが生産市場。公園から直接来れるから便利でしょ?」

「うん。ついでに、街に入ってきたときにも通ったけど、西門から入ってきてすぐの通りがそうだったんだね」

 西門からずっと続いているなら、プレイヤー間での売り買いはさぞ便利なことだろう。

「私が料理の委託販売をしてもらっているプレイヤーさんは、もうβからの引継ぎ金も併せてお金が溜まっちゃったから、個店を開いちゃったんだけどね」

「そうなの……? 何をつくってるプレイヤーさん?」

「調合関連だね。ポーションとか、その人の作ったモノは結構人気で、購入制限がついてるくらいなの」

「ふーん……」

 今のところ、私は自給自足できる手立てが見つかったから、それほどその人の世話になることはないかもしれない。けど、覚えておいた方がよさそうかな。

 その内お世話になるかもしれないし。

「なーは、お店を持とうとは思わないの?」

「うーん、持つとしたら、お姉ちゃん次第かなぁ?」

「私? なんで?」

「どうせなら、お姉ちゃんとやりたいなって思ってるから。このゲーム」

 ちなみに、私が配信への参加を断った場合は、その時だけ別行動をするつもりだったという。

 どちらにしろ、基本的には私と行動を共にすることは、なーの中では決まっていた行動だったみたいだ。

「それじゃあ。私も、いっぱい稼げるように頑張らないとだね」

「そうだね。そうだ、お姉ちゃんが作ったポーション、見せてもらうの忘れてた。どれくらいまで言った?」

 あぁ、そういえば見せるの忘れてたっけ。

 私は、なーに合成に合成を重ねた、自信作の濃縮マナポーションを見せてあげた。

 ちなみにその自信作、修正値は『+6』である。

「へぇ、これは大したものだね……。もしかしなくても、【合成】だよね?」

「よくわかったね……って、当たり前か」

「うん。知り合いがそうだからね」

 ちなみに料理は【合成】スキルでは印をつけられないそうだ。

 ちょっとだけ、不便に感じた。


 それから、話の流れによるものなのか、次はなーの案内によってなーの知り合いのポーション屋さん、なー曰くルナティカさんというらしい女性PCのもとへ行くことになった。

 私がゴーストであることは、『霊視』状態でなければ四肢が透けて先っぽが見えなくなるので一目瞭然なので、少し腫れものを触るような接し方をされたけど――なーが守護霊の発見者が私であることを告げると、途端に普通の扱いに変わった。

 やはり、EP減少のペナルティを気にしてのことだったらしい。

 まだ相手にしたことこそないものの、ゴーストのプレイヤーなら、街での買い物は迅速を極めないといけない、というのが生産職の間での評価らしかった。

「まぁ、エアルさんのことは覚えたから、これからは普通に接するから安心してね」

「はい。ありがとうございます」

「ううん、こっちこそごめんね。……それで、エアルさんもやっぱり、ゴースト特有の悩みは抱えてる感じ?」

「MPの回復についてですか? それとも装備ですかね?」

「私が聞いてるのは両方なんだけど……そう、やっぱり、守護霊であっても同じなんだね、そのあたりは」

「まぁ、そのあたり、私はもう仕方ないって割り切ってますから。それに、MPに関してはマナポーションは自給自足することにしましたし、武器は修正値を上げればどうにかなりそうです。防具に関しては……種族固有スキルの方にも期待を寄せてたりします……。マナポーションは、現状では焼け石に水感がぬぐえませんしね……」

 武器同士であれば、分類が違っても合成ができることは、ヘルプには書いてあったので、最悪骨でこん棒っぽいものを作ってそれを合成するという手段もあるだろうし。

 あと、地味に【守護霊】スキルに魔法ダメージ率減少の効果がついていたのがうれしかったりする。

 減少量は1割ほどだけど、【守護霊】スキルのレベルが2になった時に減少割合が微妙に増えたから、成長次第だけどどれくらいまでダメージを減らせるのか少し楽しみだ。

「うん。MPの回復手段についてはともかくとして、自力での解決手段があるのはいいことだね。でも、他のゴースト民のことを考えるとなぁ……」

 やっぱり、そこは気になっちゃうよね。

 私も、なんとなくだけど気になってきてるし。

 こうして夜の街をぶらぶらしてても、エマニノでは全然見かけないし。EPへの影響がないはずのハイトですら、それは変わらなかったから。

 やっぱり、普通の種族にはないデメリットが大きく枷になってるのかな……。

「それに、その様子だとわからないみたいだけど、修正値にも上限があるから、万全って言うわけじゃないんだよねぇ、これが」

「え、そうなんですか!?」

「うん、そうなんだよね……ちなみに、その武器と服は、両方ともNPCの?」

「あ、はい。そうですけど……」

「なら、多分上限は+10ってところかな」

「そう、ですか……」

 修正値の上限があるとは思ってもみなかった。

 でも……そうだとすると、問題はそれほど解決できてはいないみたいだね。

 うーん……悩ましい。

「ちなみに一つ気になってたんだけど、マナポーションについては〈霊媒〉用の『霊核・屑』も自給自足?」

「あ、いえ……それも考えてはいたんですけど、解決したと言いますか必要なくなったと言いますか……」

「?」

「【霊体】スキルが上がったことで、消耗品を作った際に〈霊媒〉効果がもれなく付与されるようになったんですよ」

「あ、そうなんだ。それなら、『霊核・屑』はいらないのかしら」

「いえ……アンデッド系が服用した場合のみ、MP回復効果があるので、用途がないわけではないです」

「あら、そうなの。知らなかったわ」

 そうなんだ。

 もしかして、そのあたりは種族によって表示が異なるのかな?

「ん~……」

 ん? なんかルナティカさんが考えこんでる?

「もし、エアルさんさえよければ、ゴースト系のプレイヤー向けの生産職になったらどうかな」

「ゴースト系の……?」

「そう。ほら、ゴースト系は、専用の街があるんでしょ? で、そこだとEPの減少もないとか……」

「まぁ、ハイトは肩書きからして亡霊の街っていう感じですからね」

 見る分には、本当にTHE・普通の街、といった感じだったんだけど。

 このエマニノの街とは全然違う、和の街なんだけどね。

「あはは、私も掲示板で見たけど、まさにそれっぽい設定だよね。で、その街ならEPの減少もない。ゴースト系のプレイヤーたちもゆっくり買い物ができるし、ゴースト系プレイヤーの活性化にもつながるはずだよ」

 私が……ハイトの街で、お店を……か。

「うーん……考えたこともないですね。というか……私、ゲーム自体、このゲームが初めてなので、どういうふうにプレイするか模索中でして……」

「そっか。まぁ、プレイの仕方なんて、それこそその人次第だからね……。私の今の提案だって、本当にただの提案で、決めるのはエアルちゃん次第なんだし」

 まぁ、選択肢の一つ、程度に考えてもらえたらいいよ、と言われて、私はどう答えていいかもわからないまま、とりあえず、という感じで頷いたのだった。


 ――あ。でも……ハイトの街で店を開くなら、なーとはプレイし辛くなっちゃうよね。


 現状、あそこにはゴースト系以外のプレイヤーが入る方法はないと思うし。

「お姉ちゃん、もし私のことを考えているなら、無理しなくていいからね……? お姉ちゃんは、お姉ちゃんのやり方で楽しんで……?」

 店から退店した私に、なーが横合いからそう声を掛けてきた。

 心配、させちゃったかな。

「なー……うん。ありがとう。でも、私は大丈夫だよ。なーが私と一緒にプレイしたいって言うなら、私はなーと一緒にプレイするから」

 というか、絶対になーと一緒じゃないと詰む気がする。

 あのゴースト二人組以外では、なーしかまだゲーム内での合流がないんだし、どう動けばいいのかすらよくわかってないんだからね。

「まぁ、あれかな。兄さんを見返すのが目下の第一目標だし、お店に関しては可能ならッて感じかな……」

「あはは……そこはブレないね、お姉ちゃん」

「当り前だよ。私だって、やるときはやるんだってこと、しっかり見せないと……」

 じゃないと、いつまでたっても馬鹿にされ続けることになっちゃうもん。

「まぁ、お店開くときは言ってね。私も一緒に経営したいから」

「うん。覚えとく」

「それじゃ、次いこっか」

「そだね。次はどこに行くの?」

 歩きながら、なーに次の目的地を確認する。

 なーは、少し考えてから、ある方角を指さしながら答えた。

「うーんとね……あ、あそこ行こう! エマニノの神殿!」

 なーが指さしたその先にあるのは、なるほど、ここからでもよく見える、それなりの大きさの神殿だった。


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